土星の雲の海に突入するカッシーニのイメージ図。
NASA/JPL-Caltech
- NASAが32億6000万ドルを投じた土星探査機カッシーニがいよいよその最期を迎える。
- 数カ月に及ぶ「グランド・フィナーレ」と呼ばれる最終ミッションは、生命が存在する可能性のある、海を隠し持った土星の衛星を汚染から守るためのものだ。
- カッシーニは、日本時間9月15日午後7時32分に土星の大気圏で燃え尽きる予定。
1997年に打ち上げられ、土星とその数々の衛星のデータを13年間収集し続けてきたカッシーニの長旅も、ついに終わりを迎えようとしている。しかし、科学者たちは最後の最後までカッシーニに探査活動を託し、燃え尽きる寸前までデータ収集を行うつもりだ。
NASAがカッシーニを破壊するのは、その推進力が著しく低下したためだ。カッシーニはこれまで、土星の北極点を覆う六角形をしたジェット気流や、衛星「エンケラドス」の氷に覆われた地表下の(生命が存在する可能性のある)広大な海など、数えきれないほどの発見をしてきた。
土星の衛星「エンケラドス」の隠れた海から吹き出す塩水。
YouTube/NASA
だが、これは新たな問題を生んだ。探査機は地球の微生物にまみれている。
「カッシーニは偉大な発見をしてきた。そして終焉の時が来た」NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)のエンジニアで、カッシーニ・プロジェクトのマネージャー、アール・メイズ(Earl Maize)氏は以前、こう語っていた。「(生命が存在する可能性があるため)カッシーニがエンケラドスに不用意に近づくリスクを残すことはできない」
そこで、カッシーニ・プロジェクトのマネージャーらは2010年、探査機を宇宙空間に放置する代わりに、残った燃料を使い果たし、土星の大気に突入させることを決めた。
そして2017年4月、最後のミッション「グランド・フィナーレ」が始まった。カッシーニは土星と土星の環の間の、まるで鍵穴のように狭い空間を通り抜けながら土星を周回する軌道に乗った。
これまでに通り抜けた回数は22回。そして今日、最後の周回を終え、土星の大気圏に突入、流星のように光を放ちながら消滅する。
「カッシーニは安全に消えていくだろう」メイズ氏は語った。この決断はNASAの惑星防護官らの薦めに基づくものだ。
カッシーニに残された時間はわずかだが、NASAジェット推進研究所の発表に基づき、その最後のスケジュールを振り返ろう。
※以下、日時は全て日本時間。
9月12日午前4時4分:土星最大の衛星タイタンと「お別れのキス」。
土星最大の衛星「タイタン」を観測するカッシーニのイメージ図。
NASA/JPL-Caltech
9月12日午後2時27分:突入前に最も土星から離れた瞬間。
9月13日午前8時56分:「お別れのキス」で撮影した画像を送信。
9月13日~15日:終わりに向けて加速。
9月15日午前4時56分:カッシーニ最後の撮影。
NASA/JPL/Space Science Institute
午前5時22分:ライブ送信が始まり、最後の画像が受信される。
午後12時15分(地球側):カッシーニの最後はオーストラリアが追跡。
オーストラリアの首都キャンベラにあるディープスペースネットワーク(DSN)のアンテナが、最後までカッシーニの信号を追う。
午後4時14分:向きを変え、収集したデータをライブ送信。
午後7時31分:土星の大気圏に突入。その間もアンテナを地球に向け続けるため、スラスターで位置を調整する。
午後7時32分:地球との交信が途絶える。
交信途絶から数秒~数分後:完全に消滅
カッシーニに搭載されている主な機器。
NASA/JPL-Caltech
探査機が速く、深く土星の大気に入り込むにつれ、カッシーニは高温になる。「機体の周辺温度は1分ごとに30~100倍にはね上がる」とNASAは言う。
消滅から1時間23分28秒後:カッシーニ爆発の写真?
オーストラリアのサイディング・スプリング天文台
Wikipedia/Ssopete (CC BY-SA 4.0)
これはカッシーニの死によって生じる光が地球に届くまでの時間だ(NASAによると、土星までの距離は約15億キロメートル)。
ハッブル宇宙望遠鏡なら、カッシーニの最期を観測することができたかもしれない。しかし、条件が合わず、ハッブル宇宙望遠鏡を使った観測はできないとカッシーニ・プロジェクトの科学者で、NASAジェット推進研究所のリンダ・スピルカー(Linda Spilker)氏はBusiness Insiderに語った。
しかし、同氏は南半球の観測所やアマチュア天文家が、一瞬でもその瞬間を捉えることを期待している。
「(条件が厳しく)小さな探査機の最期を捉えることはできないかもしれないが、その価値はある。難しいとは思うが、希望は捨てていない」
(翻訳:Yuta Machida)