アフリカのヘルスケアに投資する日本のファンド——平均寿命急伸で変わる医療ニーズ

アジアやアフリカでファンドを運営するAAIC(Asia Africa Investment & Consulting、東京都港区)が、アフリカのヘルスケアに特化した投資ファンドを立ち上げた。アフリカの医療機関や医療関連の企業に投資し、日本の医療技術をアフリカで展開したい企業を支援する。同社は、アフリカで平均寿命が大幅に伸び、高度な医療のニーズが高まっているとして100億円規模のファンドの組成を目指しており、これまでに20数億円を集めた。

代表の椿進氏(50)は「アフリカの医療や保健の分野はまだまだ援助のイメージが強いが、援助にとどまらず、ビジネスとして持続できる事業を展開する」と話す。

ルワンダの病院外観

ルワンダの首都キガリにあるキング・ファイサル病院の外観。

写真提供:AAIC

死因の変化で高まる高度医療の必要性

アフリカのヘルスケアを巡る状況は急激に変化している。世界保健機関(WHO)の推計によれば、2000年には平均寿命は50.6歳だったが、この15年で大きく伸び、2015年には60歳になった。

死因にも変化が見られる。サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)を含め、開発途上国では感染症が人々の死因の多くを占める。WHOの推計で死因のトップ3を占めるのは、インフルエンザなどによる呼吸器の感染症、HIV/AIDS、下痢症だが、2015年には4位に脳卒中、5位に心疾患が入っている。平均寿命の伸びに伴い、先進国と同様に高度医療のニーズが高まっているが、ニーズに応えられる医療機関や医療従事者は不足している。

アフリカの死因

2015年と2000年のアフリカの死因。濃い青色の脳卒中と心疾患は近年、増加している。

World Health Organization, "Global Health Estimates 2015: 20 leading causes of death by region, 2000 and 2015"を基に作成

スマホで遠隔治療、ドローンで血液輸送も

この点に着目したのがAAICが立ち上げた「アフリカ・ヘルスケア・ファンド」だ。単科・高度医療、ヘルスケア・テック、医療サービス、健康維持・公衆衛生の4分野を投資対象としている。

Africa_Healthcare_Fund

アフリカ・ヘルスケア・ファンドのイメージ図。

制作:小島寛明

①単科・高度医療

ケニアなどサブサハラ・アフリカの主要国では、がん、糖尿病、脳疾患、人工透析など高度医療の需要が高まっており、病院建設やがんセンター、透析センターといった病院に付属する機関の設立を目指す動きも多い。

アンゴラでは、欧米の企業や政府系機関が出資した海外資本の医療機関が設立された事例もある。AAICによれば、この病院では、中核となる医師は世界中から募り、高度医療とともに低所得者層向けの医療サービスも提供しており、出資者に一定のリターンも出ているという。

②ヘルスケア・テック

アフリカの農村では、医師が不足しているため、遠隔医療のニーズが高い。都市から離れた農村で患者がスマートフォンのカメラで口の中を見せ、医師はその画像などを基に処方箋を出し、受診料も携帯電話を通じて支払うといった仕組みだ。道路網の整備が遅れている国で、ドローンで輸血用の血液や薬品を運ぶ取り組みも始まっている。

③医療サービス

農村部では簡易的な健康診断サービスを低価格で提供し、都市部では本格的な健康診断を提供するといった事業への投資を想定している。

④健康維持・公衆衛生

サブサハラ・アフリカでは飲み水が原因で下痢を発症し、死亡する子どもが後を絶たない。アフリカ全体の死因の3位に下痢症が入っている。簡易的な浄水器で安全な飲み水を提供したり、衛生管理を促進する事業なども投資対象としている。

「やっといろんなことが動き始めた」

AAICは、5年ほど前からアフリカへの投資を進めている。2013年にはルワンダでマカダミアナッツを生産する農場を始めた。農場の規模は約300ヘクタール。マカダミアナッツは、本格的な収穫ができるまで10年ほどかかる。「収穫ができるようになるまで、ひたすらキャッシュゼロで耐えるのが、ナッツのビジネスです」(椿氏)という。農場で本格的な収穫ができるようになるまでの間は、近隣の農家からマカダミアナッツを買い取り、加工している。

ナッツ農場

マカダミアナッツの農場。ナッツの木はまだ生育途上だ。

写真提供:AAIC

製品になったマカダミアナッツはルワンダの国内市場に販売するほか、原料としてアメリカに輸出している。椿氏は「世界中で人々が以前より豊かになり、アイスクリーム、チョコレート、シリアルなどに使うナッツの需要は高まっている」と話す。農場にはAAICの日本人スタッフが常駐して経営を担い、現地の人たちも雇用している。

ナッツ農場に加え、ザンビアでメイズ(トウモロコシ)や小麦を生産する約2700ヘクタールの大規模農場や、ケニアの医療機器メーカーなどにも投資している。

サブサハラ・アフリカは、大きな可能性を秘める一方で、実際にビジネスを立ち上げる上では、治安や衛生、政府の汚職などさまざまな課題がある。このため、アフリカ進出に関心があっても、最終的な意思決定まで踏み切れない日本企業は多い。

椿進氏

AAIC代表の椿氏。ボストン・コンサルティンググループ、上場企業の社長や社外取締役を歴任し、2008年にAAICの前身であるパンアジアパートナーズを設立した。

撮影:今村拓馬

第二次大戦後、先進諸国はアフリカ諸国に対し、膨大な額の援助を積み重ねてきた。しかし、官主導のプロジェクトだけでは、一定の成果がでても長続きしないことが多い。

このため近年は、日本政府も自立的なビジネスとして持続しうる事業に力を入れはじめた。HIV/AIDSやエボラ出血熱への対応など、なお官主導の援助が欠かせない分野は多いが、先進国からサブサハラ・アフリカへの資金の流れは援助から投資へと軸足が移りつつある。

最近、日本企業の本気度も高まっていると椿氏は感じている。アフリカ・ヘルスケア・ファンドの目標IRR(内部収益率)は、20%に設定した。

「アフリカはこれから相当おもしろいよ。やっといろんなことが動きはじめた」

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