スターバックスでコーヒーを買えなくてへこんだり、loveの使い方に迷ったり —— 。最前線で働くビジネスパーソンも、日々、仕事では試行錯誤を繰り返している。Business Insider Japanでは、ともにシリコンバレー在住のnoteの連載「決算が読めるようになるノート」でおなじみのシバタナオキさんと、同時通訳者・関谷英里子さんによる対談を実現。2人の赤裸々なエピソードからは、グローバル社会でサバイブする、仕事の極意がみえてくる。
シリコンバレー在住の関谷さん(左)とシバタさん。
「英語よりも大切」の理由
関谷:3年前に(通訳の仕事の傍ら、スタンフォード大学で経営学修士取得のため)シリコンバレーに来た時に、シバタさんとお会いしていろいろお話を伺っていました。
シバタさんのnoteの連載が面白い、と思って読んできたのですが、本にまとまったら、タイトルが「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」。「けんか売ってんのかな?」って(笑)。このタイトルはどういう思いで付けられたのか、ぜひ聞きたいです。
シバタ:英語も大事だと思うんですけど、100人ビジネスパーソンがいたら、決算を読めた方がいい人は限りなく100人に近いと思うんですね。ただ、英語は多くても10人くらいではないかと。
関谷:すごく少ない(笑)。
シバタ:そういう勝手な思い込みと、あとはマーケティング上の理由です。「決算が読めるようになるノート」の連載がこんなにたくさんの人に読んでもらえるなら、広く届けたいと思って本として出すことになりました。ただ、決算の読み方ハウツー本みたいにすると、まちがいなく売れないだろう、と。
最初の僕のアイデアは『日経新聞よりも大切な決算書の読み方』だったんですけど、出版社が日経BPなんですね(笑)。さすがにそれはやめてください、と言われまして。日経新聞がだめなら「英語とMBA」でいこうと。
数字にこだわるシリコンバレーの住人
関谷:シリコンバレーのスタートアップはプライベート(非上場)企業だから、決算書を公開していませんよね。どういうところで、決算書を読むスキルは生きるのでしょうか?
シバタ:スタートアップであれ大企業であれ、ビジネスの型がいくつかあって、型が大きく変わることはそう、ないんですね。もちろん、テクノロジーやサービスは新しくなるけど、ビジネスモデルの型はそんなに新しいものはない。
上場している大企業の決算を読むことで、このスタートアップのマネタイズがまだ分からないけれど、今あるものだとどれに近いか?などを考えられる。守破離の「守」の部分に当たる。既存のものを学ぶと、いろんな新しいものが出てきたときに対応できるようになるんですね。
関谷:起業家や起業したい人も大企業のビジネスモデルを読むことで、自分の今のプロダクトの成長が分かるし、投資家サイドもスタートアップをみることもできる、と。
対談は、新学期直前の、スタンフォード大学で行われた。
シバタ:メルカリは新しいけれど、ビジネスモデル的にはヤフオクやイーベイと同じ。サービスとしては新しいし素晴らしいけれど。ビジネスモデルの型が分かっていると想像しやすかったり、予測しやすかったりとなりますね。
関谷:ちなみにシリコンバレーの人たちは、決算を読んでいるのでしょうか。
シバタ:2種類いますね。スペシャリスト、飛び抜けたエンジニアなんかは決算書は関係ないですね。その分野では誰もかなわないので、世界で何本指のような人は、決算書が読めるかどうかは問題になりません。
一方でジェネラリスト型はシリコンバレーにもたくさんいますが、そういう人たちは当然、数字を読めないとついていけない。ここでは、サバイブ(生存競争)させられる。ダメだったら退場なので、数字にはこだわっている人が多いですね。
関谷:数字を読めたら具体的には、どう役立ちますか。
シバタ:アメリカ人て、異常にプレゼンのうまいやつがいるんですよ。プレゼンだけだと、だまされちゃうぐらいの。ベンチャーキャピタルは、そういうのを毎日見せられるわけですから、数字を聞かないと信じられない。
関谷:会話の中でもプレゼンでも、数字に齟齬やズレがないか、お互い見ている感じがありますね。
勉強したことにとらわれない
Business Insider:お2人がシリコンバレーで仕事をする姿勢で気をつけていることは?
シバタ:日本でもシリコンバレーでも“まずYes”と言う。ポジティブに見てもらえるようにという狙いですね。英語はポジティブな言語で「How are you?」への(返しの)デフォルトが「good」なんですよ。ノリが悪いと思われたら、きついですね。
関谷:こっちで、できる人の共通点はオープンマインド。新しい人や情報やモノを常に受け入れる土壌がある。コミュニケーションで気をつけているのは、自分もそうしたマインドに合わせることですね。普段の自分よりもちょっとテンション高め、ちょっとオープン。
シバタ:関谷さんの今の英語力を100とすると、社会人になる前の時点では50、60とおっしゃっていますが、今のレベルに至るまでにどうやって勉強されたのですか。関谷さんが苦労したストーリーを聞きたい。
関谷:日々苦労ですよ。例えば「I love it (すごくいいね)」は今は言えるけど、(シリコンバレーに来て)最初は、戸惑いました。え?ラブ?これ言わなくちゃダメなのかな?と。 あと、何かやってくれた人に対して「You are the best」を使いますね。日本でザ・ベストって最上級の人なのですが、聞いていると、みんなに言っている。こういう風にベストって使うんだ、と。
習ってきた英語にとらわれない。もちろん勉強してきたことをもとにするのですが、実際に周りの人がどうやって使っているか。それを聞いて最初は恥ずかしいけれど、使ってみるのを、繰り返してきましたね。
シバタ:そういうフレーズが関谷さんの本(『みんな使える!こなれた英語201フレーズ』)に書かれていますよね。お世辞でなくて、アメリカに来た時にこの本を読んでいたら、失敗回数は減っていた。
というのは、ニュアンスの違い、どこまでおおげさに言うのか、持ち上げていいのか、怒っていいのか、言語によって違ってますよね。その辺のトーンが難しいなあと感じますね。日本語はシャイな言語だと思います。謙譲語があるし。
日本語が母国語の人なんだけど、やるなあっていうことありますか?
関谷:日々、そう思うことが多いですよ。こちらでビジネスされようという方は覚悟も違うし、英語も頑張っている方が多い。ただ、その中でも突破口をつくって、自分のキャラから出た「明るめなシバタさん」とか「テンション高めのシバタさん」という方を見ると、順応しているなあって思いますね。
スタバでへこんだ頃
関谷:シバタさんは、どちらかといえば「英語ではあまり苦労したことがなかったほうだと思う」とおっしゃっていましたが、それでも英語で戸惑われたご経験は?
シバタ:(渡米して)最初にショックだったのは、スターバックスでコーヒーを買えなかったことです。ここでは注文のときにカップに名前を書いてくれる。僕はナオキっていうんですが、とにかく聞きとってもらえない。ギリギリがナオミ・キャンベルのナオミなんですよ。ぼく見た目、男性じゃないですか 。
関谷:男性ですね (笑)。
シバタ:"Huh(はあーん)?"って3回は聞かれるので、すごいショックで。「おれ、スターバックスでコーヒーも買えないのか」っていう。それで僕は、スターバックスネームはニックになりました。
こっちでは日本語名では通じにくいので、ミドルネームで英語名を名乗る人がいるけれど、それはなるべくしないようにと思っているんです。けれどスターバックスだけは、通じなくて腹が立つんで、ニックにしました。コーヒー買えないと、けっこうへこみますよ。
シバタ:最後に、日本人が英語圏でプロフェッショナルに仕事をする際のアドバイスありますか。
関谷:当然、本業のスキルは磨くのが一番ですね。ただ、どんなにスキルがあったとしても伝えるというのが大切です。見てくれている人は分かる、ではなくて。世界のいろんな方と仕事をしなくてはならないので、英語でのコミュニケーション、アピールをするステップが入ってくると思います。
ビジネス上の共通言語の他に、ビジネスパーソンの話し方、そこに入っていくためのオープンマインドの話し方が必要です。まずは、刺さる自己紹介。肩書きだけではなく、自分の仕事は世の中にどんないいインパクトを与えるのか。どういう思いで仕事をしているのかを、自己紹介の一環として語れるようになればいいんじゃないかなと思っています。
※この対談は9月16日午前9時(日本時間)に行われたものを編集しています。動画は以下でご覧になれます。
関谷英里子: 日本通訳サービス代表。世界の著名ビジネスパーソンの通訳を手がける同時通訳者。慶應義塾大学経済学部卒。スタンフォード大学経営大学院卒。伊藤忠商事、ロレアルを経て、同時通訳のサービス事業を立ち上げた。シリコンバレー在住。
シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。