注目度の高いiPhone X。とはいえiPhone 8も要となる半導体チップなどの中身はほぼ同じ、という意欲作でもある。
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iPhone X・iPhone 8の価格とサービスをめぐって、大手3キャリアが熾烈な価格争いを始めている。
今後他社が追従してくる可能性もあるが、現時点では「24回割賦の半額補助」や「月額料金」、そして紛失・盗難まで対応する強力な「追加補償」などを総合的に見ると、auブランドを展開するKDDIが他社を一歩リードしている状況だ。
3社横並びが常態化してきた中で、auが「他社とは違うこと」を始めたのはなぜか? アップル発表会の開催されたカリフォルニア州クパチーノ近郊で、田中孝司社長を直撃した。
悩みのタネの格安スマホ「流出」、新料金でピタット止まった
KDDIの田中孝司社長。IT記者の間では、テクノロジーに造詣が非常に深い経営者としても有名。
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—— auが7月に発表した、「ピタットプラン」※1、「フラットプラン」※2、新料金は契約100万件を突破し好調だと聞いています。今回のiPhone向け対応と、紛失・盗難まで対応する追加補償などは、さらに一歩踏み込んだ内容になっていると感じます。その分キャリアとしては負担にもなるわけですが、新しい一連の施策を決めた一番の“動機"は何だったんでしょう。
田中社長:一番の目的は、MVNO(格安スマホ)への流出を食い止めることです。先行してAndroid向けに実施しているピタット/フラット(プラン)は7月からの契約が100万件を超え、Androidが以前に比べてとても売れるようになってきました。また、ありがたいことに蓋を開けてみると、Androidの「転入」も1.5倍に増えていました。現状、新プランは、価格の手頃さでお客様には喜んでいただける、auも売り上げが伸びる、MVNOへの流出も大幅に減る。こういう(三方良しの)状態です。
であれば、auにいらっしゃる残りの過半のiPhoneユーザーにも同じプランを用意できれば、こんなに良いことはない。7月の新料金発表の際に記者さんから出た質問(iPhoneにもピタット/フラットを展開するか?)には、(そうなるという期待をもって)「サムシング・シミラー」(ほぼ同じものを検討中)と答えたわけです。
これまで我々は「新規ユーザー獲得」に注力してきました。ただ、昨今の市場の変化は、新規獲得だけでは不十分で、流出も食い止めなければいけない。そうしないと、企業として長く続けていけないと考えています。
※2 「フラットプラン」:データ利用料20GB(月額5500円)と30GB(月額7500円)の2種類を用意する固定プラン。1回5分以内の通話無料。加入翌月から1年間月額料金が-1000円割り引かれるビッグニュースキャンペーンも併せて実施。
iPhone X、8、そしてApple Watch Series 3などが立て続けに発表された9月12日。このインタビューは発表会後、その熱狂冷めやらぬタイミングで現地にて実施した。
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—— auが口火を切って、一部他社も実施をはじめた、いわゆる「半額施策」については、形を変えたキャッシュバックではないか、という意見もあります。
田中社長:規制がいろいろ入ったりしましたが、まず(前提として)端末購入補助というのは、悪いものではないんです。
スマホのユーザー数がどんどん伸びていた時代は「新規獲得」に重きを置いていました。ですが今、その状況が変わってきた。スマホの普及率が頭打ちになり、日本も「いかに既存のお客様に満足していただくか」(解約率を下げるか)、この「比重」を高めることが大事になってきました。
月額料金をドンと下げる、ピタット/フラットの実施はそうしたメッセージの1つです。さらに実は、もう1つお客様が困っていることがある。「もしも」のときです。例えば一人暮らしの方だったら、家に固定電話がないというケースも増えてます。そのときに、今日この端末で大事な電話をしなければいけないのに何か不具合が起こった、というような状況をどうするか。
auの「Apple Care+ & au端末サポート」のサービス内容。ディスプレイ割れの修理などは他社も同様だが、4年のうち2回まで盗難・紛失の補償にも対応する。
もちろん、これまでも修理補償などは提供してきましたが、ある種のリスクヘッジとして、手順が複雑にならざるを得なかった面がありました。
でも、ユーザー満足度を上げようというなら、「その手順の複雑さっておかしいんじゃないの? 」こういう声が社内で上がってきました。それで、たとえ紛失しても電話1本で代替端末が届く、というような補償に今回、取り組んだわけです。
追加補償のコスト負担は「めげずにやり切る」
—— ハイエンド端末というのは本来、10万円もする高価な製品です。その端末に対して、4年の間「補償」していくというのは、コストは決して小さくないと思うのですが。
田中社長:そうですね。めげないようにやっていきたいと思ってます。
—— オプション加入での修理補償と修理時のコスト負担をポイント還元でほぼゼロに軽減する施策は他社でも提供しつつあります。ただ、紛失・盗難までサポートして、電話1本で翌日到着というのは、新しさを感じます(「Apple Care+ & au端末サポート」と「auスマートパスまたはauスマートパスプレミアム」の組み合わせ。利用回数や補助金額など違いあり)。月に一定額を払えば、落下で壊しても紛失しても(回数制限はありますが)追加コストがほぼ実質なしになるということですよね。これって「iPhone本体を買う」と言う感覚から「iPhoneという体験を得る」ための月額コストという感覚に近い。iPhone体験のサブスクリプション化が一歩近づいた印象を持ちます。
auの新料金プランシミュレーター。新料金プランと、追加補償を組み合わせた際の料金も確認できる。写真はiPhone 8とピタットプランの組み合わせをベースに計算したもの。
田中社長:KDDIとしては、まさにそういう方向に舵を切ろうとしています。交換修理のような場合でも、一定期間端末が手元からなくなるのではなく、同じメモリー容量・同じ色の端末が電話1本で最短翌日に届く。データはバックアップしたものを再インストールして使ってください、と。まだ不整合はあると思いますが、基本的にはそういう考え方です。
iPhone 8のユーザーとiPhone Xのユーザーはそもそも嗜好が違う?
iPhone Xの発売は11月3日、まだしばらく時間がある。価格が違うiPhone 8はユーザー層もそもそも違うのではないか、というのが田中社長の見立てだ。
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—— 日本では現状、ドコモ以外ではキャリア施策として、いわゆる「半額補助」があります(詳細はキャリアによって微妙に異なる)。これを使うと、iPhone XとiPhone 8の実質の差額は諸外国より小さくなります(auのiPhone Xの価格詳細は執筆時点では未発表)。両モデルはどう住み分けるとお考えですか? iPhone 5cのときのように、結局は上位モデル(iPhone X)ばかり売れるということにならないでしょうか?
田中社長:お客様の感覚はあの頃と随分変わってきてますよ。ハイエンドにあまりこだわらなくなってきた。自分が支払える金額で買える端末、気に入ったサイズ感の端末、といったように、選び方が多様化してきてます。
場合によっては、それぞれのユーザー層ごとの料金プランというものを用意する方が良いのかもしれない、それくらい変わって来ています。国内でiPhoneのユーザー比率が50%を越えようかという状況になってきて、同じiPhoneユーザーの中でも様々なセグメントができてきていると感じます。
—— iPhone 8とX、それぞれどう差別化して販売していくのでしょうか。
田中社長:iPhone 8とiPhone X、それぞれのユーザーは別のユーザー層(セグメント)だ、と考えた方が良いのかもしれません。まず最初に登場する「iPhone 8」は、iPhone 7からデザインも性能向上も果たしていて、それでいてアフォーダブル(手頃)な価格になってますから、そこを訴求していきます。
その後しばらくして「iPhone X」が出てきますよね。そのときには、XにはX用のマーケティングを用意するつもりです。
—— ユーザーの嗜好が端末選びも、買い替えサイクルも多様化してきた。だからauとしては「端末も料金プランも、それぞれの使い方に最適なものを用意していく」ということでしょうか?
日本は世界でも相当に低廉な月額コストでセルラー版Apple Watchが使える国。国内最安はauとソフトバンクの月額350円。ドコモそこに月額500円で続く。
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田中社長:いまお客様は機種変のスパンも、「1年」「2年」「もっと長く使う(3〜4年)」など様々です。データプランの消費量も同様です。もちろんハイエンド機種の人ほどデータをたくさん使うのは事実ですが、それでも毎月データ通信が多いかというと、そうでもない。
とすると、もうお客様から必要とされる通信プランは、(以前のようなバリエーションでは済まず)個別のマトリックスのようになって来ます。
店頭のオペレーションとしては料金プランは本来、単一の方が良いんですよ。対面販売での説明に要する時間も短くて済みますから。でも、自分に合うプランがほしい、という要望をいただいたら、その声にはできるだけ答えるべきだと思っています。iPhoneやApple Watchでご満足いただける料金プランやプログラムを、これからも提供していこうと考えています。
(取材協力:KDDI)