iPhone 8 PlusとiPhone 8。前からの見た目はiPhone 7に近いが……。
9月22日(金)、iPhone 8とiPhone 8 Plusが発売になる。
前モデル「iPhone 7とiPhone 7 Plus」と比べると、パッと見は「マイナーチェンジかな」と思ってしまうが、実際、製品を触ってみると「iPhone10年の集大成」と言える仕上がりで、満足度の高いスマホと言える。
デザイン的には背面が金属素材からガラス素材となったことで、ちょっと印象が変った雰囲気に仕上がっている。ガラス素材になったことで、ワイヤレス充電「Qi」に対応した。
ガラス背面になったiPhone 8 PlusとiPhone 7の背面。こちら側ははっきりと「新しさ」を感じる。
ゴールドモデルではガラスがうっすら透けて、独特の風合いになる。
iPhone 8とiPhone 8 Plusで注目と言えるのが、AR(拡張現実)への対応だ。
他のメーカーやプラットフォームがARやVRに前のめりとなる中、アップルはARに対して、静観するのかと思われた。しかし、今年6月のWWDC(アップルの世界開発者会議)において、iOSで「ARKit」に対応すると発表した。
アップル・ARKitの最大の強みは「対応デバイスが多い」という点にある。アップルでは「A9以降のプロセッサーを搭載したiOSデバイス」としており、iPhoneではiPhone 6s、iPadであればiPad Proと第五世代iPadが対象となる。
すでに売られている機種でもARkit対応のアプリは利用できるようになるが、iPhone 8とiPhone 8 Plusでは、さらにARに特化した進化がされているという。
アップルのワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、フィル・シラー氏は「ARに本格的に対応した初のiPhoneとなる。スマートフォンとして初の試みだ」と胸を張る。
iPhone 8とiPhone 8 Plusでは、ジャイロスコープや加速度計が向きや位置を測位し、さらに同じくアップルの独自設計のISP(イメージ・シグナル・プロセッサ/撮影を改善するプロセッサ)が光量を見ていく。CPUである「A11 Bionic」がトラッキングを行い、アップルが独自に設計したGPUにより、毎秒60フレームで描画していく仕組みだ。
iOS11の注目機能、AR Kitアプリを使ってみる
では、実際、どのようなAR体験ができるのか。
まず、用意したのが、人間の心臓の内部が見られるという「INSIGHT HEART」というARアプリだ。このアプリはiOS11のみでしか使えない。
お茶の間に突如、生々しい心臓が登場してしまうARKit対応アプリ「INSIGHT HEART」。
iPhone 8 Plusで起動したところ、「Scan Floor」=床を認識させるところから始まる。早速、床をスキャンすると「Tap&Hold」という指示が出るので、その通りにやってみる。すると、その場に透明な人体が表示され、心臓だけがカラーでドクドクと音を立てて立体的に見える。
iPhone 8 Plusは、床を認識しているので、心臓に近づけば大きく表示され、さらに後ろ側に回ったり、見たい場所をじっくりと近づいて確認するということが可能だ。ちなみにこのアプリはApple Watchと連携し、自分が最近やったワークアウト時の心拍数と連動して心臓が動くのをARで見られる機能が盛り込まれている。これはこれで楽しい。
起動直後の画面。ScanFloorの表示とともに、床をスキャンして水平位置を認識させる。
IKEAのアプリもARKit対応、面白い!
IKEAのアプリもARKit対応。光源を天井側に置くと、リアルな影が表示できる。
また、IKEAのアプリでは、同じく、部屋の床を認識したあとは、CGの椅子やテーブルなどをAR空間上に設置して、模様替えなどを事前に試せるようなものとなっていた。実際にiPhone 8 Plusでやってみたが、まさに目の前に家具を置いている感覚になることができた(注:このまままわり込んで行くと、実際の風景のように椅子の反対側も見える)。よく見ると、AR空間に設置した照明の”光源の方向”も理解しており、それに合わせて家具からの影も出ている。
ほかにも、機関車トーマスのアプリや星空が見られる「Sky Guide」といったアプリでARを試してみたが、床や空をきっちりと認識している様子を確認できた。
当然、iPhone 7などでもARKitのアプリは利用できる。ライトなARアプリの場合、前モデルとなるiPhone 7PlusとiPhone 8 Plusで比較しても、使い勝手において差はほとんどなかった。
しかし、「同じアプリでもiPhone 8のほうが滑らかに描画する。iPhone 7ではカクカクした表示になることもあり得る」と関係者はいう。
実際、アップルの発表会でもデモされていた「The Machines AR」といったグラフィックの負荷が高いようなゲームを試した場合、iPhone 7 Plusでは時々、ゲームが止まるのに対して、iPhone 8 Plusでは常時、スムーズにゲームが楽しめた。このあたりが、GPUやCPUなどがARを意識しているiPhone 8 Plusの強みなのだろう。
アップルの発表会でもデモされていたARゲーム「The Machines AR」。
機関車トーマスのARKit対応アプリ「Thomas & Friends Minis」。AR空間上に出現したコースをトーマスが走り回る。
iPhoneの存在がARアプリの盛り上がりに重要な理由
実は筆者はグーグルのARプラットフォームである「tango」に対応したスマートフォンを我先にと購入し、所有していたことがある。tangoではカメラに加え赤外線センサーや魚眼レンズなども搭載し、空間だけでなく立体も認識して、ARを実現するという画期的なスマートフォンだった。
グーグルのtango対応スマホ「レノボのPHAB2 Pro」。世界で2機種しかない製品のうちの1つだ。
しかし、対応機種は2モデルしかなかったため、一向にアプリが増える雰囲気はなかった。アプリが増えず楽しくないため、自分もすぐに持っていたデバイスを売却してしまったのだった。結局、グーグルもtangoを諦め「ARcore」というスマホ単体でAR体験を提供できる環境を準備しつつあるようだ。
アップルのARKitは、tangoほど精度は高くないのだが、床などの平面を認識できることによって、かなり面白いことができる環境に仕上がっているようだ。
ARKitの強みは、すでに対応機種が大量に世の中に存在しているということだ。アプリ開発者としては、最新モデルだけでなく、すでに販売されているモデルがターゲットになるため、アプリでの収益を上げやすい。今後、ARKitに対応したゲームアプリなどが一気に増えてくることが予想される。もちろん、マシンに負荷の高いアプリも出てくることだろう。
iPhoneでARをとことん、快適に楽しもうと思うなら、最新モデルであるiPhone 8もしくはiPhone 8 Plusを選ぶのが得策になりそうだ。
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。