在宅ワークは働きすぎになる? 日本企業で利用が広がらない理由

通勤時間や移動時間の削減につながり、多様な働き方実現の大本命として注目されるテレワーク(在宅勤務など、ICTを活用した場所や時間にとらわれない働き方)。「テレワークは長時間労働を招かない」との調査もあるが、「かえって過重労働になる」との声が後を絶たないのはなぜだろうか。

通勤電車の窓

テレワークが本格的に導入されれば、通勤時間も大幅に削減される。

撮影:今村拓馬

2歳の娘が深夜に母親探し

「いつまでこれが続けられるだろう」

東京都在住の会社員、篠田由香さん(34、仮名)がそう思ったのは、テレワーク生活を始めて半年が過ぎた頃だ。

勤務先は、申請さえすれば、オフィス以外での仕事も認めるテレワーク制度を導入している。在宅勤務もカフェやシェアオフィスの利用もOKだ。篠田さんは育児休業明けに、子育てとのスムーズな両立を目指し、在宅や職場以外での勤務とオフィスでの勤務を組み合わせて使うことにした。このやり方なら、評価も年収も落とさず、フルタイム勤務を続けることができる、と信じて。

ところが、その生活は想像よりもハードだった。定時退社は可能だが、その分、ほぼ毎日持ち帰り仕事が発生。会議や打ち合わせ、予定外の仕事も振ってくれば、定時までにその日の仕事を終えることは不可能だ。終わらない分は結局、家でやることになる。

毎晩、子どもを寝かしつけてから、夜中に起きてパソコンを開いた。2歳になる娘が、夜中に目を覚まして寝室にいない母親を探すのが習慣になったことで、「これは無理があるのかもしれない」と、考えるようになる。

「その働き方、問題あるんじゃないの」

夫も顔を曇らせた。

在宅ワークをしたくない、したいか分からない理由

未経験者の「テレワークで働きたくない、わからない」理由

出典:エン・ジャパンの「テレワーク実態調査」

人材支援サービスのエン・ジャパンが約1万人を対象とした「テレワーク実態調査」では、テレワーク経験者の約7割が「引き続きテレワークで働きたい」と答える一方、「自身の業務時間、休みに関係なく、会社支給の携帯電話が鳴るので、仕事とプライベートのメリハリがあまりつかない」(26歳女性)、「不明点を聞くのにも時間がかかり、不便な点が多い」(34歳男性)といった経験者の実感も聞こえてくる。

「日本の風土では現段階で時間管理が個人任せなので、時間外労働が助長されて、長時間労働になる」(42歳女性)という体験談が切実だ。

「自主テレワーク」は長時間に?

リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査2017」では、「(会社の制度を使った)テレワークによって長時間労働が招かれる事実は確認できない」と結論づけている。テレワーク制度を使っている人と使っていない人の間で、長時間労働の実態に大きな違いがなかったからだ。

ただし、注目すべきは会社の制度適用者ではない人のテレワーク利用には「長時間労働に分布が偏り、平均労働時間も長くなっている」という点だ。つまり「制度適用者でない(自主的な)テレワークには、持ち帰り残業が含まれている可能性がある」というのだ。

同研究所の主任研究員、萩原牧子さんは「 前提としてテレワーク制度の導入は、厳正な労働時間管理とセットでなされるべき」と強調する。

というのも、テレワークを導入すれば

①管理職は従業員を目の前で管理できなくなり、これまでの仕事の指示を見直す必要性に迫られる。ミッションを明確にして、部下が自身で仕事を進められるようにしているかが問われる。

②働く個人にとっても、働く姿でアピールできなくなり、成果をしっかり出す必要性に迫られる。

この状況において、厳正な労働時間管理がセットでなければ、「働く個人は、仕事の成果を高めるために、労働時間を長くする可能性がありますし、限られた時間の中で生産性を高めるためにどうすればよいかという発想は生まれない」(萩原さん)。

テレワーカーは7%程度

「テレワークの特性で過重労働になっているというより、そもそものベースの仕事の組み立てを見直すべきでしょう。仕事量は適切か。量ではなく、成果による評価制度になっているか」

企業の現場で数々の働き方見直しのコンサルティングも手掛ける、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の矢島洋子さんは「テレワークの問題点と、そもそもの職場の働き方の問題点が混同されがちなこと」も指摘する。

日本でのテレワークの活用は、一部の企業にとどまる。国土交通省「平成28年度テレワーク人口実態調査」によると、勤務先にテレワーク制度がある割合は雇用者の14.2%で、利用者はさらにその半数程度だ。

テレワーク導入が進まない背景には「労務管理が困難」「長時間労働を懸念」といった企業の声があるが、そもそもの働き方に問題がある場合は少なくないだろう。もともと職場が過重労働であれば、テレワークは残業をする場が変わるだけになってしまう。

今の日本の働き方改革は、早く帰れ残業をなくせと、個々人に意識付けしていますが、残業を前提としない仕事の進め方をチームで組み立てる。つまりマネジメントを見直す必要があります。それでも回らない場合は、目標を下げるか人員を増やす、という経営判断が必要ということです」(矢島さん)

テレワークの導入は、「全ての人の働き方、具体的にはマネジメントや個人の仕事の進め方を見直すきっかけになる」(リクルートワークス主任研究員、萩原さん)と期待され、国は2020年までに雇用型テレワーカーの倍増を目指す。

それには、事前にチームの仕事量と目標の根本的な見直しが必須。働き方の見直しの本気度が問われる。しかし現状では、企業におけるテレワーカーの割合が1割未満というのが、日本の職場の実態なのだ。

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