目指せ、米大学スポーツ——収益化目指して日本版NCAA設立

突然の解散・総選挙で吹っ飛んでしまっているが、大学スポーツ界で新たな動きが進んでいる。

スポーツ庁は9月14日、スポーツを通じて大学の振興や活性化を行う「大学スポーツ振興の推進事業選定大学」8校を発表した。選定されたのは青山学院大、筑波大、早稲田大、順天堂大、日本体育大、立命館大、大阪体育大、鹿屋体育大。予算は1億円。選考過程でそれぞれの大学がプレゼンテーションした事業を進めると同時に、学内の運動部を統括するスポーツ局を各大学に設置する。

例えば、早稲田大学は早慶戦のブランド強化や事業性の追求を掲げ、筑波大学は米テンプル大と提携しNCAA(全米大学体育協会)をモデルとした安全管理体制の構築を図るなど、利益を生み出す産業化策からアスリート強化策まで多岐に渡る。

大学スポーツ振興の波は、GDP(国内総生産)を2020年までに約100兆円増やして600兆円にするという「日本再興戦略2016」が発端のひとつだ。5.5兆円(2015年)のスポーツの市場規模を2025年には15兆円までに、という目標を掲げる。そこで注目したのが、スポーツ産業だけで50兆円以上を創出するアメリカだった。日本では手つかずだった大学スポーツ改革のモデルケースにしたのだ。

アメフトの試合

アメリカでは学生が プロアメリカンフットボールリーグのNFLに入る前に、大学でプレーすることでスキルをあげる。

Brad McPherson / shutterstock

アメリカでは大学のバスケットボールやアメリカンフットボールがプロ以上に注目される。NCAAは全米の大学約2300校のうち約1200校が加盟。学業成績が著しく低下した際のペナルティーなどを定める一方、試合の放映権料などで年間約1000億円の収入を得ている。

「日本版NCAA」に議題を絞ったタスクフォースの座長を務めた小林至・江戸川大学社会学部教授によると、日本の大学はそもそも自主・自治の色合いが濃く、政府の干渉を遠ざけてきた歴史がある。そのうえ大学の部活動は、中学や高校と同様に「課外活動」という位置付けで、管理責任の所在もあいまいだった。

「コンプライアンスが厳しくなっているこの時代、大学が部活動の管理責任を負わなければならないが、現状は各部に任されている。運営費も部員の自己負担やOB・OG会費のみで、選手の体のケアや栄養費も確保できない。競技環境を整備するためにも、大学と競技を横断的に統括する組織が必要だ。(日本の大学スポーツが)いきなりNCAAになることはあり得ないが、未来へのベースを整備しなくてはならない」(小林氏)

大学スポーツの環境整備が必要な理由のひとつは、女子アスリートのピーク年齢が上がってきたことだろう。

先のリオデジャネイロ五輪の日本代表選手は、およそ3分の2が大学生とそのOGで編成された。柔道、器械体操、レスリングなどは以前から大学での育成が強化のベースだったが、近年特に女子選手の強化に、大学での競技環境が大きく影響するようになった。

例えば、7月にアジアカップで優勝したバスケットボール女子日本代表。エントリーメンバー12人中3人の大卒プレーヤーが加入し、ポイントガードの藤岡麻菜美(23=JX―ENEOS=筑波大出)は大会ベスト5に選ばれた。関東大学リーグ2部の東京学芸大を経てトヨタ自動車入りした水島沙紀(26)も豪州との決勝戦でチーム最多26得点と活躍。これまで高卒で実業団入りした選手が中心だった女子バスケットに、新風を吹き込んだ。

五輪の旗

リオ五輪の日本女子代表選手の中で、大学生や大卒の選手の活躍が目立った。

Reuters /Sergio Moraes

日本バスケット協会の東野智弥技術委員長は「これまでも多くの女子の大卒選手が代表に選ばれ、活躍してきたものの、特に近年の活躍が印象深い。大学卒業後、トップリーグに進む選手が増えたという点は以前と比較して大きな変化。科学的なトレーニングが進化・普及し、女子アスリートの選手寿命が長くなり、受け皿になる大学側にも真のトッププレーヤーを育てるんだという意識の高まりを感じる」と話す。

筑波大学は2010年にトップアスリートの育成などを目的とした「筑波大学スポーツアソシエーション」を設立。ユニホームカラーやスポンサーの統一、トレーナーの配備など、日本版NCAAが設立を促すスポーツ局に相当する組織を育ててきた。全学的なスポーツ振興が進む時期に、藤岡は成長を継続できたとも言える。

「自分の将来のことを考え進学したが、大学でも(日本代表を目指し)意識を高く持ち続けられた。これを糧にしてさらに上のレベルを目指したい」と藤岡は力を込める。

バスケットの日本女子リーグであるWリーグによると、10月に始まった今季の登録選手数170人中92人と54.1%が大卒。10年前の1部8チームだった当時の113人中33人の29.2%と比較すると、いかに大卒プレーヤーが増えたかがわかる。

この傾向は、五輪でメダリストを量産する競泳の女子でも顕著だ。1992年バルセロナ五輪で14歳だった岩崎恭子が女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得。中高生が代表選手の中核になる流れは1996年アトランタ五輪まで続いたが、メダルなしで終わっている。この頃まで、女子選手は20歳前後から体型が変わるため、ピークは10代だと考えられていた。

様子が変わったのは、次のシドニー五輪からだ。中央大学の中村真衣が100メートル背泳ぎで銀メダルを獲得するなど、活躍する中心層は中高生から大学生になった。2017年8月の世界水泳では、女子200メートル個人メドレーで東洋大学4年の大橋悠依が銀メダルを獲得。バスケット同様、トレーニングの質が上がったことで、高いモチベーションと練習環境さえ維持できれば、むしろ今は大学からが勝負なのだ。

8月に文科省が発表した2017年度の学校基本調査(速報値)によると、大学や専門学校など高等教育機関への進学率は過去最高の8割超え。高等教育機関のうち、大学(学部)への進学率(浪人生ら含む)は52.6%で同様に最も高くなった。少子化で18歳人口は横ばいだが、卒業後の就職を考え進学を選ぶケースが増えている。選手を取り巻く社会の教育観の変化も、影響を及ぼしているのだ。

バスケをする選手

アメリカの大学スポーツを支える収入源の一つがテレビ放映権だ。

Aspen Photo / shutterstock

前出の小林氏によると、現時点で想定しているのは「プラットフォーム・ビジネス」だ。各大学の運動部員を集約するとおよそ20万人いる。「その20万人をデータベース化して、プラットフォームを提供することで、大きな収入につながる可能性が出てくる」と話す。

選手らが共通して必要とするスポーツ用品はもちろん、食や就職斡旋の情報企業などが広告提供をするだろうし、彼らの後ろにはその家族やファンがいる。

「原資を生み出すほかに、彼らの成長や強化策につながる仕組みも考えたい。データベースに蓄積された動画やみんな成績などの数字、またそれらの分析機能を高めれば、自分やチームの現状や成長を把握することもできる。スポーツ科学は日進月歩。みんなで共有できるといい」(小林氏)

大学はトップアスリートの強化のみならず、地域のスポーツ振興や健康増進、生涯スポーツの発展にも寄与する。周辺自治体などと提携し、パラスポーツの用品開発や研究などの推進事業を提案した吉村雅文・順天堂大学スポーツ科学部教授は言う。

「今夏、米マウントホリヨーク大学の女子サッカー部の学生が遠征に来ました。彼女らはディビジョン3(3部)ですが、大学から旅費などが補助されている。勝つだけでなく、スポーツを支えようとする土壌があるアメリカのように、大学スポーツが学生を豊かにするという発想が日本にも根付いてほしい。今回の改革は、そのための第一歩だととらえている」

スポーツの価値をどのくらい高められるか、そして持続可能な事業をどのくらい生み出されるか。この2点が、日本版NCAA成功の鍵になる。

(文・島沢優子)

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