中国ECサイトで日本商品を転売。月商500万円を稼いだ男の末路

「今の1カ月の売り上げは10万そこそこです。仕入れ原価を差し引けば、いくらも残りませんよ。生活費を稼ぐために、最近は日雇いのアルバイトにも行っています」

スマホの画面から目を離し、増山智明(41)は自虐的な笑顔をこちらに向けた。

増山はアリババが運営する中国最大のECサイト「タオバオ(淘宝)」に自分の店を出している。中国人による爆買いが話題になった2015年には、月商500万円に迫る売り上げがあったが、最近はその10分の1ほどしかない。

増山智明

3年前から中国のECサイト「タオバオ」で日本商品を売る増山智明。「最近は虫の息です」と撤退を考えている。

中国人の日本商品崇拝

増山が名古屋の会社を辞めて中国に渡ったのは2005年。日本語コールセンターに2年勤めた後、より良い待遇を求めて韓国系IT企業に転職した。現地で知り合った中国人女性と結婚し、双子の子どもがいる。

国際結婚夫婦が直面する大きな問題の一つが、「どの国で子どもに教育を受けさせるか」だ。日中カップルだと日本を希望するケースが多く、増山もその一人だった。中国政府のビザ発給基準が厳しくなったこと、勤務先が事業縮小に動き始めたことも重なり、増山は2014年に家族を連れて帰国を決めた。

当時38歳。子どもの教育と自分の仕事を考えて、横浜市に居を構え、就職活動を始めたが、年齢のせいか正社員ではなかなか採用されなかった。中国のIT事情をテーマにウェブメディアで記事を執筆し、収入を得るようになったものの、毎日数本記事を書いて月収15~20万円。家賃を払うといくらも残らない。第二の収入源として思いついたのが、ECショップの開設だった。

中国在住の日本人は、「爆買い」という言葉が生まれる前から、中国人の日本商品に対する崇拝にも似た信頼を感じ取ってきた。日本に一時帰国するたびに買い物を頼まれ、その商品も次第に高価格化、多様化していった。

「化粧水を6万円分頼まれた」

「俺なんて、出張で帰国したときに一輪車を買って、飛行機に積んだよ」

日本人同士で集まると、しばしばこんな話になった。

そのうち日本に住む中国人らがタオバオに店を開設し、SNSで宣伝することで、「代理購入」をビジネスにしていった。

大人気の限定コフレ、記念suica

タオバオの画面

増山が運営するタオバオ内店舗の商品画面。

アリババが運営する2大ECサイト、タオバオとTmall(天猫)は、大規模なネットセールが実施される11月11日の1日だけで、約1兆8900億円(2016年、当時のレートで換算)を売り上げるほどの販売力を持つ。

日本では「中国版楽天市場」と説明されることもあるタオバオだが、買い手だけでなく、売り手も個人が多く、メルカリやヤフオクにも近い。

増山も周囲の中国人にならい、2014年12月にタオバオに出店した。当初は変圧器などを取り扱っていたが、年が明けて急激に円安が進み、爆買いの波が押し寄せてくると、妻の助言を受けながら、商品の軸を限定発売の化粧品や衣類に移していった。

「特に売れたのは、アルビオンの限定コフレ。東京、神奈川のデパートを回って40数セット確保しました。東京駅開業100周年記念suicaも大人気でしたが、購入制限があったので、親戚を総動員して入手しました。ユニクロや無印良品の冬物も安定した売れ筋です。2015年の冬シーズンは2万元以上の利益が出ましたね」

2015年3月の月商は400万円。商品の仕入れ代金を差し引き、約50万円が手元に残った。

この頃、増山はライターの仕事を辞めた。

タオバオには偽物や粗悪品も多く、中国人消費者は購入前に、「本物と証明できるか」「いつ届くか」とひっきりなしにメッセージを送って来る。値引き交渉も日常茶飯事で、すぐ返答しないとほかの店を探し始める。アリババは購入者の評価を利用して秩序維持を図っており、「信用度」が下がると商品検索で上位に表示されなくなる。カスタマー対応は店の生命線だ。

増山は1日30~40件の問い合わせをさばくために、朝9時から深夜1時までネットに張り付いた。商品の買い出しにも行かなければならない。他のことをする時間が取れなくなり、タオバオ一本でで生活することに決めた。

詐欺に引っかかり警察沙汰も

だが、宴は長くは続かなかった。

2016年に入ると潮目が変わる。為替が円高に振れたのに続き、日本郵便がEMS料金を値上げした。

増山が小型商品の発送によく使っていた300グラム以下900円(日本からアジアへの発送)の料金区分が廃止され、最も安い料金は500グラム以下1400円になった。

円高でただでさえ割安感が薄れているのに、小さな商品の購入者にとっては、送料が5割アップするに等しい。割が合わないと感じた消費者が離れていった。

タオバオで日本商品を販売する個人店主は、問い合わせや注文が入ってから買いに行くことも多い。増山も自宅周辺の店で商品を見つけられず、片道1000円前後の交通費をかけて、千葉や東京まで探しに行くこともあった。

一定の売り上げが確保できる間はその手間も許容できる。だが2016年、毎月の売り上げが150~200万円に落ち、手元に残るお金は20数万円に減った。

トラブルも数知れない。

客とやり取りする画面

客とはパソコンやスマホでやり取りする。画面のやりとりでは客が値引きを求めている。

2015年、携帯用お尻洗浄器を1個400元(約6800円)で買いたいと注文が入り、約30個ずつに2回に分けて送ったところ、広東省の税関で商業用途の輸入とみなされ、購入者に約1000元(約1万7000円)の関税が課された。

購入者は「だったらいらない」と引き取りを放棄。商品は税関で差し止められたままとなった。タオバオは、購入者の手元に商品が届かないと決済が完了しない仕組みのため、増山は仕方なく広東省まで足を運び、荷物を日本に持ち帰った。

詐欺にもあった。電子マネー24万円分をプリペイドカードで購入してほしいと頼まれ、仮決済を確認した後に電子マネーを使うのに必要なプリペイド番号を教えたところ、仮決済がキャンセルされた。まんまと電子マネーを持ち逃げされたわけだ。この時は中国の警察に通報し犯人逮捕に至ったものの、「24万円は戻ってこなかったし、警察に行ったり書類をそろえたりで、10万円くらいかかりました」

次のターゲットはメルカリ

今年の状況はさらに悪い。

購入者に「偽物を販売している」と通報され、アリババから信用度を落とされた。偽物販売は全くのぬれぎぬで、信用度も元に戻ったが、信用度が下がった間、売り上げはほぼゼロになった。

月の利益は10万円前後まで落ち込み、次第に撤退を考えるようになった。

丹陽

最近は中国で商品を生産し、アマゾンでの販売を計画している。毎月のように中国の卸売市場に飛び込み、生産を依頼する日々だ。

撮影:増山智明

今は実家がある北海道への引っ越しを選択肢に入れながら、中国で製造した商品を、日本のアマゾンで販売する準備を進めている。中国の市場は確かに大きい。けれど競争が激しすぎる。中国人がつくったECシステムで、中国人と渡り合うのは予想以上に大変だった。長年中国で働き、中国語が話せ、家族が中国人だとしてもだ。

一方でここ最近、明るさも感じる。

「タオバオは撤退するつもりでしたが、9月に入って、1日の売り上げが3万円を超える日も増えてきました。国慶節(中国の大型連休)が近づいているのと、元高が影響してるのですかねえ」

今までにはなかったタイプの依頼も受けるようになった。ヤフオク入札と、メルカリ購入の代行だ。

どちらのプラットフォームも面倒を嫌ってか、外国人による購入や外国への商品発送を受け付けない出品者が少なくない。日本語が多少分かる中国人が、お目当ての商品を増山に伝え、手数料を上乗せして購入を依頼する。

つい先日、増山はメルカリで、同じ出品者から衣類を70点以上、10万円分購入した。

別の中国人からは、ヤフオクでバイクのエンジンの落札を頼まれている。

「重さが30キロもあるので、船便でも送れないし、費用や手間の見当がつかないから、何度も断っているんですけど、相手もなかなかあきらめてくれなくて……」

70点以上の衣類、中古のエンジン、中国人がなぜこれらの買い付けを依頼してくるのか、増山は知らない。

(文中敬称略)

(撮影:今村拓馬)

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