ブラック化する教師の一方で進む国立大教育学部つぶし——国立大は再編、私立は定員増のなぜ

疲弊して退職する教師が後を絶たない。

一方で、国は教育学部をつぶし、教師を減らそうとしている。少子化が進み教師の需要が落ち込むに違いない。ならば養成に金を使う必要はないだろう。文部科学省はこんな見立てから、国立大学の教育学部(教員養成系)を少しでも減らそうとしているのだ。

もともとは数字しかみない財務省の教員数削減案から始まっている。緊縮財政のためだ。財務省は2015年10月、財政制度等新議会の諮問を受け、公立小中学校の教職員数約69万4000人を、2024年度までに約3万7000人を削減する案を文科省の示した。実際、2016年度予算編成で3500人規模の削減を求めている。当初、文科省は抵抗したが、予算を握る財務省には勝てない。文科省は教員削減案に乗っからざるを得なかった。これが教育学部削減へとつながっていく。

学校の教室

教師のブラック労働が顕在化している一方、国は教員養成の予算を削減しようとしている。

撮影:今村拓馬

人口減地域では既定路線

どうやって、教育学部を減らすのか。

2000年代半ば、国公立大学の再編統合が進められた。

  • 東京水産大+東京商船大=東京海洋大
  • 大阪大+大阪外国語大=大阪大
  • 九州大+九州芸術工科大=九州大
  • 富山大+富山医科薬科大+高岡短大=富山大
  • 神戸商科大+姫路工業大+兵庫県立看護大=兵庫県立大学など。

一橋大、東京工業大、東京農工大、電気通信大、お茶の水女子大、東京芸術大をくっつけて第2の東京大を作ろうという大風呂敷を広げたビジョンもあった。埼玉大と群馬大を統合してグンタマ大という話も、実はかなり現実味を帯びていた。

省庁の再編統合が進み、すでに企業では合併が当たり前になっていた。大学がスリム化はしないのはおかしい、という議論が出ても不思議ではない。

国立大学の再編統合から10年以上経ったいま、教育学部がその対象としてやり玉にあげられている。文科省の有識者会議は、①総合大と教育大、教育大同士で教員の養成機能を統合、②同じ県内や近くの国公私立大で連携して教員養成を分担、という案を示した。これを受けて、文科省は再編、統合できる大学をいくつかあげている。

例えばいま、地域ごとに大学の各教育学部をくっつけてしまうことが検討、協議されている。なかでも、次のケースは人口減地域ゆえ既定路線に近いと言われている(再編、統合後の名称は仮)。

  1. 弘前大+岩手大+秋田大=北・東北教育大
  2. 宮城教育大+山形大+福島大=南・東北教育大
  3. 京都教育大+滋賀大=京滋教育大
  4. 三重大+和歌山大=南・近畿教育大
  5. 5. 四国の4国立大学教育学部=四国教育大

文科省には「国公私立大で連携」という考え方があるので、こんな組み合わせもありだ。いずれも私立大学は教員採用者が多いところ(左が私立)。

  1. 埼玉:文教大+埼玉大=埼玉教育大
  2. 静岡:常葉大+静岡大=静岡教育大
  3. 岐阜:岐阜聖徳学園大+岐阜大=岐阜教育大

現在、国立大学の教員養成課程全体の入学定員は約1万人である。文科省はこれを維持すると言いながらも、省内では将来的に定員減は避けられない、という見方が強い。1割近く減るのではないか。そうでなければ、大学の再編、統合の意味はないのだから、という理由だ。これによって教員の数が減れば、予算緊縮に貢献できる。しかし、それでいいのか。

教師の養成は私立大へ?

いま、教育現場ではとんでもないことが起こっている。教師の数が圧倒的に少ないので、ひとりひとりの負担があまりにも重くなり、忙しくて身が持たない。教師は疲弊しきっているのだ。

2015年度、公私立学校教員で休職中のうち精神疾患5009人。ここ数年はこの水準にある。1990年が1000人程度だったので5倍に増えた。そして2016年度、精神疾患を理由に退職した教員は927人(いずれも文科省調べ)。最近は横ばいだが、1990年代に比べてかなり高い。

生徒数が減れば教師の負担が軽くなるということは、菅官房長官の言葉で言えば「全くあたらない」。親の教育観は昔と違っている。親は過剰なまでに教師にさまざまなことを要求する。モンスター親も現れる。教師はそれへの対応をしなければならない。部活動の顧問をすれば土日曜日もゆっくり休めない。通常の授業、成績評価、生活指導で手いっぱいなのに、それ以上の業務を強いられる。教育委員会には毎年のように、過労死、過労による自死が報告されており、ブラック企業並みである。

黒板

親の要求も多様化し教師の負担はますます重くなっている。

撮影:今村拓馬

また、高齢化も懸念されている。高い順に秋田50.1歳、岩手48.5歳、青森48.4歳。低い順には大阪39.4歳、神奈川40.2歳、東京40.4歳(2016年、文科省調べ)。高齢化はどんどん進むばかりだ。採用枠を広げて、若手を入れるしかない。

こうしたゆがみを正すためにも、若手教師をもっと増やして、ひとりひとりの負担を軽くしなければならない。行政は教育現場に合った養成を本気で考えているのか。

その点、私立大学は熱心である。教育学部をバンバンつくり、国から認可された。

2014年から2017年に設置した主な教員養成系学部、学科は次のとおり。

北翔大(北海道)、宮城学院女子大(宮城)、開智国際大(千葉)、松本大(長野)、愛知東邦大(愛知)、京都橘大、京都光華女子大(以上、京都)、大阪成蹊大、関西福祉科学大、大和大、大阪体育大(以上、大阪)、関西福祉大(兵庫)、奈良産業大、岡山理科大、広島修道大、宮崎国際大

この4年で私大では教員養成系学部の定員が約800人増えた。

私立大学には、生き残りをかけた経営戦略として教員養成系学部をつくった側面がある。教師の需要は高まるという、国とは正反対な見通しを立てた。十分な質保証ができるなら、私立にがんばってもらうしかない。そして、現職教員の過重負担を少しでもやわらげてほしい。

どうやら教師の養成は私立に任せるという、国の思惑がはっきり示されたようだ。総選挙で仮に安倍首相が教育費無償化を唱えても、裏ではこういう事態が進行していることを忘れてはいけない。

優秀な教師を育てるため、国は教育学部をつぶす罪滅ぼしに、せめて私立の教育学部の教師志望者に経済的なサポートをしたらどうか。

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