2017年9月1日、バングラデシュのテクナフ(Teknaf)にて、国境を越える途中、歩けなくなったロヒンギャ難民の女性を抱えて運ぶ、現地の男性
REUTERS/Mohammad Ponir Hossain
国連総会がニューヨークの国連本部で開催され、世界を取りまく問題について議論が交わされた。
核開発を急速に進める北朝鮮の脅威、イラン問題、気候変動への対応策に加えて、各国首脳はロヒンギャ(Rohingya)とミャンマー軍の対立が深刻な人道危機へと拡大し、状況が悪化しつつあることについても意見を交わした。
数十万のロヒンギャがミャンマー軍による暴行、拷問を受け、居住地を追われている。しかし、8月末に起こった大規模な弾圧が明らかになるまで、ロヒンギャとミャンマー軍との対立について表立った報告はなされてこなかった。
ロヒンギャの大半はイスラム教徒で、仏教徒が大多数を占めるラカイン(Rakhine)州に、数世紀にわたって定住してきた。ミャンマー全体では、人口の約2%を占める。
ミャンマーから国境を越えてバングラデシュのウキア県に入り、クツパロン(Kutupalong)難民キャンプの近くで食料の配給を待つ。
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8世紀頃からミャンマーに居住しているが、ミャンマー政府は市民権を認めていない。
リキシャに乗り、北のシットウェ(Sittwe)の町へ向かう。
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イスラム教徒のロヒンギャは、市民でも少数民族でもなく「不法移民」と定義されている。国籍を持たないロヒンギャ族は、移動の自由や高等教育を受ける権利がなく、公職にも就けない。
雨が降るコックス・バザール(Cox’s Bazar)の臨時難民キャンプ。仮設シェルターの中で膝を抱える子どもたち。
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ロヒンギャの大半はラカイン州に暮らしていた。ミャンマーの中でも最貧困地域で「収容所のような小屋」が立ち並ぶ。生活必需品や生活インフラがなく、それらを享受する機会もないとアルジャジーラは報じた。
弾圧から逃れたラカインのロヒンギャの家族。シットウェの臨時国内避難民用の仮設キャンプにて。
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出典:Al Jazeera
ロヒンギャは「世界で最も迫害されている少数民族」であり、常に困難にさらされてきたとされるが、状況が急激に悪化したのは1962年の軍事クーデターの後だ。
コックス・バザールで、地元民からの救援物資を求めて手を伸ばす。
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「非公式選挙」に勝利したアウン・サン・スーチー(Aung San Suu Kyi)氏による、軍事政権から民主化ミャンマーへの移行は困難を極めた。軍事政権による圧政はようやく終わりを迎えたが、ロヒンギャにとって、アイデンティティの維持は困難なままだった。
シンガポールのセントーサ(Sentosa)島で、シンガポール在住のミャンマー人に向かって演説するスーチー氏。
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8月、ロヒンギャとミャンマー治安部隊の間の緊張は急速に高まった。ミャンマー政府がテロ組織と定める武装勢力、アラカン・ロヒンギャ救世軍(Arakan Rohingya Salvation Army)が治安部隊を襲撃し、隊員12名を殺害したからだ。アラカン・ロヒンギャ救世軍が、ロヒンギャからどの程度の支援を受けているかは分からない。
シャー・ポリル・ウィップ(Shah Porir Dwip)の岸辺で、子どもを引っ張り上陸しようとするロヒンギャ難民の男性。ベンガル湾を船で渡り、バングラデシュとミャンマーの国境を越えてきた。
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これに対してミャンマー政府軍は同月、ロヒンギャの武装勢力の排除を目的に「クリアランス・オペレーション(clearance operation)」と称する作戦を開始した。国連はこれを「典型的な民族浄化」と述べている。
疲れ果てた女性が抱き抱えられて岸へと向かう背後、ミャンマー側の対岸からは煙が立ち上る。
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国際人権監視委員会(Human Rights Watch)によると、ミャンマー政府軍は8月25日から9月14日までに、62カ所のロヒンギャの村を焼き討ちした。攻撃された村々では、948棟が焼失した。
ラカイン州のマウンダウ(Maungdaw)郊外のウ・シェイ・キャ(U Shey Kya)村の打ち捨てられた民家。
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ラカイン州のロヒンギャの4分の1にあたる40万人以上が、バングラデシュ、マレーシア、インドなどの隣国に避難した。何千人ものロヒンギャ女性が、ミャンマー軍兵士による暴行やレイプの被害にあったと伝えられている。
2017年8月30日、バングラデシュのコックス・バザールに仮設されたクツパラン難民キャンプ付近まで辿り着き、涙するロヒンギャ女性。
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ロヒンギャ難民の大半を受け入れたバングラデシュも貧困国であり、国際的な支援がなくては、もはや難民を受け入れることはできない。
コックス・バザールの難民キャンプで雨水を集めるロヒンギャ難民の少女。
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インドはロヒンギャ難民を受け入れているが、ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相は、ミャンマー軍による攻撃については言及していない。だが同国の内務大臣は、ロヒンギャ難民を不法移民と呼び、国家の安全を脅かす存在であるとした。
バングラデシュ、コックス・バザールのバルカリ(Balukhali)臨時難民キャンプで、現地組織が配給する救援物資を求め、手を伸ばすロヒンギャ難民。2017年9月14日。
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アウン・サン・スーチー氏は最近まで、弾圧について沈黙を続けてきた。スーチー氏は、ロヒンギャの窮状を非難する国際社会の声が高まったため、参加を予定していた国連総会を欠席した。
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9月19日(現地時間)、スーチー氏は「我々は全ての人権侵害と不法な暴力を非難する。我々は全土における平和と安定、法秩序の復旧に注力する」とスピーチの中で述べた。
スーチー氏は「宗教や人種、政治的な立場に関わらず、国の法律と人権を侵害する全ての人に対して行動を起こす」と付け加えた。
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スーチー氏のロヒンギャ危機への明らかに消極的な対応を受け、同氏が受賞したノーベル平和賞のはく奪を求める声があがっている。これまでに40万人を超える署名が集まった。
2017年9月6日、ミャンマーのナイピタウ(Naypitaw)で行われたインドのナレンドラ・モディ首相との記者会見で語るアウン・サン・スーチー氏。
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ノーベル賞受賞者も、消極的なアウン・サン・スーチー氏を批判している。マララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)氏は次のように記した。「ここ数年間、私はこの悲劇的で、恥ずべき行いを非難してきた。そして、同じくノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スーチー氏が行動を起こすことを待っている」
学生とのイベント会場に到着し、手を振るノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏。2017年8月31日、メキシコシティにて。
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1984年にノーベル平和賞を受賞した、南アフリカの元大主教デズモンド・ツツ(Desmont Tutu)氏は「私の姉妹へ、もしも、あなたがミャンマーの政権トップであり続けるための政治的代償が沈黙であるならば、それは明らかに大き過ぎる」と公開書簡に記した。
「国内の平和を守れず、全ての人の尊厳と価値を認め、守ることができない国は、自由な国とはいえない」とも記している。
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2016年、ヨサフザイ氏とツツ氏を含めた22人のノーベル賞受賞者が、国連安全保障理事会に対して危機の沈静化とロヒンギャの救済を求める公開書簡を送った。ダライ・ラマ14世も、ジャーナリストに対して、ミャンマーは「御仏を思い出すべき」だと語った。御仏ならば「必ず、ロヒンギャに救いの手を差し伸べたはずだ」。
ワシントンで開かれた全米朝食祈祷会に参加したダライ・ラマ14世。
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米国務長官レックス・ティラーソン(Rex Tillerson)氏は9月19日、スーチー氏と会談し、難民問題の現地調査を行う国連の調査団の受け入れを要請したと報じられている。
米国務長官レックス・ティラーソン氏。
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出典:AP
「どれだけの人が難民となったのか、あるいは殺害されたのか分からない」と難民支援団体の責任者、エリック・シュワルツ(Eric Schwartz)氏は述べた。「しかし、ラカイン州のロヒンギャのコミュニティで、虐殺と混乱が起きていることは事実。誰にとってもショッキングな出来事であるはずだ」
バルカリ臨時難民キャンプの近くで、年老いた女性をてんびん棒で運ぶロヒンギャ難民の子供たち。
REUTERS/Danish Siddiqui
[原文:'The most persecuted minority in the world': Here's what you need to know about the Rohingya crisis]
(翻訳:忍足 亜輝)