- グーグルは、HTCのスマートフォン部門の一部を11億ドル(約1230億円)で買収。2000人がグーグルへ移籍する。
- 近年苦境に陥っていたHTCにとって、救いの手となった。
- アナリストによると、今回の買収はグーグルのスマートフォン事業への注力を反映している。同社は自社ブランドのスマートフォン「Pixel」でアップルやサムスンと対抗している。
今回の買収には、2つの大きな理由があるとアナリストは指摘している。
Spencer Platt/Getty Images
数週間前からうわさされてきたことが、ついに正式に発表された。グーグルは、HTCのスマートフォン部門の一部を買収する。
買収額は11億ドル。グーグルは苦境に立つHTCから、エンジニアの大部分を獲得し、ハードウエア事業にいっそう注力していく。
今回の買収には、2つの大きな理由があるとアナリストは指摘している。
第1に、HTCの救済。HTCを存続させ、グーグルの主要パートナーがハードウエア市場から脱落することを防ぐ。
第2に、グーグルの主力スマートフォン「Pixel」の強化。アップルやサムスンといった競合製品に対する競争力を高め、他のスマートフォンメーカーに対して、Androidでできることの優れた事例を提示していく。
買収の内容
グーグルは正確には、何を買収するのか? HTC全体を買収するわけではなく、モトローラ買収時のようにスマートフォン部門全体を買収するわけでもない。
グーグルが今回、獲得するのはHTCの「Pixel」部門であり、すでに同部門で仕事している従業員だ。2000人がグーグルに移籍する。これとは別に、グーグルはHTCが保有する知財の非独占的ライセンスも獲得した。
今回の買収は、9月21日(現地時間)、2社合同で発表された。グーグルのハードウエア部門担当上級副社長リック・オスターロー(Rick Osterloh)氏は、ブログに次のように記した。
「これからグーグル社員となるこれらの人々は、すでにPixelで緊密に協力している素晴らしい人たちだ。今後、1つのチームとして素晴らしい成果を達成できることに興奮している」
だが2社の発表は、詳細にほとんど触れていない。CCS Insightのアナリスト、ベン・ウッド(Ben Wood)氏は、今回の買収に工場などの生産拠点が含まれるかどうかは不明だと語った。
バンクオブアメリカ・メリルリンチのアナリストチームは、生産拠点は含まれないと見て、顧客向けメモに次のように記した。
「取り引きの詳細はまだ不明確。生産拠点に関する言及はない。ハードウエア製造については、グーグルは引き続き、外部委託するようだ」
買収理由その1:苦境に陥ったHTCの救済
HTCのフラッグシップモデル「U11」。
Jeff Dunn/Business Insider
HTCはかつて、スマートフォン市場の主要プレーヤーだったが、近年はサムスンやアップルといった競合に対して苦戦を強いられてきた。現在は将来の主力分野として、VR(仮想現実)部門にいっそう注力している。
しかしHTCは、数年にわたってグーグルの主要パートナーであり続けた。その最新の成果が「Pixel」だ。グーグルは、HTCのスマートフォン事業の先行きと、同社のリソースに関して以前から懸念を抱いていたとウッド氏は指摘した。
「間違いなく、これは守りの一手だ。グーグルはPixelの開発を続けたいと考えており、主要サプライヤーの1社が良い状態ではないことを懸念していただろう。グーグルはおそらく、Pixelの開発に必要なリソースを確保しておくために、HTCを確実に救済しておく必要があった」
だが、それだけではない。
買収理由その2:Pixelにより注力するため
2016年に発表されたPixelは、グーグルにとって大きな方向転換となった。同社はかつて、Nexusシリーズという自社開発のスマートフォンを発表していたが、Nexusは主にAndroidスマートフォンの標準を示す象徴的なモデルだった。他のメーカーにAndroidの可能性を示したが、決して多くは売れなかった。
それとは対照的に、Pixelは高級モデルとして展開されており、アップルのiPhoneやサムスンのGalaxyと競合している。
つまりHTCの買収は、グーグルが現状維持を目指したものではない。Pixelに引き続き注力し、関わっているエンジニア全てを自らのコントロール下に置くことでPixelの開発を加速させることを示した。
「私は今回の買収は、グーグルがハードウエア事業にいっそう注力するものと受け取っている」と、調査会社ガートナーのリサーチ部門担当バイスプレジデント、アネット・ジマーマン(Annette Zimmermann)氏は述べた。
「今回はモトローラを買収した時とは違う。あの時、狙いは特許だった。HTCは重要な特許を持っていない。つまり、ハードウエア、ソフトウエア、ユーザーエクスペリエンス、AIの全てをグーグルに最適化し、自社のハードウエア事業を強化することがその目的だ」
ウッド氏もまた、今回の買収によって、Pixelは今後もグーグルが考えるAndroidのベストな事例であり続けるだろうと述べた。
「スマートフォンがどれも同じものに見えるようになっている今、スマートフォンへの関心は薄れる一方。だから、誰かが積極的に言わなければならない。『違う! スマートフォンはつまらないものではない。これでどんなにクールなことができるか見せてあげよう』と」
今後のHTCのスマートフォン事業への疑問
HTCは今回の買収によってスマートフォン事業から撤退するわけではなく、他のフラッグシップモデルを2018年に生産する予定と述べた。だがアナリストは、その将来については懐疑的だ。
「グーグルが買収に踏み切らなければ、HTCは次の四半期も赤字となり、残った取引先と細々と事業を続け、おそらく最終的にはスマートフォン事業から撤退していただろう」とジマーマン氏は記した。買収に応じることで、「自社が持つスマートフォンのノウハウをシリコンバレーに送り出せる。これは短期的な資金繰りのためで、明らかにスマートフォン事業の長期的な戦略とはいえない」と続けた。
ウッド氏も次のように述べた。
「HTCはスマートフォン事業の継続を発表した。しかし、マーケットの状況が全てのスマートフォンメーカーにとって厳しい以上、同社が長期的な道を見出すことは難しいだろう」
[原文:The 2 key reasons behind the $1.1 billion Google-HTC smartphone deal]
(翻訳:まいるす・ゑびす)