27歳 商社マンがエクセルYouTuberになったワケ —— 「お金稼ぎよりも信頼貯めたい」

大手総合商社の経理マンとして働く傍ら、Microsoft Excelの使い方をわかりやすく解説する動画チャンネル「おさとエクセル」を公開する“商社マン兼エクセルYouTuber”こと長内孝平さん(27)。

2017年9月までにアップした動画数は約70本、チャンネル登録数は4936と、この分野で独自の立ち位置を築く。 就職人気ランキング上位に入る大手商社に入社しながらも、「ここにずっとしがみつく気はまったくない」と公言してきた長内さん。そのキャリア戦略とは?

西村さんと長内さん

商社マンYouTuberとして活躍する長内孝平さん(左)。

長内さんに学ぶボーダレスワーカー術

・上司に、先輩に、友人に、家族に、いつでも夢を語り続ける

・「人の役に立つこと」を進んでする。継続してする。全力でする。

・本業でも自分のブランディングにつながる複業コンテンツを選ぶ。

西村:就職先として商社は候補だったんですか?

長内:グローバルな仕事に憧れていたという気持ちはありましたが、先輩から「なんかお前、商社っぽいよ」と言われて、最初に内定もらったところに入りました。でも、当時も今も、一生ここで働くつもりはありません。

長内孝平さん。

西村:YouTuberとしての活動を始めたのは入社する3カ月前だったと。動画撮影ってけっこう時間もかかるし、軽い気持ちではできませんよね。周りは卒業旅行一色の時期に、なんで始めようと思ったんですか?

長内:もともと起業家志向があって自分でコンテンツを作ってみたいという気持ちがベースにありました。

あとは外的要因が大きくて、僕は大学でコーポレートファイナンスを専攻していて、Excelでいろんな財務関数を使いながらモデリングをするゼミに所属していたんです。海外インターンを経験する中でも、「言葉で勝てなくても関数なら」と一生懸命勉強した結果、人よりできるようになったので後輩にも頼られるようになって。毎回マンツーマンで教えるのが面倒になったので「動画に上げておくから見て」と言えるほうがラクかなと(笑)。

西村:なるほど、たしかに(笑)。

自分の動画で生産性が上がるなら

長内:もう一つ大きな理由があります。アメリカ留学時代に10万円くらい使って海外のExcelラーニングコンテンツを買い漁って勉強していた時、たまたま出合ったコンテンツの一つに、画面の右下に常に講師の顔の映像が出ているものがあって、「これ、面白いな。日本にはないから同じようにやったらウケるんじゃないか」と思いついたわけです。

西村さん

西村:素晴らしい! 孫正義さん的に言うと動画コンテンツのタイムマシン経営ですね。でも、そうはいっても就職したら忙しくなるし、やめてしまう人がほとんどだと思うのですが、長内さんはどうして続けていけたんですか?

長内:根底にあるのは、「人の役に立ちたい」という気持ちが強い人間だということだと思います。国家公務員をやっていた親父の影響で、人のために尽くす生き方ってカッコいいなと憧れるようになって、学生時代も自分に何ができるのか、ずっと模索していました。

スティーブ・ジョブズみたいな世の中を変える発明家に近い起業家になれたらすごいなと思いながら、結局行き着いたのは「困っている人にExcelを教える」というすごく些細なこと。でも、シンプルに周りの人が喜んでくれるし、自分が動画を作って公開することで世の中の人たちが生産性を上げてハッピーになってくれるんだったら、それはそれで嬉しいことだと思えたんですよね。

長内さん

西村:ちなみにYouTuberとしての収入は?

長内:入らない設計にしています。

西村:これだけのチャンネル登録数があれば、ある程度の収入源になると思うけれどあえてそうしない。

長内:本業の会社に対して「あくまで社会貢献的な活動としてやっています」と説明できる根拠にするためでもあるし、僕にとってYouTuber活動はお金を貯めるためではなく、信頼を貯めていくための位置付けなんです。実際、こうやって西村さんと話ができる経験そのものが価値なんです。

やりたいことのための“滑り止め的発想”

「自分が世の中をよくするだけではなく、世の中をよくする人を増やす」というのが人生のミッションだと明言する長内さん。就職もYouTuberとしての活動も、そのミッションを達成するためのプロセスの一つに過ぎないと考えているという。

西村:普通、大手総合商社に就職したら、「一生安泰だ」としがみつく人が多い中で、長内さんの場合は最初から“滑り止め的発想”で就職している印象がありますね。

長内:すみません。ぶっ飛ばされそうですね(笑)。

西村:実は最近の人事コンサルタント界隈では流行りのキーワードで、僕は「滑り止め的就活論」と呼んでいるんです。本当にやりたいことが明確にある。でも、それを実現するには時間がかかるし、準備期間を支える基盤や基礎スキルを鍛えるために、“とりあえず就職”するという。僕の古巣であるリクルートには昔から多かった志向ですが、最近は他にも広がっていて、特に2016〜17年卒の社員には顕著な傾向がある。

長内:僕の場合は、それほど戦略的に描いたというより、単純に「役に立ちたいから続ける」という思いが強かっただけだと思います。でも、結果として、本業の社内でもウケは悪くないんです(笑)。

エクセルYouTuberだってことはかなり知れ渡っていますし、今朝もこれから出社ですが、メールを開いたらまず「この関数、教えてください」という社内問い合わせ対応から仕事が始まるのがほぼ日課になっているんで。海外の駐在員からも来て追いつかないくらいの日も(笑)。

西村さんと長内さん

複業で広がる社内人脈

西村:すごい! IT企業に勤めながら自撮ラー活動をしているりょかちさんと同じく、“社内キャラ化”の複業術ですね。ということは、複業によって、社内人脈も広がっているんじゃないですか?

長内:それはすごくありますね。さらにいえば、業務として社内向けの勉強会を企画するにあたって「動画で作ってくれないか」というオファーまで来ています。

西村:そこまで想定していたんですか?

動画撮影セット

約10万円かけて揃えた動画撮影セット。「おさとエクセル」シリーズでは説明画面に常に自分の顔が見える編集をするのがこだわり。「『この人に教えてもらっている』という親近感を重視しています」。

撮影:竹井俊晴

長内:少なくともExcelというコンテンツであれば、バッシングは来ないだろうという予測はしていました。

西村:ナチュラルに緻密な戦略家ですよね。「複業を始めたいけれど何がしたいか見つからない」という人に向けて、「本業にも役立てることから探せ!」という教えにもなると思います。

今後はどういう活動を目指すんですか?

長内:僕みたいに本業以外に成し遂げたいことがある商社マンを集めてコミュニティを作りたいと思っています。やりたいことがあるのに踏み出せずにモヤモヤしている同年代って、結構いるんで。自己実現の欲求を発散できるきっかけを持てないまま、気持ちを持て余している若手は少なくないと思うんです。

西村:面白いと思います。だって、商社に就職するような人って、学生時代までかなりアクティブで多方向に発想できる逸材ばかりであるはず。

長内:商社勤めってルーティンで海外赴任もあるので、まずはオンライン上のfacebookでつながって、徐々にオフラインでの会合も企画していこうと思っています。先日、試しに6人くらいで集まってみたんですが、結構盛り上がりましたよ。

西村:いいですね。新しい商社マンの働き方、ぜひ開拓していってください。コミュニティづくりは僕の専門分野でもあるので応援していきますよ!

西村創一朗の「きょうの複業ポイント」

総合商社の会社員として働きながら、Excel専門のYouTuberとして活躍する長内さん。

旧来の価値観からすれば、「会社員という立場でありながら、副業なんぞにうつつを抜かしているだなんてけしからん。本業に集中すべき。」といった誹りを受けていたことだろう。

ところが長内さんは、「YouTuber活動はお金を貯めるためではなく、信頼を貯めていく」ためにやっていると話されていた通り、副収入を得るためにやっているのではない。人の役に立ちたい、信頼を貯めて影響力を高め、より多くの人の役に立ちたい、という一心で複業に取り組んでいる。

結果、インターネットの世界で多くの指示を集めるだけでなく、社内からも「Excelのことなら長内に聞け」という確固たる信頼を獲得している。

こうして複業を通じて誰かの役に立ち、社内外からの信頼を貯め続けていくことが、将来社内で大きなプロジェクトを動かす際にも、間違いなく大きな原動力になるだろう。

「商社マン」として、あるいは個人として、会社の枠にとらわれずに、長内さんがどんなチャレンジを仕掛け、世の中に影響を与えていくのか、今から楽しみでならない。

長内流の働き方が、10年後には商社マンの働き方のスタンダードになるはず、と確信している。

(写真:竹井俊晴)


長内孝平:1990年、宮城県仙台市生まれ。神戸大学経営学部在学中に、米ワシントン大学に留学。卒業後、大手総合商社入社。経理部に所属し、日々の業務をこなす傍ら、大学を卒業する半年前からスタートしたYouTubeチャンネル「おさとエクセル」シリーズを展開し、注目を集める。現在はリアルコミュニティも準備中。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

Sponsored

From the Web

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい