ベーシックインカムは天使か悪魔か? アメリカで史上最大の実験

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Y Combinatorの社長サム・アルトマン氏

Drew Angerer/Getty

シリコンバレーの有名なスタートアップインキュベーターであるY Combinatorは、同社が予定しているベーシックインカムの実験について詳細を明らかにした

同社は3000人の参加者を2つの州から集め、彼らを2つのグループに分ける。最初のグループの1000人は、最大5年にわたって、月1000ドル(約11万円)を受け取る。2つめのグループの2000人、実験では「コントロール・グループ」と呼ぶ2000人は、月に50ドルを受け取る。

実験のゴールは、「無条件でお金を受け取った人のクオリティ・オブ・ライフと仕事へのモチベーションはどうなるのか?」というシンプルだが、悩ましい問題の答えを見出すこと。

Y Combinatorの社長サム・アルトマン(Sam Altman)氏は2016年5月、同社ブログで、全市民が無条件で一定額のお金を受け取る、富の分配システム「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」の実験によって、その質問に答えを出したいと記した。

アルトマン氏の周囲のシリコンバレーの人たちは、UBIを支持、もしくはUBIに関心を示している。今後、数十年のうちに人の仕事が広範囲にわたってAIやロボットによって奪われると経済学者たちが考えていることに対する、解決策となりうると考えているから。UBI支持者たちは、UBIはAIやロボットによって仕事を、つまり収入を失う人に一定のお金を与えることができると主張する。

また支持者は、UBIが人々を貧困から救い、生活水準を底上げし、より大きな繁栄を生み出すと言う。一方で懐疑派は、UBIは仕事を通じて収入を得ている人々から、仕事へのモチベーションを徐々に奪うと反論する。

しかし、これまで、この議論に結論をもたらすような長期的な実験は行われてこなかった。Y Combinatorの実験は、アメリカ史上最大級の実験であり、これまで先進国では見られなかったデータを提供するはずだ。同社はすでに、先行実験をカリフォルニア州オークランドで行い、参加者は1000〜2000ドルのUBIを受け取っている。先行実験の目的は、アメリカでのUBIの実現可能性を確認することだ。

新たな実験では、UBIの効果を測る様々な要素を確認する。具体的には「個人の時間の使い方、お金の状況、メンタル面と身体面の健康状態の指標、子どもや社会生活への影響」と、同社はブログに記している。2017年末までに約100人が参加する予定。注目すべき最も重要なことは、人々の労働意欲が維持されるか、地域社会とのつながりを感じられるか、社会生活から逸脱せずにいられるかどうか、そしてUBIの採算性だ。

Y Combinatorは、地元行政機関および政府と連携し、UBIがすでに人々が受けている社会保障と対立しないよう調整していく。

「実験の結論として、UBIについての基本的な疑問が解消され、社会的な負担と将来への取り組みへの議論が進むことを期待している」

この他に、UBIに関する確証的なデータが期待される大規模な実験が、東アフリカで行われている。チャリティ団体のGiveDirectlyが昨年1年間、先行実験を行ってきた。この秋、GiveDirectlyはさらに大規模な実験を開始する予定。6000人が、12年にわたって何らかの形でベーシックインカムを受け取る。

アルトマン氏は、UBIに期待する一方で、全てのアメリカ国民にとって有効かどうかは分からないと語る。

「私が分からないのは」とアルトマン氏は昨年12月、Business Insiderに語った

「UBIによって、人はより幸福になれるのか、生きる意味や充足感を得るために、仕事は不可欠なのかということだ」

[原文:One of the biggest VCs in Silicon Valley is launching an experiment that will give 3,000 people free money until 2022

(翻訳:忍足 亜輝)

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