2018年初めにも日本にオープンすると言われるニューヨーク発のコワーキングスペース「WeWork」は現在、世界中で2.5日に1軒をオープンさせる勢いだ。なぜそんなに人気があるのか。ニューヨークにあるWeWorkをオフィスとして使っているアメリカ人や日本人に聞いてみた。
8月上旬、友人がニューヨークのミッドタウンと高級オフィス街のど真ん中で会議室を借りて、イベントを開催した。「こんないいところをどうやって見つけたのだろう」と思いながら到着すると、実はWeWork内にある会議室だった。
会議室に入った途端に、なんとも言えない心地よさに包まれた。
会議室にある三角形のテーブル。組み合わせを変えれば、部屋を自由に使うことができる。
15人ほど入る会議室の扉は、狭い廊下で開いた扉が邪魔にならないように、引き戸になっている。ガラス張りでスーッと開き、閉める際は途中で手を放しても、重さでカチッと閉まる。
イベントは、以前ニューヨークに住んでいたフリーアナウンサー、前田真里さんらが開いた日本人向けの話し方講座だ。講座が始まってすぐ、テーブルの配置が変わっているのに気がついた。普通の会議室のように長いテーブルではなく、一辺が60センチほどの三角形。組み合わせによって細長い台形にすることもできれば、三角形の島を作るなど、自在に形が変えられる。
急成長でオフィスを探す暇がない
前田さんらに会議室を提供したのは、マーケティング・コンサルタント企業のCBIデジタル。オフィスをWeWorkに構えている。マイク・リ最高執行責任者(COO)に、WeWorkの使い勝手を聞いた。
マーケティング・コンサルタント企業CBIデジタルのマイク・リ最高執行責任者(COO)。
同社は2009年設立。ベトナム出身の創業者が、マンハッタンから離れたクィーンズ区に25人のオフィスを構えていた。2014年には、中小から大手企業までクライアントが増え、 創業者とリ氏は毎日、4、5件ある打ち合わせのためマンハッタンまで通うようになった。オフィスが中心部にも必要だった。
「急速に成長していたので、オフィスを探す暇もありませんでした。そこで、WeWorkのサイトに行くといい立地にある、ふさわしいオフィスがありました。値段も適正で、タブレット端末の上で、契約書に記入し、サインし、それで決まりでした。WeWorkは、私たちのようなベンチャーのことをよく理解しているのです。急成長していると、業者に会って、物件を見に行って、賃貸料を交渉して、などという時間はないのです」
現在は、プロモーションキャンペーンを利用して、月額5500ドルの8人用オフィスを2400ドルで借りている。社員のうち、ここに通勤しているのは、創業者とリ氏を含め4人だ。
「10人になれば、明日にでもより大きな部屋に移ることができる。ここにはまだ空いているところがあります。会社は成長していますし、価格よりもスペースがすぐに得られるかが重要なのです」
WeWorkの何が一番魅力なのだろうか。
「エネルギーです! コワーキングスペース全体に満ちているエネルギーが、大好きです。ほかの入居者は気さくでオープンですが、プライバシーには立ち入りません。成長しているベンチャーや、クリエーティブなアーティストにとっては、このエネルギーに刺激されながらも、居心地よく感じることが、大切です」
WeWork内にあるジム。
実際に、CBIデジタルのオフィスに入ってみた。
オフィスの壁が、黒い縁取りのガラス張りであることが、以前から気になっていた。他のオフィスの人の動きが視界に入り、気が散らないのだろうか。
実際にデスクに座ってみると、ガラスの壁は頭の少し上あたりまで「すりガラス」になっていた。座って仕事をしている限り、三方を囲まれている他社の様子は、全く気にならない。
キッチンやスナックもあり、クリエーティブで居心地の良い雰囲気が特徴。
白木のデスクもすべすべと手触りがよく、無味乾燥な事務机と異なり、とても気持ちいい。この辺りのデザイン性が、WeWorkの特徴だ。
「会議室もスマートフォンのアプリで異なる広さのものを一覧して、一瞬で予約できます。キッチンもスナックもコピー機も、必要なものは何もかもあり、『オフィス回りに時間を取られなくても済む』というのが、忙しい中、心を落ち着かせてくれます」
実感した「規模のメリット」
次に訪ねたのは、マンハッタンからイースト・リバーを渡った対岸にあり、テクノロジー系のベンチャーがひしめいているおしゃれな地区「DUMBO(Down Under Manhattan Bridge Overpass)」のWeWorkだ。ミッドタウンの落ち着いた雰囲気とは異なり、ポップアップのブティックがあったり、ワインテイスティングをしていたり活気があった。
ここで会ったのは、EastMeetEastの創業者兼最高経営責任者、時岡真理子さん。アジア人に特化したマッチングサービスを提供し、500 Startupsなどから出資を受け、会員数も成長中だ。2014〜2017年春までWeWorkにオフィスを持っていた過去の利用者だ。
EastMeetEastの創業者兼最高経営責任者、時岡真理子さん。
「この場所はウォール街に近く、テクノロジー系のベンチャーが多く、とても活気がありました。イベントも多く、活気あるクールな場所で働くという経験が価値になっていました。入社面接に来た人がWeWorkのデザインを見て、Twitterなどに写真をアップしているのを見ると、この環境にいい印象を持っているのが、よくわかります」
時岡さんのお気に入りのインテリア。WeWorkは企業が成長に合わせて利用できるのも魅力の一つ。
「ベンチャーというのは、成長のステージごとに価値がどれほど出せるかが重要です。WeWorkは成長に合わせて、利用できるのが良かった。成長のために必要なエンジニアは、自由でクリエーティブな雰囲気で働けるかどうかが大切なので、面接に来た際にWeWorkの中を見てもらえるのはメリットでした」
しかし、従業員の規模が10人を超えると、WeWorkでは一人のコストが、ガクッと上がるという。今年4月にはWeWorkを出て、オフィスに移転した。
一方、現在DUMBOのWeWorkに今オフィスを構えているのは、イベントチケットサービスのPeatixで、共同創業者兼CEOの原田卓氏。東京、シンガポールにも事務所がある同社にとって、WeWorkが世界展開している「規模のメリット」を痛感しているという。
イベントチケットサービスのPeatixで、共同創業者兼CEOの原田卓氏。
「ニューヨークではマンハッタンでもクィーンズでも、海外では香港、シンガポールでも、どこに行っても同じ環境で使える。ソフトバンクが340億円も出したのも、その規模の経済に注目したのでしょう」
ベンチャーは、人数が急速に増えたりするのにもかかわらず、マンハッタンの普通の事務所は、リース期間が1年、2年と決められていて身動きが取れなくなる。しかし、WeWorkは月単位で出入りができる。
「ベンチャーにとって、かゆいところに手が届くサービスなんです」
WeWorkが、日本進出し、東京に最初のコワーキングスペースを導入するが、将来性はあるのか。原田氏は、こう見る。
「やはり規模を利用していける企業と組まないと、成り立たないのではないでしょうか。フリーランスの個人だけだと商売にならないでしょう。東京では安い事務所で、坪1万円からでも見つかる。それとどう勝負するのかが、決め手ではないでしょうか」
(文・写真:津山恵子)
【イベント決定!】WeWork日本法人CEOと語る「2020年、日本の働き方はどうなる?」
2018年、日本にオープンするニューヨーク発のコワーキングスペースWeWork。
Business Insider Japanでは、WeWork日本法人CEOのクリス・ヒルさんを招いたトークイベントを開きます。
WeWorkは2010年に創業し、世界15カ国で展開。今世界でもっとも成長著しいスタートアップ企業です。世界中、自分の好きな場所で24時間仕事場にアクセスでき、そこで新たなネットワークを広げることができる、というビジネスは日本人の働き方をどう変えるのでしょうか。
イベントでは、ヒルさんにWeWorkのビジネスや日本の進出にあたっての思いを、ニューヨーク在住のジャーナリストでクリスさんを取材した津山恵子さんがインタビューします。
後半では、複業研究家の西村創一朗氏やシェアリングエコノミーを広げる活動をしている石山アンジュさんを交え、「2020年の働き方はどうなる?」をテーマに議論します。
働き方に関心がある方、ぜひご参加ください。
【第1部】
WeWork日本法人CEO・クリス・ヒルさんに公開インタビュー
「WeWork日本進出の戦略」
(聞き手はジャーナリスト・津山恵子さん)
【第2部】
トークセッション「2020年日本の働き方はどうなる?」
クリス・ヒルさん、西村創一朗さん、石山アンジュさん
(モデレーターBusiness Insider Japan統括編集長 浜田敬子)
日時は10月18日(水)19時〜21時、場所は渋谷のBook Lab Tokyo(東京都渋谷区道玄坂 2-10-7新大宗ビル1号館 2F)。参加費は5000円(ツードリンク付き・ネットワーキングタイムあり)。ご興味ある方はぜひ下記のPeatixのページからご登録ください。