食の市場で買収、投資を2016年から急ピッチで進める企業がある。創業明治35年(1902年)、神戸市に本社を置くコメ卸最大手の神明だ。
コメと相性の良い食材を扱う企業を買収または投資し、アジアなどの海外市場でコメの需要拡大につなげていくことが神明の戦略だ。
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神明は9月29日、回転ずしチェーンを展開するスシローグローバルホールディングスの株式33%を、英プライベートエクイティ(PE)会社のペルミラから379億円で取得すると発表。業界5位(売上高ベース)で、神明の子会社の元気寿司は、スシローとの経営統合を進めるための協議を開始した。仕掛けたのは神明社長の藤尾益雄氏。
「神明を通じて、この(スシローとの)出合いがあった。良い出合いというものは早々にない」と元気寿司社長・法師人尚史氏は29日の記者会見で話した。スシローの水留浩一社長は、海外で160店舗を展開する元気寿司が培ってきたノウハウは、スシローにとっても大きな助けとなり、統合を実現させて同社の企業価値を高めていくとした。統合が実現すれば、両社が食材を調達する際の交渉力が増すメリットもある。
9月29日の記者会見で並ぶ、元気寿司社長・法師人尚史氏(左)、神明社長・藤尾益雄氏(中央)、スシローグロバールホールディングス社長・水留浩一氏。
Business Insider Japan
国内・海外市場でのコメの消費拡大を狙う神明にすれば、寿司は強い武器になる。コメと相性の良い食材を扱う企業の買収、または投資を行い、アジアなどの海外市場でコメの需要拡大につなげていくことが神明のビジョンだ。少子高齢化や人口減少などの需要のマイナス要因が目立つ日本の外食市場だが、世界全体を見れば食の需要の増加は止まらない。
「日本食の力は世界で強くなってきている。中でも寿司の重要性は高い。寿司で(コメの)消費拡大に繋げられる」と、29日の会見で両寿司チェーンの社長に挟まれ、中央に座った藤尾氏は語った。
神明の投資ラッシュ
神明の投資の勢いは、2016年から一気に加速した。
2016年末に、鯖寿司の製造や鯖加工食品を販売する鯖や(大阪府・豊中市)に出資すると、2017年2月には青果物の卸、東果大阪の全株式を買収。5月に水産物輸入卸のゴダック(東京・中央区)の株式を買収した2カ月後、まいたけやえりんぎ、ぶなしめじ等の生産・販売を行う雪国まいたけの株式49%を米PE会社のベインキャピタルから取得した。
【神明の主な投資実績】
2017年
- 9月 スシロー株33%を379億円で取得する契約に合意
- 7月 雪国まいたけ株49%を取得
- 5月 水産物輸入卸のゴダックの株式取得
- 5月 家庭用総合食材の宅配のショクブン(名古屋市)の株式取得、資本業務提携締結
- 4月 Tokyo Onigiri Laboの株約9%を取得、資本業務提携締結
- 4月 農業及び地方創生コンサルティングのナチュラルアート(東京・港区)の株式取得、資本業務提携締結
- 3月 水産食品の加工・卸売の神戸まるかんの株式取得
- 2月 青果物の卸、東果大阪の株式を買収
2016年
- 12月 鯖寿司の製造、鯖加工食品の販売会社・鯖やに出資
- 4月 焼肉、居酒屋等の外食フランチャイズを全国で680店舗を展開するアスラポートの株式取得、資本業務提携締結
- 1月 ワタミの株式取得、資本業務提携締結
神明は1902年の創業の後、1950年に神戸精米として設立。米穀や麦・小麦粉の卸販売業者として登録された。1972年に神明と社名を改めると、70年代から80年代の高度経済成長期に国内で工場や倉庫の建設・増設を進めた。
その後も、国内における流通網を張りめぐらせる一方で、2011年にアメリカで「シンメイUSAコーポレーション(SHINMEI U.S.A Corp.)を設立させ、海外事業に乗り出した。翌年には、中国で成都栄町食品有限公司を立ち上げ、2013年にShinmei Asiaを香港でオープンさせた。現在は、年間1800億円の売り上げを計上する非上場企業である。
今回、スシローの株式を売却したペルミラ・ジャパン社長・藤井良太郎氏は、「買い手候補は他にもいたが、安定的に持ち続けてもらえる企業に、(株式を)持って頂きたいと思った。食の川上から川下までのサプライチェーンを確立させながら、日本食を世界に広めていこうとする神明は、相応しいと考えた。食は世界では今後、足らなくなる」と、Business Insider Japanの取材に答えた。
投資会社で経験を積んだきた人材を社内に擁する神明の投資の勢いは、しばらく続きそうだ。そして、日本食のグローバル市場での拡大を図る神明の挑戦はこれからだ。
(編集部より:元気寿司・取締役社長の名前を訂正し、記事を再公開いたします。)