量子アニーリングの研究者・大関真之さんの仕事術 —— 目標は「武道館で講演」

how_i_work_ohzeki

Image: 大関真之

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回登場するのは、東北大学大学院准教授の大関 真之さんです。

大関さんは量子アニーリングやディープラーニングの研究を行う傍ら、講演活動や書籍の執筆など、自らの研究分野を世間に伝える活動にも積極的に取り組んでいます。お気に入りのガジェットから時間節約術、仕事に役立った本まで、気鋭の研究者の仕事術について詳しく聞きました。


大関 真之(おおぜき・まさゆき)

東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻の准教授。株式会社ハカルスのチーフ科学アドバイザーも務める。量子アニーリングと呼ばれる計算技術を駆使した新規計算基盤のデザイン、いわゆるディープラーニングをはじめとした機械学習の理論、応用の研究に従事する。東京工業大学で学部、修士課程、博士課程と長くに渡り、儲けとは無縁な基礎的な学問である理論物理学の研究を進める一方で、駿台予備学校非常勤講師として活躍。その後、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教、ローマ大学物理学科研究員を経て現職。

基本的な概念から応用に向けての広がりを感じるように、独特の構成法で講演をすることから、「大関さんの講演を聞いてやっとわかった」と多くの観衆に感動を与える。その結果、多くの大学、研究所、企業からセミナーや講演の依頼が殺到している。大学に引きこもることを良しとせず、普段はどこにいるかわからないほど飛び回り、多くの研究者、企業と共同研究を推進する。近著に『機械学習入門-ボルツマン機械学習から深層学習まで-(オーム社)』『量子コンピュータが人工知能を加速する(日経BP/共著)』『先生、それって量子の仕業ですか?(小学館)』がある。平成28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。


居住地:京都と仙台を行ったり来たり

現在の職業:研究者(大学教員と企業の研究開発顧問、講演で飛び回る)

仕事の仕方を一言で言うと:人に伝えに行く

現在の携帯端末:iPhone7

現在のPC:MacBook Pro (2017)


1. これまでに至る略歴と、現在の仕事に就いたきっかけを教えてください。

もともと、人前に出るのが大の苦手でした。大学に入る頃にこれではいけないなと思い、予備校のティーチングアシスタントや塾講師など、アルバイトで人前に立つ仕事を選びました。その後、大学院生になると予備校の講師デビュー。今でも忘れませんよ、初年度の講義がもう不人気で。アンケートにも不評が書かれていて、相当凹みました。次年度からどうしようかと悩みもがき、その過程で自分のスタイルを築き上げていきました。

代表的なのは、僕は子供の頃からイラストを描くのが好きだったので、その好きなイラストを授業で活かせないだろうか?と考えたんですね。そうしたら、"自分の世界"をそのまま授業に反映させることができるようになったんです。それからは、自分の世界を誰かに伝える仕事がしたいと思うようになりました。

予備校講師をしながら大学院で物理学を専攻して、いわゆる大学教員や研究所に勤める研究者の道も見えてきました。その頃には順調だった予備校講師の仕事を捨てて、研究者の仕事一本にするかどうか、究極の選択を迫られた気分でした。

結局、「いまできることをするべきだろう」「せっかく掴んだチャンスを逃したくない」と考えて、大学で研究を続けることにしました。正直、大学に勤めてからは喋る機会や自分の世界を表現する方法がなくなったので、かなりストレスが溜まりました。

意外なことでしょうが、大学では若い人には授業をさせないんです。一番学生のことをわかって熱心にやってくれるだろう若い先生には授業をさせない、これって最悪の構造だと思います。もちろん教育に傾倒しすぎて他のやりたい仕事をする時間を削がれないように、という配慮でもあるのですが、少なくとも僕は両腕をもがれた状態になりました。

それならば、と。正攻法で自分の世界を表現するには、研究で目立つしかない、研究で注目されるしかない、研究成果の講演を増やすしかないと考えて、色々と仕掛けていくようにしました。幸いにして「カンニング検出」研究が注目されて、講演の機会が増えてから、うまく歯車が回り始めたように思います。

それからは地味な研究でも、予備校講師時代に鍛えた話術で(笑)、「こういう視点で見ると面白いでしょう?」とか、僕の語り口を通して変わった伝え方ができることに気づき、講演が講演を呼ぶ好循環につながって行きました。そうすると本職の方でも火がついて、順調に研究活動もユニークな方向に走ることができました。


2. 愛用している、仕事をうまく進行させるためのツール(ToDoリスト、アプリ、道具など)はありますか?

ガジェット的なものはSonyのデジタルペーパーです。iPadだとやっぱり重いんです。新幹線で移動している間にどれだけ計算やアイデアを醸成しておけるかが勝負なので。でも、ほとんどのことはiPhoneで済んでいます。

また、スマホやタブレットで電子書籍(Amazon Kindle)を読むようにしています。漫画であっても良くて、なんというか、心を動かし続けるのがいい気がします。

最近の流行りは、Amazon Primeで映画やドラマを観ること。こうやって学問的なこと以外のことを色々とインプットしておくと、研究とはまったく関係ないようなことにも反応できるし、そのままの自分で対応できるようになります。

意外に不真面目なんです僕。移動中にとにかくいろいろなことをしてますね。そうそう、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)っていうのはすごい発明だと思います。場所を選ばずに据え置き・携帯で同じゲームができるわけですから。新幹線の中で遊んでいますよ。いつでもゲームで冒険に出る、ひいてはいつでも感動をすることができるので、出張族にはありがたいです。

あとはロジクールの「Spotlight」。発表用のポインタですが、充電がUSBでできるのが最高の利点です。レーザーではなくマウスポインタを動かす形式なので、スクリーン以外の、テレビやディスプレイに映した場合でも使うことができるのがメリットです。


3. 仕事場はどのような環境ですか?

研究室自体はiMacをどーんと置いて、計算するデスクとPCで作業するデスクが1つずつ置いてあります。また、みんなで議論できるようにデジタル黒板「RICOH Interactive Whiteboard D6510」もあります。このデジタル黒板、書き味はまだまだですが、以前のものと比べて表示できる画像が明るくなったので、医療画像などの表示には適しているんですよ。

個人的にはガラス張りの部屋にしたいんですが、大学の施設を借りている以上は難しいですね。ただ正直、研究室にいることは少ないです。新幹線で移動して、どこかの学会会場だったり企業の会議室だったり、共同研究先の大学だったり、さまざまな場所を転々としています。その意味では、主な仕事場は新幹線の中かもしれません。

ちなみにイタリアに1年滞在していたこともあるかもしれないですが、職場にコーヒーは欠かせません。研究者の人って結構コーヒー好きが多いと思います。飲みながら議論したり、計算に詰まったり、アイデアが出てこないときに、とりあえずコーヒー。だからコーヒーメーカーやエスプレッソマシンは欠かせません。


4. お気に入りの時間節約術は何ですか?

時間節約…。新幹線移動ばかりだからですが、メールの対応を移動中にやってしまうことですね。仕事場では、その仕事だけに集中できるようにしておくことです。仕事が捗らない場合は、すぐに場所を変えるなり、休むなり気分を変えるようにしています。

大切なのは、できないときにうだうだしないことです。即断即決。人生は短いですから、悩んだ分だけ損をします。だって、悩んだって結果が変わることはないですから。決めた結果に言い訳をしているだけなんです。誰に言い訳をする必要があるんだっていう。

自分に言い訳するなら、どうせ忘れてしまうのだから気にせず前に進んで、何かをする回数を増やして経験値を増やした方が良いです。うまく行くにせよ、失敗するにせよ、死なない限りは何をやってもいいのだと思います。


5. 携帯電話とPC以外で「これは必須」のガジェットはありますか?

必ずカバンにあるのは、僕の筆圧にあったペンと修正テープ、そしてA4のルーズリーフ。すべてメーカー固定です。もう感覚がすべてです。最終的にはアナログに書き起こさないと気が済まないんです。

  • ペン:ゼブラ ジェルボールペン サラサクリップ 0.7 ブルーブラック
  • ルーズリーフ:コクヨ キャンパス ルーズリーフ さらさら書ける A4 B罫 100枚
  • 修正テープ:トンボ鉛筆 修正テープ MONO モノエアー 6mm

僕が何かを理解した、全体像を把握したかどうかのチェックは、ルーズリーフに自分の考えを一字一句淀みなく間違いなく描き下ろせたときなんです。もちろん実際にはやや(漢字を)間違えるとかありますから、微修正はするのですが、あまりに多い修正が必要なくらいに書き直している場合は、そのアイデアや仕事を理解できていない、まだまだモヤモヤしている、と分かるわけです。

だから感覚を汚さない筆記用具が必須ですね。デジタルペーパーを持っているのに(笑)、清書はアナログなんです。

あとは、写真や動画で講演の記録や研究の記録を残しています。これだけSDカードが安価になり容量も大きくなりましたから、いつも写真を撮るようにしてます。デジタルカメラは常に持っていますね。iPhoneで撮影することもありますが、CanonのPowerShot G7 Xを持ち歩いています。風景とかもそうですが、学会に参加していた人とか、自分の講演風景を撮ってもらうとか。こうした写真は、いつか絶対に役に立つんですよね。

友人が結婚式をあげたら、だいたいそいつの写真を一番持っているのは僕です(笑)。その場その瞬間の空気は、そこでしか得られないものですから、それをできるだけ残しておくのに損はないですからね。


6. 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?

世代だからかもしれませんが、いわゆるゲーム音楽です。特にRPGの戦闘系の曲。マニアックですが「Saga Frontier 2」というゲームの「FeldschlachtIII」という曲が最高に好きです。あれを書いた浜渦正志氏は本当にすごい作曲家だと思います。

ゲーム音楽って基本的に飽きが来ないように作られているので、ずっと聞く作業用の曲としては最高です。しかも戦闘シーンの曲だから緊張感を持ち続けられるわけです。リラックスしすぎないところが良いですね。

7. 仕事において役に立った本、効果的だった本は何ですか?

いわゆる仕事術的な本は一切読んでいませんが、職業柄もあり、朝永振一郎の『量子力学と私』は役立ちました。

イタリアに1年ほど滞在して研究をしていた時に、無性に焦って、無性に寂しくなった時があって。その時に後輩から聞いてこの本を読んだんです。何が面白いって、ノーベル物理学賞までとった人がドイツに滞在している時に、僕と似たような気持ちになって、鬱々としていた経験がまざまざと書いてあったということ。

それで気づいたんです。人間一緒だ、みんな悩み苦しんでいるんだということに。

じゃあ悩むのは当たり前のことなんだから、とっとと次のステージに行くことでいろんな人生を味わって生きよう、だからどんどん進んで行こう、と決意しました。

もしかしたら、人によっては参考になるかもしれません。前向きになります。いや、もしかしたら一緒に後ろ向きになるかもしれませんが(笑)、そういう時にはちょっと今から仕事やめてくる(著:北川恵海)もオススメです。仕事が辛くなっていた時期に駅でふらっと仕事を辞める系の本を探していたんですよ(笑)。そしたらこのタイトルに騙されて、新幹線で号泣。この本は現状をなんとかしたいと思い悩む人にオススメです。楽になります。

8. 現在、どんな本を読んでいますか?

次に書く本のネタ作りもありますが、『異端の統計学ベイズ』です。事実によってのみ行なうところに、事前に知られた知見や予想を入れ込むことができる方法を打ち立てた人の伝記みたいなものです。数学的な理論が、その有効性が故に色々な研究に入り込んでいる様子を見て、刺激を受けています。やっぱり、シンプルだけど考え方として画期的で、世の中全ての問題に関連するくらいの理論を打ち立てたいですからね。

9. 睡眠習慣はどのようなものですか?

とにかく早く・よく寝ることです。朝早い方が絶対効率的です。朝一番に出て朝一番に仕事を終わらせる。午後は他の人と会議とか打ち合わせをしていても、イラつかないようにしておくわけです。

自分の1日を人に奪われたように感じることほど、辛いこともないですから。とにかく寝る。明日のために。

10. 仕事をよりよく進めるために「習慣」にしていることはありますか?

先ほどの朝型習慣もありますが、アイデアは絶対口にすることです。熱意を周りに広げていって大きくしていくこと、人を動かして行くことが大切です。また僕の思考方法でもあるのですが、口にする時に初めて頭で考えて構成するものなのだと思います。

講義や講演の最中に、すごく良い説明ができることがありますが、それは実は本人も初めて聞くセリフだったりアイデアだったりします。僕がとにかく講演を引き受ける、断らない理由もこれなんですが、自分のためにもなっているんですね。

とにかく口を動かす。そうすると頭の中で整理して話そうとするので、今まで思いもつかなかったようなストレートな表現で、本質的なことがつかめたりするんです。だからアイデアは授業のように、人に伝えるようにしています。

11. いまお答えいただいている質問を、あなたがしてみたい相手はいますか?(なぜ、その人ですか?)

庵野秀明さんです。僕、中学高校の頃にコンピュータグラフィックで映画を作っていたんですよ。それで映像技術とか表現にずっと興味があって。ありきたりかもしれないですが、「シンゴジラ」を見て正直圧倒されたんですね。編集と脚本に。

「この国は誰が決めるの?」というセリフがありますが、今日本が直面している問題をまんま一言で鋭くえぐり、迫力と緊迫感をリアルに感じさせる映像と、役者の台詞回し。どんだけ感性が鋭いユニークな人なんだろうって、普段から感心しています(笑)

12. これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください。

「微分ができない人はいるが、英語ができない人はいない」。

これは、東京工業大学在学時の指導教員の西森秀稔氏がいっていた言葉です(笑)。要するに微分は数学を理解していないとできないけど、英語は所詮言葉だから、練習すれば絶対できるようになると。理屈もなく会話の中で慣れ親しんで行くものですから。国際会議という研究成果を披露し合う会合に初めて出る時に言われた言葉です。

結構これは重要なことを言っている気がします。結局、継続してやり続ければできるはずのことを、僕らは結構やらないままにしているんだな、と気づかされました。だって僕は微分ができる。それは長年の努力の継続のおかげですからね。なら英語だって、努力し続ければ良いんだってことです。

13. 仕事を通じて、将来実現したいと考えていることを教えてください。

どんなに笑われようとやりたいことは1つ。武道館で講演です。講演向きではない会場ですが、夢です。昔ミュージシャンが憧れの聖地にしたように、僕のようにアカデミック系の人間が目指す聖地として武道館。面白いじゃないですか。そういう夢のある仕事にしたいんです。

地味に研究をして成果を出すことも重要ですが、それを伝えるということも重要な仕事です。人口が少ない日本だからこそ、その両方をちゃんとやることができる人間を増やして、憧れの的になる職業に研究者がなるべきなんです。

ライフハッカー[日本版]編集部


ライフハッカー[日本版]より転載(2017年9月4日公開の記事)


Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み