「ビットコインは僕らのノアの箱舟」“ブロックチェーン世代”は国にも会社にも依存しない

ビットコインをはじめとする仮想通貨と、それを支える技術・ブロックチェーンの報道が過熱している。大手取引所の調査によると、ビットコイン利用者の50〜60%が20代〜30代、つまり、2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代だ。

なぜミレニアル世代はビットコインに熱狂するのか? ブロックチェーン関連企業で働く3人のミレニアル世代に取材した。

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ICOで株式会社はなくなる?

組織に依存しない生き方を望む人たちが多いとされる日本のミレニアル世代。デロイトトーマツコンサルティングが発表した「2017年 デロイト ミレニアル年次調査 日本版」によると、日本のミレニアル世代は他国と比べ、会社への帰属意識が低く、フリーランスを志向する傾向が強い。

西川達哉

西川達哉(25)。iOSアプリエンジニアを経て、今月から本格的にブロックチェーンエンジニアの道へ進むことに。

フリーランスエンジニアとして働く西川達哉(25)は、神戸大学大学院で量子化学コンピューティングを研究後、レシピ動画アプリ「kurashiru」を運営するdely社でiOSアプリ開発のインターンをしていた。家は大学の同期3人と住むシェアハウス。同居人たちはみなITベンチャーに内定が決まったため、オフィスに近い渋谷・五反田・恵比寿界隈で物件を選んだ。

西川は大学時代、クラウドファンディングで300万円を集め、カンボジアに学校を設立するプロジェクトに携わった経験がある。もっと大きな規模で社会を変える方法はないか模索していたとき、同居人から教えてもらったのがブロックチェーンだった。

「アプリ開発は、なんとなくこうなるなって未来が予測できる。ブロックチェーンは最初、仕組みがまったく理解できなかった。そこに惹かれた」

ブロックチェーンに本腰を入れるため、dely社を退社。いまは複数のイーサリアム・プロジェクトに関わりながら、イベントやミートアップにも定期的に参加する。同世代(1992年〜1993年生まれ)の起業家で集まると、話題になるのはいつもブロックチェーンだ。

「(税法上の問題はまだ解決されていないけれど、)ICOを使えば理論上は世界中の個人から資金を調達できる。会社組織を作る必要がないから、将来株式会社はなくなっていくんじゃないかって思います。自分も、どこかに所属して毎日通勤する生活より、おもしろいと思ったことにすぐ飛び込める状態でありたい」

給料はビットコインでもらう

房安陽平

Alta Apps社COO 房安陽平(25)。ベトナムでの出合いをきっかけにして今月からブロックチェーン関連企業に参画。

もう一人は房安陽平(25)。彼は神戸大学大学院でコンピューターサイエンスを研究したあと、ブロックチェーンの世界へ飛び込もうとベトナム・ホーチミンへ飛んだ。働いたのは、ブロックチェーン関連の開発会社。給料はビットコインで支払われた。

「ベトナム人は、アジア通貨危機などの影響から法定通貨への信頼度が日本と比べて低いんです。だから、カフェにいると、ビットコインとベトナムドンを交換してくれと言われる。こういう体験をして、日本円を持つ意味ってなんなんだろう?と強く思うようになりました」

その後帰国し、就職したのはメッセンジャーアプリ大手のLINEだ。LINE Payの事業戦略を担当していたが、ブロックチェーンの事業に関わりたいという思いが強くなり、結果、9カ月でLINEをやめた。そして、友人の森川夢佑斗が立ち上げたブロックチェーンに関するコンサルティング企業、Alta Apps株式会社に合流した。

「送金・決済・預金・資産運用、すべてにブロックチェーンは使える。これを世界中に広めたらどうなるかっていう未来を、見てみたい」

CtoCで貧困の連鎖を自ら断ち切る

森川夢佑斗

Alta Apps社CEO 森川夢佑斗(24)。ブロックチェーン関連の執筆・講演やコンサルティングなども請け負っている。

日本という船が沈んでいっているなかで、ビットコインは僕らにとってのノアの箱舟なんです

Alta Apps社のCEO 森川夢佑斗(24)は、ビットコインをはじめとする仮想通貨に「賭ける」理由をそんな風に語る。

財務省が2015年に発表した年代別金融資産残高の保有分布

財務省が2015年に発表した年代別金融資産残高の保有分布。60歳代と70歳以上の割合が58.7%を占める一方で、30歳未満はわずか0.5%だ。

財務省が2015年に発表した年代別金融資産残高の保有分布によると、個人金融資産約1700兆円のうち、60歳代以上が約6割(約1000兆円)の資産を保有している。この保有割合は20年前の2倍だ。一方で、30歳未満の割合は0.5%、30歳代でも6.3%だ。

ブロックチェーンや仮想通貨は、まだ始まったばかりの歴史が浅い分野。既存の通貨と比べ、年配者が資産の多くを保有しているといった偏りも少ない、と森川はいう。

森川は中学生時代、「せどり(商品を安く仕入れ、インターネットで転売すること)」でお小遣い稼ぎをしていた。家は裕福ではなかったが、仲介業者を介さないCtoCのビジネスがある種の貧困の連鎖を打開するチャンスをくれた、と感じている。その経験は、京都大学に進学後、メルカリ社やのちに楽天に買収されるフリマアプリ「フリル」を運営していたFablic社など有名ITベンチャーでインターンをするきっかけになった。

「(インターンをさせてもらったベンチャーの)CtoCのビジネスには可能性を感じていました。でも、上に人が詰まっているところにいるよりは、全く新しいものが生まれる領域で勝負したかった

在学中にツイッターを通じて、ベトナムのブロックチェーン企業で働く機会を得た(実は房安もこの企業で働いていた)。「いまここに全力を注げば世界のトップを目指せる」。京都大学を中退、起業した。

グーグルに勝てるかもしれない領域

情報サイトCryptoCompare

情報サイトCryptoCompare社によると、10月3日には日本円のビットコイン取引量のシェアは53%にまで上がっている。

日本では一大ブームとなっている仮想通貨やブロックチェーンだが、海外を見ると実はそれほどでもない、というデータがある。米Business Insiderの9月18日の報道によると、日本(JPY)のビットコイン取引量の世界シェアは50%超で世界1位を記録。アメリカ(USD)の約29%、ヨーロッパ(EUR)の約4%と比べても高い数字だ。

いま、革新が起こっている領域といえば人工知能やVR、ARといった技術もある。その中でも、結果的に同じスタートアップに合流した森川と房安、フリーランスエンジニアとして腕一本で勝負する西川という同世代の若者があえてブロックチェーンを選んだ理由は何なのか。

西川は次のように語る。

「人工知能やVRといった分野は、データ量や今まで積み重ねてきた知見が命。だから最後は絶対グーグルが勝つことになっている。でも、分散型のブロックチェーンは、大手企業が手を出しにくい領域。僕たちが活躍できる勝機が残ってる、と思いました」

一方で、前述した森川は、仮想通貨は円やドルに比べて流動性が高いため、富の固定化が起こっておらず、若者にお金が回ってくる状況が作りやすい、とも語る。

ビットコイン

ミレニアル世代がビットコインに熱狂する理由として、自らの世代が富の不平等を被っていることへの反発心がある。

写真:今村拓馬

国家にとらわれない通貨

社会を変えられるような技術に熱狂する一方で、「日本」を変えたい、という思いは意外なほど薄い。自分が生まれ育った日本は好きだが、政治は自分がコントロールできない要素が多すぎるし、この10年で政治よりもUberやAirbnbといった新しいサービスが社会を変えてきたという実感の方が強い。ならば、自分が活躍できる場所で「世界」を変えたい、と森川は語る。

「(脳の学習における)報酬系って言葉がありますよね。行動のあと、満足な結果が返ってこなかったらその行動をしなくなる。若者に政治参加を、というのは理念としてはもちろん賛同しますけど、望む社会を実現する上で(報酬系がうまく機能していないから)現実的じゃない

取材の中で房安と森川は「国家」について、それぞれ表現の仕方は違うが、極めて印象的な、同じ意見を語った。

国家の構成要素は、人・土地・通貨だ。インターネットの誕生によって、「土地」と「人」は特定の場所に縛られなくなった。最後に残されたのは通貨だ、と彼らは言う。ブロックチェーン技術をベースとする仮想通貨がいま、最後の1ピースを埋めようとしている。だから、そこに人生をかけて挑んでみたいのだ、と語る。

有名な上場企業や気鋭のベンチャーに所属しながら、自分の興味が変われば、人も羨むようなキャリアには目もくれず、易々と次の行動を始めてしまう。

彼らの身軽さと、日本という国へのある種の従属意識の薄さ、というのはブロックチェーン世代に一本通ったもう1つの共通点かもしれない。(敬称略) (文と写真・西山里緒)

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