どちらを買うべき? グーグル vs. LINE「AIスピーカー」の家庭内“一等地”争い

10月5日、グーグルとLINEが同日に「スマートスピーカー」製品の発売を発表した。3日前の10月2日には、アマゾン・ジャパンが世界シェアトップのスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズの日本展開を年内よりスタートすると発表している。今週に入り、スマートスピーカー市場が一気に加熱してきた。製品発売で先行するグーグルとLINEの戦略の違いとは?

グーグルの強みは、圧倒的な「音声認識の精度」と他社サービス連携

Google Home

Google Home。

撮影:伊藤有

Google Home Mini

Google Home Mini。

撮影:伊藤有

Google Homeは、グーグルがスマートフォンなどで使っている音声アシスタント「Googleアシスタント」を応用した製品のひとつだ(「Googleアシスタント・ビルトイン」と呼ばれる)。なので、スマートフォンでGoogleアシスタントを試してみると、その振る舞いが手取り早くわかる。自分がいる位置を元に天気や交通渋滞を教えてくれたり、連携させたGoogleのアカウントに登録されたスケジュール情報を呼び出したりできる。アラームやタイマーを声でセットする、といった使い方も可能だ。

グーグルの埜々内ルイ氏と製品開発本部長の徳生裕人氏

左から、グーグルの埜々内ルイ氏(ハードウェアパートナーシップ事業部門 日本統括)と徳生裕人氏(製品開発本部長)。

撮影:伊藤有

製品としては、スタンダード版にあたる「Google Home」(税別1万4000円、10月6日より販売開始)と、小型・低価格版である「Google Home Mini」(税別6000円、10月23日発売)。サイズと価格はかなり異なるものの、違いは主に「音楽を再生する時の音質」で、スマートスピーカーとしての機能に違いはない。グーグルはMiniを「家庭に複数台置きたい時」向けのものとして訴求している。実質的には低価格機といえる。

Google Homeの特徴は、なんといっても「音声認識の精度の高さ」だ。特に重要なのが、音楽やテレビがかかっていて、部屋の中がちょっとうるさい時でも、自分の声をきちんと聞き取ってくれること。もちろん蚊の鳴くような小さな声では難しいが、大声を張り上げる必要はない。いくぶん大きめに話せば聞き取ってくれる。これは、使ってみると非常に重要で、価値のある部分だ。筆者が試した限りでは、Google Homeは他社製品以上に「ノイズの中での認識精度」が高い

また、最大6人の声を別々に聞き分ける「ボイスマッチ」機能を持っていることも重要な要素だ。例えば、筆者が「スケジュールを教えて」と言った時と、家族が「スケジュールを教えて」と言った時では、返ってくる答えが変わるのだ。話者の識別によって、音楽をかける時に人による好みを反映したり、当人にあった情報を出したりできるようになっている。ただし、同時に複数の人が話しかけることはできない。

先行しているがゆえの「認識精度」こそが、Google Homeの第一の差別化点、と言えるだろう。

Google HomeとMiniの価格

Google HomeとGoogle Home Miniの価格と発売日。実質的な低価格モデルのMiniの発売は2週間ほど遅く、10月23日だ。

撮影:伊藤有

LINEは「コミュニケーション」と「価格」で攻める

LINEは、Google Homeの発表直後(10月5日15時)から、「Clova WAVE」の受注を開始した。同社は2017年3月、次なる成長の柱として、AIプラットフォーム「Clova」を発表し、今秋の製品化に向けて開発を続けてきた。今回発表された「Clova WAVE」は、LINE初の、本格的なハードウェア製品だ。

記者会見写真

LINEは自社製スマートスピーカー「Clova WAVE」の製品版を、10月5日15時から受注開始。

LINEは8月末より「先行体験版」として、音楽を中心とした機能に限定したWAVEを出荷していたが、10月5日からは機能を強化し、「製品版」として出荷を開始する。

スマートフォンで音声認識・合成の経験が長いグーグルと異なり、LINEはまだこの分野の新参者だ。そのせいか、音声認識の精度や反応速度では、グーグルに及ばない。特に、ノイズへの対策や複数の家族を声で見分ける技術などでは劣る。LINE側もその点は認めており、「Clova WAVEは進化する。継続して強化をしていく。音声認識については、年内に大幅なアップデートを予定している」(同社取締役CSMOの舛田淳氏)と改善を約束している。

LINEはClovaの成長戦略について、明確な方向付けをすることで、他のスマートスピーカーとの差別化を行おうとしている。その中核となるのがLINEならではの「コミュニケーション」だ。LINEのメッセンジャーサービスに、Clovaも対応する。ただし、個人のメッセージの読み上げには抵抗を感じる人もいる。そこで「家族アカウント」という特別な仕組みを使い、自分宛のメッセージと「家族ならば見られるメッセージ」を分ける。Clovaが送受信するのは後者のみだ。リビングから声で「ママに『あの調味料はどこにある?』とメッセージを送って」と命令し、その返答をWAVEからの音声で知る……といったように使おうというものだ。

記者会見スライド

「家族アカウント」という新しい仕組みを使い、家族同士のLINEメッセージのやりとりをサポート。

LINE・舛田CSMOは次のように話す。

「先行体験版でも『会話をしたい』という要望が多い。家族やパートナーとしてClovaにしゃべりかけている。その声にこたえたい」

そのため、「こんにちは」「元気?」といった言葉に反応し、しばらくおしゃべりが続く「連続会話」機能も搭載された。実はこの機能、特になにかをしてくれるものではなく、純粋なコミュニケーションのためのものだが、利用者がスマートスピーカーにそれを求めているのであれば……ということで搭載されたのだという。意外かもしれないが、このような機能は海外のスマートスピーカーには希薄だ。

記者会見スライド

Clova WAVEと会話のキャッチボールが続くように「連続会話」機能を搭載。

もうひとつの切り札が「価格」。Clova WAVEの価格は「税込」で1万4000円。消費税の分だけGoogle Homeより安い。だがさらに、2018年1月末までは「キャンペーン価格」として、同社の聴き放題型音楽サービス「LINE MUSIC」の利用料12カ月分をセットにして「1万2800円」で販売される。LINE MUSICは月額980円のサービスなので、実質的に「1年分の音楽サービスがタダでついてきて、しかも本来の値段より安い」という、かなり大胆な価格設定となる。

記者会見スライド

期間限定のキャンペーンながら、音楽サービスを1年分つけて、さらに値引きを行う大胆な価格施策を展開。

「音楽はスマートスピーカーにおいて重要。Clovaの利用者も、LINE MUSICの利用者も増えるのであれば、弊社にとってはプラスと判断」(舛田CSMO)してのことだという。当然、他社の価格動向を睨んでの施策だろう。

パートナー作りでもGoogleが先行、LINEの「進化」は間に合うか

両社の対応が別れたのは「コンテンツパートナー」施策だ。グーグルは、NHKをはじめとした各ラジオ局やKDDIのような通信会社、食べログに楽天レシピといった、多数のコンテンツパートナーを発表した。6日の発売日には間に合わないところが多いものの、今後数週間以内に、パートナー企業が開発したサービスやコンテンツが、Google Homeの中から使えるようになる。

Google Homeの対応パートナー一覧

Google Homeの対応パートナー一覧(10月5日時点)

一方でLINEは「すでに話は進んでいるが、今回は早いと判断した」(舛田CSMO)として、ほとんどの機能を自社内で揃えた。グーグルのようにパートナーとの協業による機能の発表は年末に向けて行われ、他社が自由にサービス開発をするためのSDK(開発キット)の公開は2018年1月以降になる。音声認識の精度向上も含め、他社に一歩ずつ遅れている印象が否めない。

とはいうものの、Google Homeであっても、スマートスピーカーは「完成」には程遠い、進化途上の製品であることに変わりはない。人間のように、多くの言葉を賢く判断して回答してくれるようになるまでには、まだ相当の時間が必要だ。まだスタートしたばかりの時期であり、「継続して改良が続ければ追いつけるし、追いつく」というLINEの意見にも一理ある。

初期需要を超え、より多くの人がスマートスピーカーを手にするようになるのは、おそらく、来年以降のことだろう。それまでに、いかに多くのユーザーに「スマートスピーカーは便利だ」と思わせ、ファンを作ることができるか。そのためには、「改良速度」「パートナー作り」など、複数の要素がからんでくる。海外での人気から本命視されるAmazonがこれからやってくるわけだが、その前に、いかに「日本人にとってのスマートスピーカーの価値」を組み立てられるか? これ次第で、初期の勝負は決まるのではないだろうか。


西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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