希望の党「ベーシックインカム公約」発案者を直撃——実現可能性を検証した

希望の党(代表・小池百合子東京都知事)は10月6日、衆院選の公約を発表した。原発ゼロや花粉症ゼロ、満員電車ゼロなど12のゼロを掲げたが、それ以外で目を引いたのは「ベーシックインカムの導入」だ。

希望の党

ベーシックインカムは希望の党に「希望」をもたらすか?

ベーシックインカムとは「全ての人に生活に最低限必要なお金を無条件に支給する制度」。近い将来、人工知能(AI)をはじめとするテクノロジーが進化し、人の仕事が機械に置き換えられることで失業者が急増するという予測のもと、先進国を中心に世界的な議論を呼び起こしている社会保障制度だ。テスラCEOのイーロン・マスク氏やFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏など、シリコンバレーの著名人も続々と支持を表明している。

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小池氏は党の公約と政策を発表する6日の会見で、経済政策として「アベノミクスに加えて、マクロ経済に人々の気持ちを盛り込んだ『ユリノミクス』の政策を入れ込んでいく」と述べた。そのための具体的な政策として、「生活に最低限必要なお金を支給するベーシックインカムの導入」を政策集に盛り込んでいる。小池氏は「今日、明日すぐに導入するということではないけれども、検討を進めていく必要があるのでは」と語った。

しかし、実際にこの制度はどの程度まで実現可能なのだろうか? そもそもなぜ希望の党はベーシックインカムを公約に入れたのか。

自ら「ベーシックインカム導入を公約に入れてくれ、と若狭勝衆院議員に訴えた」という、希望の党所属の木内孝胤(たかたね)衆院議員と、民進党の前原誠司代表が唱える政策「All for All」の理論的支柱でもある慶應義塾大学の井手英策教授(財政社会学)に取材した。

木内孝胤衆院議員。

10月6日、東京・荻窪駅前で希望の党のチラシを配る木内孝胤衆院議員。

財源は医療費を除く社会保障給付費

木内氏によると、現時点で社会保障給付費(医療費を除く)を全てベーシックインカムに振り替えると、国民の新たな負担増はなく、国民に月額5万円程度のベーシックインカム給付がすでに可能だという。

木内氏が具体的に計算してみると、2015年度の社会保障給付費114兆8596億円のうち、医療費37兆7109億円を除いた77兆1489億円を2016年の人口(1億2675万人)で割ると、年間60万8670円、月額5万722円になる。

さらに個人総所得約270兆円のうち、約半分を占める各種控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除など)合計額135兆円を全廃すると、課税対象所得が135兆円から270兆円に増える。精査は必要だが、この増税収分も5万722円に加算すると、月額8万円程度の給付は負担増なく可能だそうだ。さらに、この額だと国民負担は42%程度だが、45%、50%などと調整することにより、より高い金額を給付することも可能だという。

矛盾だらけのバラマキ政策か?

2016年度予算ベースの社会保障の給付と負担の現状。

2016年度予算ベースの社会保障の給付と負担の現状。

出典:内閣府

この考えについて、井手教授は「矛盾だらけのバラマキ政策だ」と真っ向から反対する。まず社会保障給付費は、その財源の6割弱が厚生年金・国民年金を含めた社会保険料。将来もらえるものと思って納付してきた年金がもらえなくなる一方、年金をもらう権利がない人に対してもベーシックインカムが給付されることへの心理的抵抗は大きい。また、生活保護給付額も今までよりもはるかに少ない金額になる。

さらに、控除をすべてなくせば最低生活費にも税金がかかり低所得者層にとっては大増税だ。「税制をシンプルにする」というならば控除を基礎控除に一本化するなど他にもやり方はあるはずだ、と井手教授はいう。

希望の党にベーシックインカム導入の公約を強く推したという木内氏。2016年の税制改革の議論の中で、自民党の「軽減税率法案」の対案として民進党が「日本型ベーシックインカム構想」として打ち出したのが「給付付き税額控除法案」だった。木内氏はこの法案を推進し、「金額を上げればベーシックインカムになる」として希望の党に提言したそうだ。

しかし、医療・育児・保育などの「サービス」をすべての人に支給することが本来の民進党の理念。彼らも給付付き税額控除法案では「現金給付はしない」と明言し、社会保険料の負担軽減を訴えていた。給付増と税の負担減は別物、と井手教授はいう。

ベーシックインカムは「しがらみのない政治」?

荻窪駅前

小池都知事は政策会見で「AIからBI、人工知能からBI」と話した。

なぜ木内氏は、サービスではなくお金を支給するベーシックインカムを主張するのか。それは「しがらみのない政治」の実現だ、と語る。

たとえば生活保護の受給者は、アルバイトなどをして働くと生活保護が受給できなくなってしまうため再就職をするメリットが少なく、社会参加への道が閉ざされている。ベーシックインカムは無条件の支給であるため気軽に次の就職先を探すことができ、生活保護を受け取っている、という後ろめたさもない。

また、ゼロ歳児保育などは1人当たり月50万円の税金が使われていると言われるが、その恩恵を受けられる人と受けられない人がいる。それよりは、ダイレクトにベーシックインカムを支払った方が公平ではないか、というのが木内氏の主張だ。

事務コストを下げられるというメリットもあるという。もしベーシックインカムで一律にお金を給付すると、税の徴収や給付に携わる社会保険庁や税務署の職員を約半分程度に抑えることができる。現在の職員数の約7万人が半分になれば、平均年収600万円とすると、約2100億円のコストを減らせる(木内氏)というのだ。

毎月数万円の支給と引き換えにさまざまな社会福祉制度をなくすことは、弱者を切り捨てる「自己責任社会」を再強化しかねないと井出教授は警告する一方で、木内氏は「障害者など、本当に(行政のサポートが)必要な方はまた別枠で考える」とした。

「小池さん、ちゃんと答えられるか心配」

希望の党チラシ

配られていたチラシに「ベーシックインカム導入」の文字はない。

ベーシックインカムは弱者切り捨て政策か、社会参加を促す「しがらみのない政治」か。しかし何よりの問題は、こうした議論が希望の党できちんとなされているかという点だ。

小池氏は会見で「AIが人に代わり、これまでの仕事そのものが変わっていくことを想定した中で、ベーシックインカムの導入を考えている」とするにとどめ、具体的な政策課題には触れなかった。

木内氏は公約発表前に若狭氏とやりとりをし、「経済政策の中にベーシックインカムを入れてくれ」と訴えていたところ、発表された公約の中に入っていた、という。しかし、希望の党執行部が「深く考えて入れてくれたのかはよく分からない」。「小池さん、ちゃんと(批判や疑問に)答えられるか心配」とも呟いていた。

(文・写真:西山里緒)

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