人間は自分で思っているほど合理的ではない。
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行動経済学の権威で、シカゴ大学の教授を務めるリチャード・セイラー(Richard Thaler)氏が9日(現地時間)、ノーベル経済学賞に選ばれた。行動経済学とは、人間の行動と経済原理をつなぐ、私たちの経済活動の「なぜ? 」を研究する学問だ。
同氏がハーバード大学の教授キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)氏と書いた著書『実践 行動経済学 (原題:Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happiness)』は、この分野のベストセラーとなっている。
一方、プライベートでは、ゴルフとワインの愛好家だというセイラー氏。ニューヨーク・タイムズの経済コラムニスト、ポール・サリバン(Paul Sullivan)氏の著書『The Thin Green Line: The Money Secrets of The Super Wealthy』では、行動経済学を説明するために、ワインに関する質問をサリバン氏に投げかけている。
ワインコレクターになったつもり、もしくは少なくともボトルでワインを買い置く習慣が自分にあると仮定して、質問の答えを考えてみよう。
質問:数年前に1本50ドルで買ったワインの価値が、現在500ドルになっている。これを飲んだ場合、いくらの損失になるか?
……その答えは、ワインの相場とも経済学とも関係がない。
これは実は、人の認知バイアスに関する問題で、いかに多くの人が、「サンク・コスト(埋没費用)」と「オポチュニティ・コスト(機会費用)」という2つの認知バイアスを混同しているかを示す質問なのだ。
サンク・コストとは、すでに使ってしまった費用のことで、今から何をしても変えようがなく、取り戻すことはできない。先のワインの例では、最初に購入した時の50ドルがこれにあたる。
一方、オポチュニティ・コストは、ある選択を取った場合と他の選択を取った場合を比べた利益、つまりワインの例で言うと、ボトルを500ドルで売る代わりに自分で飲んだ場合と、ボトルを取っておいて将来もっと高くなった時に売った場合の差だ。
つまり自分で飲んだ場合、いくらの損失になるかとの問いに対する答えは、500ドル。売った場合に手にできたであろう金額が答えになる。
テイラー氏は言う。「大半の人は、自分は何も損をしていないと言う」「50ドルしか払っていないのだから、むしろ得をしているという人すらいる。だが、それは心の会計(メンタル・アカウンティング)だ」
サリバン氏はさらに詳しく説明する。
「今、このボトルを家で飲むことを選ぶワイン・コレクターの中には、外出先で同じボトルに500ドル支払うことに尻込みする人もいるだろう。だが、それこそが今、まさに彼らがやっていることだ。数年前に50ドルで買ったのだから、得をしていると思いたがる」
つまり、サリバン氏が言いたいのは、人はお金に関しては合理的でないということだ。お金を使い過ぎて貯金が少ないのは、平均的な人は経済学者のように、金銭を完全には合理的に考えないからだ。
一夜にして経済学者、もしくは完全に合理的な人間にはなれないだろう。しかし、自身の金銭的な決定に認知バイアスが影響することを頭の片隅に留めておけば、より良い決定を下せるかもしれない。
(翻訳:Tomoko A.)