ソラコム、IoT向け「eSIM提供」で弾みつけるシリコンバレー展開 —— 「KDDI買収後も"変わんねぇな"と思わせたい」

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ソラコム共同創業者の玉川憲社長。ソラコム赤坂オフィス(東京都港区)にて撮影。

IoT向け通信事業者のソラコムは10月11日、8月のKDDI買収公表後、初となる新サービスを発表した。グローバル向けSIM「plan01s」において、無料で待機状態にしておける新料金体系の開始や、IoT機器への組み込みを狙ったチップ状SIM「eSIM」のサポートなど、リリース7本に及ぶ力の入ったものだ。

無料での“待機状態”(ソラコムでは「Standby(利用開始待ち)」と「Suspend(利用中断中)」と呼んでいる)のサポートは、IoT機器メーカーが頭を悩ませる「出荷から実際の利用開始までの間も、回線コストがかかる」という問題を解消するもの。

またチップ状で提供する「eSIM」での販売も開始する。今回の一連の発表で、単なるIoT向けのMVNO事業者、というステージから一歩踏み出した感がある。

ソラコムの新料金プラン

スタンバイ(利用開始待ち)とサスペンド(利用中断中)では、料金発生がゼロになる。それぞれ状態遷移には1.8ドルの料金がかかるが、IoT機器ベンダーにとっては「在庫してるだけでコストが膨らむ」のを防ぐことができる。これらは同日から開催される「ITpro EXPO 2017」の出展に合わせて発表された。


ソラコム新料金体系

初期費用はカード型で5ドル、チップ型のeSIMで6ドル(ただしeSIMの最小ロットは3000個)。今回から新たに、ソラコムプラットフォームからのSMS送信にも対応し、省電力運用などをさらに追求できるようになった。SMS機能はベータ期間を設け、この期間は無料で使えるとのこと。


eSIMチップと、ロール

右が従来のグローバルSIM、中央の6mm×5mmのチップがeSIM。カードを必要としないeSIMの仕組みは、AppleWatch3が内蔵したことで身近な存在になった。左は、eSIMを提供するリールの一部。販売時の最低個数は3000個から。

シリコンバレー攻略に力を入れる海外展開

ソラコムは創業2015年。アマゾンAWSのエバンジェリストだった玉川憲氏と安川 健太氏(CTO)、船渡氏(COO)が立ち上げた。IoT向けのいわゆるMVNO(格安SIM)事業者の1つで、物理的なパケット交換機などの「コアネットワーク」システムをアマゾンAWS上に"仮想化"して構築、データを暗号化してセキュアに通信するという独自の開発技術の高さを売りにしている。

コアネットワークまで含めたサービスをすべてクラウド上で動作させることで、さまざまなソフトウェア制御と通信網を自在に組み合わせられるビジネスモデルが高く評価され、創業2年あまりの今年8月、通信キャリア大手KDDIに買収された。買収金額は両社非公表ながら、200億円規模とされる。

彼らが国内同様に力を注ぐのが、カリフォルニア州サンフランシスコ周辺を拠点とする北米展開だ。ソラコムは従来からアメリカにサンフランシスコ周辺にオフィスを置いていたが、8月の買収を契機にオフィスを移転し、いまはパロアルト周辺の「Spaces Menlo Park」とサンフランシスコ市内にある「APROE」の2カ所のコワーキングスペース内にオフィスを置く(ヨーロッパ向けにはデンマークに拠点を置いている)。

ソラコムのパロアルト近くのシェアオフィス

ソラコムのパロアルト近くのシェアオフィス。「Spaces Menlo Park」内にある。入り口脇のボード(写真左)にはソラコムのネームプレートも下がっている。

ソラコム

シェアオフィスで作業中の安川CTO

シェアオフィスで作業中の安川CTO。

ソラコム

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シェアオフィス内の風景。

ソラコム

玉川氏は北米展開について、「今は完全にサンフランシスコのベイエリアに集中して、デベロッパー(開発者)をターゲットに取り組んでいる」と語る。サンフランシスコのベイエリアとは、つまりはシリコンバレーだ。ソラコムのプラットフォームを使った30〜60人規模のワークショップを毎月のように開催し、現場のエンジニアや起業家らへの認知を高めて、開発現場からのボトムアップ型で市場を創出しようという狙いがある。

2017年9月には、アメリカ初開催となる通信機器の展示会Mobile World Congress Americaに出展、スタートアップ向けのパビリオンのステージスポンサーをするなど、現地の開発者やユーザー企業に、集中的に「ソラコム」の認知を高める活動を強化している。

MWC Americaでのソラコムステージ

今年、アメリカ地域では初開催となる通信機器展示会「MWC America」でスポンサードしたソラコムステージ。現地の参加者にソラコムの名前知らしめるには一定の効果があったはずだ。

ソラコム

KDDI傘下に入ったことの「良い効果」とは?

誰もが気になるのが、KDDI買収が、彼らのビジネスにどんな影響を与えるのかだろう。玉川氏は、今回の発表に先立って実施したBusiness Insiderのインタビューに、直球でこう打ち返す。

「KDDIグループに入ってから、"今までのようなスピードのイノベーションってもう起こせないんじゃないか"なんて、心配してよく言われるんですよ。僕らは全くそうは思ってないんですけど。そこはまず裏切りたい。"あいつら変わんねぇな"と思われることをやりたい」(玉川氏)

これが、今回の7本のリリース同時配信という形での回答だったということになる。

KDDI買収報道に答える公式ブログの記事

8月2日、KDDI買収報道に答える公式ブログの記事。

実際のところ、KDDI傘下に入ったシナジー効果とは何なのか? 最大のメリットとして玉川氏が挙げるのが、IoT機器向け通信技術の本命と言われる「セルラーLPWA」への取り組みだ。

LPWA Low Power Wide Areaの略。ソラコムの公式サイトでは「なるべく消費電力を抑えて遠距離通信を実現する通信方式」と説明。独自の通信網を使うもの(LoRaWANやSigfoxなど方式は複数)、既存のセルラー網を使う方式がある。

セルラーLPWAとは既存の携帯通信網を利用して、低速だが超低消費電力での通信を可能にするもの。国土に張り巡らされた既存の携帯通信網を使うため、カバーエリアは基本的に携帯電話と同じ圧倒的な広さ。さらに、接続する機器の仕様によっては単3乾電池2本で5年近い、超長時間の待ち受けができる省電力性も実現する。

「IoTの世界でセルラーLPWAが本格始動を始めると、(ソラコムの事業には)これまでとは1段違うマーケットが広がると思っています。

それが実現する次世代5G通信の時代に、大事なのは"対応するスピード"だと思っていて。どこよりも早くセルラーLPWAに対応するには、大手キャリアと組むのが手っ取り早い。日本国内の物理的なインフラ網を使って先行実証実験ができますから。その点で、色々な話相手の中で、KDDIが最も開発などにサポーティブだった」

と、玉川氏は買収に至った理由を振り返る。KDDIグループの一員であるという後ろ盾は、海外展開にあたって現地キャリアとのローミング接続交渉をする際にも強力な交渉力にもなる。

IoT時代の本格到来前に勝つ道筋をつくる

ソラコムの北米展開のキャッチコピーは「You create. We connect.」。モノやセンサーをクラウドに簡単につなげられるようにすることで"ビジネス構築の高速化"をはかり、一方で構築の難度は下げる課題解決型のアプローチだ。だから、現場のエンジニアにワークショップを通じて体験してもらい、現場からボトムアップする形でソラコムのプラットフォーム認知を広げている。

「クラウド側のデータベース構築はどんどん簡単になっています。また一方で"ラズパイ"(Raspberry Pie、プロトタイピング用のシステム基板のこと)などでハードウェア開発をすることはアメリカでも利用が増えている。

シリコンバレーは日本と比べて圧倒的にスタートアップが多いし、何よりフリーランスの開発者が多い。ワークショップにふらっと来た参加者が、よくよく聞くとある大手企業のCTO級の人物だったこともあります。そういう人たちが、次のビジネスを作ろうと個人で参加してきたりする。(優秀なエンジニアとの)出会いがあるのがシリコンバレーなんですよ」

ソラコムとしては、IoT時代の本格到来を控えた今のうちに、プラットフォームとしての認知を最大限に高め、ユーザーを増やしたい。この先、電球から冷蔵庫、農機具、クルマまで数十億台の機器がセルラー網にぶら下がる時代が来たときこそが、彼らのコア技術である「仮想化されたコアネットワーク」と「クラウドとの親和性の高さ」という強みを発揮できる。仮想化したことで物理的な制限を受けることなく、ビジネスを広げていけるからだ。

「日本のIoT市場は、残念ながら世界で見たときに5%程度しかありません。一方でアメリカはダントツに大きな市場です。たとえばアメリカでソラコムを使ってくれているサービスに、“Opendoor”という不動産テックのスタートアップがあります。国土が広いので、例えばカリフォルニアに住んでいる人がテキサスの家を見に行くときに営業が同行できません。そこでOpendoorは家の鍵の解錠などをコントロールするソリューションを提供しています。急激に伸びている彼らのようなハッピーカスタマーの事例を見て、我々も手応えを感じてます」(玉川氏)

(文:伊藤有)

関連リンク:

・「SORACOM Air for セルラー」においてIoT向けの新料金体系を提供開始、通信しない期間は無料、APIを用いたより柔軟な回線管理が可能に

・「SORACOM Air for セルラー」において、機器への組み込みが可能な チップ型SIMの提供を開始

・「SORACOM Air for セルラー」において、API経由のSMS送信を可能にする新機能の提供を開始

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