ティム・クック氏はiPhone発表イベントで、今も故ジョブズ氏に導かれていると述べた。
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2000年、アップルはジョナサン・アイブ氏がデザインした独創的な小型PC、Power Mac G4 Cubeを発表した。ハードウエアとしては良い出来栄えだったが、セールス的にはハードな失敗となり、1年後には製造を打ち切った。
オックスフォードで行われた講演で、アップルCEOティム・クック氏は、Cubeの「目を覆いたくなるような商業的な失敗」、そして同氏のメンターであった故スティーブ・ジョブズ氏から失敗について学んだことを語った。
「我々にとって極めて重要な製品であり、惜しげもない愛情と相当な量の技術を注ぎ込んだ」とクック氏はG4 Cubeについて述べた。同氏はG4 Cubeを「エンジニアリングの驚異」と呼んだ。その時、クック氏は当時のCEO、故スティーブ・ジョブズ氏からの誘いを受け、アップルのワールドワイドオペレーション担当上級副社長となっていた。
しかしCubeは、売れなかった。デザインは高く評価されたが、同じようなスペックの、普通のPower Mac G4よりも200ドル高かった。また製造上の不具合で、一部のCubeのアクリルケースに亀裂が生じた。
クック氏は講演で、Cubeの失敗は「販売初日で、ほぼ間違いない」と分かるほどだったと語った。2001年7月、発売からから1年足らずで「Apple Puts Power Mac G4 Cube On Ice.(アップル、Power Mac G4 Cubeを凍結へ)」という遊び心のあるタイトルのプレスリリースを発表した。
Power Mac G4 Cubeとモニター、キーボード、マウス、そして象徴的なハーマーカードンのスピーカー。
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結局のところ、これは謙虚さとプライドについての教訓となったとクック氏は語った。アップルは従業員と顧客の双方に対して、G4 CubeはPCの未来だと述べた。だがアップルの大きな期待に反して、Cubeは売れず、同社は販売を打ち切った。
「これは実際、スティーブから私へのもう1つ教えとなった」とクック氏。
「鏡に映った自分の姿を見て、私が間違っていた、これは正しいことではないと言える覚悟が必要だ」
大きな観点から見ると、クック氏は故ジョブズ氏から知的な誠実さの価値について学んだと語った。つまり、自分が何かをどれほど大切に思っていたとしても、新しいデータをチェックし、今の状況に当てはめて考えることを怠ってはならない。実際、変化を恐れない故ジョブズ氏に付いていくのは大変なことだったとクック氏は振り返った。
Power Mac G4はCubeと同等のスペックだったが、より低価格だった。
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「スティーブは、ある考えを熱烈に提案していたかと思うと、数分後あるいは数日後に新しいデータを入手すると、今までに考えてもいなかったようなことを言い出す。彼はそんな人物だった。私が知る誰よりも」とクック氏は語った。
「最初は、私も彼の考えには一貫性がない!と思った。だがそのうち突然、魅了された。スティーブは行き詰まることがないから。多くの人は自分のプライドにこだわって、行き詰ってしまう。だから、知的な誠実さ、そして変化する勇気を持つことがとても大切だ」
ちなみに、Cubeは商業的には成功しなかったが、一部ではカルト的な人気を得た。現在でも熱心なアップルファンはCubeを改良して、ハードウエアをアップデートし、新しいMac OSで使い続けている。
講演の動画は以下。
source:Wikimedia Commons
(翻訳:まいるす・ゑびす)