金正恩氏の軍事と経済発展の中心地となっている海辺の街ウォンサン(元山)。
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ロイターによると、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権は、北朝鮮東部の海沿いの街ウォンサン(元山)をビーチリゾートへと開発中だ。
ウォンサンは、北朝鮮政治において特別な場所だ。エリート層にとっての高級リゾートであり、ミサイルや砲撃、その他の軍事試験場という2つの顔を持つ。
しかし、正恩氏はこの都市を再開発し、大金を生み出す観光地にするという壮大なビジョンを掲げており、そのための外資誘致を目論んでいる。
現実離れしたウォンサンの開発計画を、12枚の写真で紹介しよう。
ウォンサンは北朝鮮の東海岸にある都市。2014年、北朝鮮当局が大規模な再開発プロジェクトの実施を発表した。
ホテルから見たウォンサン湾は穏やかだ。ただ、近くでミサイルや砲撃の実験が行われるため、しばしば地震が起こる(2016年10月撮影)。
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金正恩氏を含め、ウォンサンは北朝鮮の人々にとって、特別な意味がある。
北朝鮮の創設者・金日成(キム・イルソン)主席と、その後継者・金正日(キム・ジョンイル)総書記の像。訪れた人たちは、その足元に献花する。
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ウォンサンは北朝鮮の人々にとって、歴史的な重みがある。1945年には、金日成氏がソ連軍とともに日本軍を撃退。公式記録はないが、その孫である金正恩氏はこの街で生まれたと多くの人が信じている。
北朝鮮の人々が直面する過酷な運命をよそに、ウォンサンに行ったことのある大半の北朝鮮人(韓国への脱北者も含む)は、ウォンサンのビーチにあるのどかなバーやバーベキューを高く評価している。
ウォンサンのビーチでシャワーを浴びる少女たち。
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ウォンサンの開発計画の資料によると、同市近辺には数多くのビーチや歴史遺産、天然温泉など680もの観光スポットがある。
北朝鮮の牡丹峰(モランボン)楽団」や「旺載山(ワンジェサン)芸術団」も、ウォンサンのビーチ沿いにある野外劇場で公演を行う。
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既存の民間施設に加え、ウォンサンには3つの夏向けの官営施設があり、北朝鮮の大半の地域に比べ、電力は安定的に供給されている。
夏のさまざまなアクティビティーに加え、スキーリゾートもある。観光客は1年を通じて楽しめる。
ウォンサンにある馬息嶺(マシンニョン)スキー場。スキー・リゾートは国内外の観光客を誘致する数多くのエンターテインメント事業の1つだ。
Wong Maye-E/AP
既存施設としては、ウォーターパーク、海水浴場、そして松濤園(ソンドウォン)国際少年団キャンプ場などがある。
松濤園国際少年団キャンプ場のビーチで一緒に遊ぶ、北朝鮮とロシアの子どもたち。
Wong Maye-E/AP
キャンプ場の構想には、かつて冷戦時代に共産主義国だったさまざまな国の子どもたちとの交流促進が含まれていた。
キャンプ場には水族館もあり、2014年に金正恩氏が訪れている。
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ウォンサンのビーチには、もう1つの顔がある。砲撃訓練やミサイル実験のための軍事拠点となっているのだ。
今年4月にウォンサンで行われた、朝鮮人民軍創建85周年を祝う「軍種合同攻撃演習」の様子。
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観光客が訪れるずっと前からウォンサンは朝鮮人民軍の演習場だった。金正恩氏は近年、葛麻(カルマ)国際空港をウォンサンに向かう観光客向けにも開いた。同空港は民・軍両方の目的で使用されていて、軍事と経済が融合するウォンサンを象徴している。
ビーチだけではない —— ウォンサン近くにあるこの島は、砲撃訓練に使われている。
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人民軍は北朝鮮社会の中心だ。北朝鮮は長い間、政府の資源や資金を何よりも優先して軍に投下する、「先軍政治」を追求してきた。軍事力が北朝鮮の経済問題を解決する方法だと考えられており、予算編成もその思想を反映、GDP(国内総生産)の22%を軍事費にあてている。
しかし、北朝鮮の優先順位は変化しており、金正恩氏のウォンサン開発計画はこれを体現している。近未来的な高層ビルや巨大デパート、豪華なゴルフコースが作られる予定だ。
ウォンサン再開発の計画図。
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このプロジェクトが特に興味深いのは、海外コントラクターによる北朝鮮とのビジネスを禁止した最近の国連制裁にも関わらず、金正恩氏が西側諸国を含む海外からの支援を探していることだ。北朝鮮の国営企業を使うことで、利益を約束し、ビジネスマンたちを引きつけようとしている。
観光業は数少ない国連の制裁対象外であるため、北朝鮮当局は新たなビジネスチャンスを逃すまいと、ウォンサンの観光インフラ整備に熱心だ。
ウォンサンの店で販売されているクッキー。
Handout from North Korea via Reuters
北朝鮮は近い将来、ウォンサンに年間100万人の観光客を呼び込みたい考えだが、これは野心的な目標だ。現在、観光客の80%は中国からで、中国政府は2012年、23万7000人が北朝鮮を訪問したと発表した。
しかし、ウォンサンの再開発にはまだ海外からの支援はなく、観光業が北朝鮮の経済において何らかの役割を果たすには程遠い。
2015年6月、ウォンサンの児童養護施設の前でポーズをとる金正恩氏。
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これまでのところ、金正恩氏の新たな経済政策「並進(ピョンジン)路線」(核開発と経済発展を同時に進める政策)は機能しているようだ。2016年には制裁が強化され、干ばつや食糧不足が広がったにも関わらず、北朝鮮経済は17年ぶりの高水準となった。
しかし、これは主に北朝鮮の軍事費や核開発費によるもので、観光業ではない。ウォンサンの開発計画への投資をめぐっては、大々的なマーケティングが行われているが、プロジェクトへの関心を示した海外企業はない。
[原文:This missile testing site in North Korea doubles as a beachside resort]
(翻訳:本田直子)