ツイッターが10月18日、新たな動画広告「インストリーム動画広告」を開始した。
ツイッター上の1日の動画視聴回数は、世界で12億回。実は1年前の倍に成長している。またツイッターにおける日本は、全世界の売り上げの1割を占める重要な地域で、動画の視聴も増えている。ツイッターが動画広告への収益に期待することには、こうした背景がある。
Twitter上での1日の動画視聴回数は12億回。1年で倍に膨らんだ。動画配信はどこまで成長するのか。
ユーザーとの質の高いリーチを核にした動画広告
広告業界向けイベント「アドテック東京」に合わせて公開されたのは、厳選した動画番組に広告を載せられる「インストリーム動画広告」という新サービス。提携先の優良な動画コンテンツの再生直前に、6秒の企業広告を挿入する仕組みだ。このスタイル自体はYouTubeなどでもすでに馴染みがある。
ツイッタージャパンの味澤将宏広告事業本部長は、動画広告にまつわる課題を「媒体と広告のミスマッチ」だとストレートに指摘する。新サービスでは、コンテンツと広告のミスマッチを防げるという。「インストリーム動画広告は、(クオリティの高い)プレミアムコンテンツに出稿できる動画広告。(サービス設計にあたって特に)ブランドセーフを重視しています」とBusiness Insider Japanの取材に特徴を語った。(※ブランドセーフ=企業のブランドを守り、価値を高めること)
広告と媒体をマッチングさせる仕組みを説明する味澤将宏広告事業本部長。
動画番組にアルゴリズムで自動的に広告をマッチングする仕組みだけでは、(広告主がある程度選択はできるとはいえ)ブランドにそぐわない番組に広告が出てしまう、ということがしばしば起こる。これは、ブランドを守る「ブランドセーフ」の観点からは避けなければならないことだ。
新たな動画広告サービスの肝は、「ブランドセーフ」。
ツイッターでは今回、広告を掲載する媒体を厳選するというコンセプトで、社内に媒体を審査するチームを立ち上げた。
インストリーム動画広告の開始時の提携先媒体は、20社。日経CNBCやスカパー!、吉本興業など、動画投稿に定評のある20のアカウントが名を連ねる。 企業アカウントであるため一定の品質が担保されていて、それぞれに熱心なファンがおり、ユーザーの視聴が盛んなアカウントが選ばれたようだ。
広告はレベニューシェアのため、アカウントの運営側も一定の広告収入が得られ、運営の助けになる。
Twitterが広告を載せる媒体に選んだ、20のコンテンツパートーナー。人気番組や動画投稿に定評のある媒体を“厳選”した。
媒体と広告を分類する15のカテゴリー。
提供:TwitterJapan
ツイッターによると、現時点では、広告と番組内容のマッチングには機械学習は使っておらず、広告主も媒体も、純粋に人力で審査し、事前に作った15のカテゴリー分類に沿って掲出先を選んでいる。
広告主はカテゴリーを指定すれば、自らTwitterを運用せずに、マッチングした媒体で広告を配信できる。
インストリーム動画広告は、将来的にはブロガー向けへの動画広告の開放もありえそうに思える。しかし、提携媒体の拡大については、「(提携先を)一斉に開いて、質が高くないものに、広告が入るのは避けたい。丁寧に進めたい」(味澤氏)と慎重な姿勢だ。
なぜ、ツイッターは日本でここまで元気なのか?
TwitterJapanのユーザーの伸びは、世界トップクラス。日本語との相性以外に理由は。
提供:TwitterJapan。
ツイッタージャパンによると、最新の月間アクティブユーザー数は4000万。ユーザーの伸びは今も世界でトップクラスだ。
アメリカなどでは不調が伝えられるツイッターだが、日本では好調で、ティーンエイジャーを中心に複数アカウントを使い分けるような独特のSNS文化も発展してきた。
日本での好調の理由を、味澤氏は「実名を使わなくてもよく、少ない文字表現で意味が伝わりやすい日本語に合っていたのではないか」と分析する。 日本ならではのユーザーの行動様式もあるという。
「ツイッターの検索機能を使うのは、世界でも日本がトップ。ダイレクトメッセージ(DM)の利用率も高い。リツイートしたり、お気に入りをしたり、何かしらのアクションをするヘビーユーザーの割合が高いのも日本の特徴です」(味澤氏)
Twitterは電車の遅延や災害など、今の情報を取りに行くツールとして利用されている。日本では検索エンジンとして利用するユーザーも多い。
提供:TwitterJapan
味澤氏の指摘で印象深いのは、特にソーシャルネイティブの10~20代への言及だ。
「検索エンジンの結果を信用していないようなところがある。ツイッターをある種の検索エンジンだとみなせば、何かが起こった時に、すぐにツイッターで検索し、本物か偽物かを見分けるような使い方が、日本の若者世代では当たり前になっている」
と語る。 いわば、「リアルボイスで、何か起きているか見る」という習慣が浸透しているという。
確かに、ディズニーランドの行列待ちがどれくらいあるのかや、事件や事故、電車の遅延といった数分前の出来事を知りたい時、私たちはグーグル検索ではなくツイッターを使っていることが多い。
インストリーム動画広告が持つ「ブランドセーフ」の強みを強調した笹本裕代表取締役。
「日本のマーケットはツイッターにとって大事。アメリカ以上に検索エンジンに使われている」
アドテック東京で、こう話したツイッタージャパン・笹本裕社長。
奇しくも、直前の別のセッションで、某ニュースアグリゲーターの登壇者がツイッターをはじめとするSNS上のフェイクニュースの問題を取り上げ、「予定調和ではいかないですね」「多少なり動揺があることをお許しください」と苦笑いを浮かべる場面もあった。
今回の新しい動画広告は、「フェイクニュースに広告を流さず、ブランドセーフに広告を配信する」(笹本氏)というもので、ある意味では広告にまつわるフェイクニュースへの誤った広告マッチングを抑制する取り組みとも言える。
(文、写真・木許はるみ)