海外進学は中学から——代ゼミがNYに拠点、ボーディングスクール留学事業スタート

少子化で、生き残りにしのぎを削る学習塾業界では、新たな市場の開拓を模索している。「SAPIX YOZEMI GROUP」(SAPIX代ゼミグループ)の新ターゲットは、欧米にある全寮制の私立高校「ボーディングスクール」への留学希望者だ。

ボーディングスクールとは、Facebookの創業者兼CEOのマークザッカーバーグ氏をはじめ、ケネディ元米大統領など世界の著名人を輩出しているエリート養成校。年間の学費は500~600万円に上る。

子どもをグローバル人材に育てたいと願う親にとって、ボーディングスクール進学はハードルは高いが憧れの選択肢。代ゼミグループの高宮敏郎共同代表は「海外進学は中学からがトレンド」という。

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東京ドーム10個分の敷地を持つアメリカのボーディングスクール。学習塾の活路になるか。

提供:Triple Alpha

ニューヨークに拠点を新設

代ゼミグループは、2009年に小中高の学習塾「SAPIX」を傘下に収め、2014年は海外留学のプログラム「YGC」を始めた。同じ年の2014年、代々木ゼミナールの地方校舎の7割を閉鎖し、大胆な構造改革が話題になった。

次に着目したのが、海外への高校進学だ。

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保護者向けのセミナーで、世界の大学ランキングを紹介する高宮敏郎氏。

2017年7月に、ニューヨークのマンハッタンに、ボーディングスクールへの進学をサポートする「Triple Alpha」(TA)を設立。代表には、ニューヨークでスポーツ留学を扱っていた三原卓也氏(34)が就いた。

高宮氏は、「日本のトップスクールの高校から海外の大学を志望する子が増えているが、アメリカの大学は入りにくい。高校から(実際には中学3年から)海外の学校に留学して、そのまま海外大学に入ることがトレンドになっている」と話す。

2004年〜2016年にかけてアメリカの高校で学ぶ留学生数は2倍以上になり、留学生の大半がアメリカの大学進学を希望しているという。

年間600万円のエリート校

代ゼミグループがターゲットにした、ボーディングスクールとはどんな学校か。

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キャンパスの現地見学をすれば、親子は間違いなく受験を決意するという。

提供:Triple Alpha

欧米の全寮制私立大学で、アメリカには300校ある。名門大学の進学を目指すだけでなく、文武両道に注力する。授業の成績が良くないと、クラブ活動の練習を許されない。教育体制とクラブ活動の設備が充実している。

1校の平均的な敷地面積は、東京ドーム10個分超。プライベートゴルフ場やスケートリンク、大学並みの図書館や専用の劇場を持つ学校もある。授業は教師1人に対し、生徒は10~12人。男女共学も別学もある。

問題は予算だ。年間の学費は寮費も込みで500~600万円。成績や経済的な状況に応じて奨学金はあるが、それでも支給は100万円ほど。日本国内に資金を援助する財団もあるが、対象者は限られる。

日本人留学生はゼロになる?

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ニューヨークでスポーツ留学を手がけていた三原卓也氏。

Triple Alphaによると、 ボーディングスクールの留学生の割合は、全校生徒の約3割。大半が中国人、続いて韓国人。1990年代後半に比べ、日本人の生徒は減少傾向という。

三原氏は「かつては日本人が10人いた学校で、今は1人もいないと知ったときは衝撃だった」と話す。

高宮氏も「多くの学校の食堂で、在校生の国籍の40~50本の国旗が並んでいる。この子(日本人留学生)が卒業したら、日本の国旗はなくなっちゃうの?」と不安を口にする。リーマンショック後、海外からの留学生は一時減ったもののすぐに持ち直した。日本は海外進学熱が高まる一方で、ボーディングスクールへの留学生は減少する一方だといいい、その理由については、三原氏も高宮氏もわからないという。

日本人留学生の獲得は、国籍の多様性を保ちたいボーディングスクール側にとっても、重要なミッションだ。

高宮氏は「各校で日本人が少なくなり、ゼロに近づいているので、ボーディングスクールは焦っているところがある。第二外国語の日本語の授業がなくなるリスクもある。日本に関心を持ってもらうためにも、日本人が入学しなければ」と話す。

トランプ大統領の就任も、「進学希望者に影響が出るかも」とボーディングスクール側の心配に拍車をかけた。

6月にはアメリカ大使館の担当者自ら、YGCで開いたボーディングスクールの進学セミナーに登壇。 申し込みは400人を超え、反響は大きかった。セミナーは3月以降、3カ月に1度開催し、毎月、小学校3~5年の親子ら約100人が参加しているという。

三原氏は「入学の競争相手は、同じ国籍の学生たち。中国人の競争は激しい。留学生の少ない日本人学生にとって今はチャンス」と勧める。

二極化に対応する進路「コンシェルジュ」

代ゼミグループは、幼児教育から中高大の受験の部門のほか、帰国子女の受験をサポートする部門も持つ。 多様な進路選択のニーズに応えることで、限られた受験生の囲い込みを狙う。

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受験生の需要は国内外にわたり、多様化している。いわば、学習塾は「コンシェルジュ」。

撮影:今村拓馬

例えば、難関大学の現役入学を目指す「Y-SAPIX」に通っていた生徒が、志望校を海外の大学に変更し、留学に特化した「YGC」に転校した。きっかけは、グループが提供するハーバード大へのサマープログラムに参加したことだった。

いわば、グループ全体で、進路選択の「コンシェルジュ」の機能を持たせている。

富裕層向けのサービスを充実させる背景に、高宮氏は「マーケットの二極化がある」と指摘した。

「人口動態、不動産価格を見ても、もともと地価が高い地域の上昇率が高く、中学受験率が高い。文京区、港区、中央区、江東区は、子どもの数も増え、中学受験率も上がっている」

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近年の世界の大学ランキング。アジアの中で比較しても、東京大学と京都大学は順位を下げている。

提供:SAPIX YOZEMI GROUP

イギリスのタイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が発表する「THE世界大学ランキング」によると、東京大学は2016年の39位から、2017年は46位に順位を下げ、過去最低を記録した。

高宮氏は、ボーディングスクールの保護者向けのセミナーで、「日本の学校は、生徒を世界に送る状況になっているか」と問いかけた。

「 保護者は、教育改革や雇用を見て、今の日本でいいのかという不安を持っている。国内の受験も担当している立場として、不安を煽ってはいけないが、 教育に対して非常に心配にはなる」

詰め込み型の受験競争を激化させ、現在の教育体制を築いたとも言える塾業界。しかし、親や子どものニーズは変わる。そのニーズに対応できるかどうかが、少子化の中、試されている。

編集部より:取材先からの申し入れにより、一部表現を改めました 2017年10月24日19:39)

(文:木許はるみ)

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