発達障害者が働ける場を——ブロックチェーンで“自分たち経済圏”をつくる挑戦

ブロックチェーンをベースに小さなコミュニティーや経済圏を運営するOSを開発する取り組みが進んでいる。中心にいるのは、17歳から5社のスタートアップ企業に参加してきたエンジニアの河﨑純真さん(26)だ。

21歳で発達障害と診断を受けた河﨑さんは、発達障害者にプログラミングを教えて就労を支援する事業に取り組んでいる。

「人を型にはめるような社会で、どうしたら生きやすく、働きやすい場所がつくれるか」

自分自身への問いへの答えを探すうちに、中央に管理者がいないブロックチェーンでOSをつくり、小さなコミュニティーをつくる構想にたどり着いた。

GIFTED ACADEMY

河﨑純真さん。GIFTED ACADEMYは畳敷きだ。

発達障害者のプログラミング学校

渋谷駅近くの雑居ビル6階。ドアを開けると、畳敷きの部屋が広がっていた。

発達障害と診断された人たちがプログラミングやデザインを学ぶ学校GIFTED ACADEMYだ。クラウドファンディングで500万円余りを調達し、2016年7月に開校した。河﨑さんが代表を務めるGIFTED AGENT社が運営している。

発達障害にはADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉症)、LD(学習障害)などがあり、大人になっても就労の機会が限られるなど困難を抱えている。一方で、過去に学術研究や起業などで突出した仕事をした人には、発達障害とみられる特性があると言われる人も多い。

この学校ではいま、40人ほどが学んでいる。「一人一人の偏りを活かせる社会を創る」として、VR(Virtual Reality、仮想現実)や、データサイエンスなど先端の技術を身に着けてもらい、就労を支援する。

学校といっても、決まった時間に来られない人は、好きな時間に来て、勉強や仕事に取りかかる。会議も週に2回開いているが、出席の義務もない。何を学ぶかも、それぞれと話しあって決める。

発達障害を抱える人たちには、時間の感覚がない、他者とのコミュニケーションが苦手、集中が続かないなど、多様な「偏り」があるからだ。

GA道

畳敷きの学校には「GA道」の書が飾られている。GAは社名のGIFTED AGENTの略。

17歳から5社のスタートアップに参加

大分県国東市で育った河﨑さんは「小学校のころからクラスで浮きまくっていた」と振り返る。激しいいじめを受け、小3のころから学校に行かなくなり、ゲームにのめりこんだ。当時の河﨑さんにとっては、ゲームが現実で、実生活は仮想現実のようなものだった。

プログラミングを始めたのは13歳のときだ。ゲームをつくりたかった。

高校には進まず、15歳で家出した。ホテルの外階段や公園、ネットカフェで眠った。国内を転々としながら、日雇いの運送や大工の仕事をした。日雇いの仕事は、身元を問われないからだ。

次第にホームページの制作やプログラミングの仕事も請け負うようになり、少しずつ収入が増えた。

お金が貯まると、バックパックを背負ってアメリカや北欧など世界中を旅した。河﨑さんは「みんなが同じでないといけないみたいな、日本の価値観がいやだったから、他の国を見てみたかった」と言う。

17歳で、大きな転機が訪れる。Q&Aなう社にエンジニアとして参加した。TwitterやFacebookと連動し、リアルタイムで質問と回答をやり取りするサービスだ。会社は2011年、Q&Aサイト「OKWave」を運営するオウケイウェイブ社に買収された。

その後、次々に新しい企業の立ち上げに参加する。河﨑さんが17歳から25歳までに、創業メンバーや役員として関わった企業は5社にのぼる。Eコマースなどを通じて、日本のオタク文化を世界に発信するTokyoOtakuMode、ウェブ上で3DコンテンツをつくるプラットフォームAmatelusなどがある。

問題は人を型にはめる社会の仕組み

さまざまなサービス開発で責任者として仕事をするうちに、遅刻が多い、集中力が続かない、といった河﨑さん自身の「偏り」が顔を出す。仕事のうえでの小さなミスも重なった。

21歳のとき、医療機関に相談に行くと、ADHDと診断された。

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GIFTED ACADEMYの授業で使うディスプレイ。

スタートアップの仕事を重ねるうち、河﨑さん自身の中に生じたひずみのようなものが、次第に大きくなっていった。事業の急激な成長を目指すストレスが蓄積し、メンバー間の感情的なぶつかり合いもあった。

2016年2月、河﨑さんは「スタートアップに関わることをやめる」と周囲の人たちに伝え、半年後にブログにこう書き込んだ。

「このスタートアップを最後に自分がスタートアップをすることはもうないと思います。代わりに、スタートアップとは呼べない地味な事業を始めます」

河﨑さんの言う「地味な事業」は、GIFTED ACADEMYと、小さなコミュニティーを運営するCOMMONS OSの開発だ。

発達障害の人たちは仕事が続かない、同僚とのコミュニケーションが苦手といった困難を抱えていて、雇用者側の目線では「使いにくい」労働者だろう。しかし、環境さえ整えば、特定の分野で高い能力を発揮する可能性もある。

河﨑さんは「すばらしい能力を持っているのに活かせないのは、本人が悪いのではなく、人を型にはめるような社会の仕組みに問題がある。でも、社会を変えようと努力をするより、小さな社会や経済圏を自分たちでつくってしまおうと考えた」と説明する。

ブロックチェーンを活用した電子政府の取り組みで知られるエストニアに法人を設立し、OSの開発を進めている。

OSでつくる小さな経済圏

例えば、地域に小さな経済圏をつくると仮定すると、COMMONS OSはどう機能するのだろうか。

まず、地域のメンバーをOS上に登録し、仮想通貨で独自の通貨を発行する。独自通貨で農家から野菜を買い、足の不自由な老人を病院まで送り迎えして謝礼を受け取る。自治会の運営に必要な費用を住民から集め、役員の選挙もブロックチェーン上で行う。地域全体に影響する重要な意思決定には、全員参加の住民投票も実施できる。

COMMONS OS

開発中のCOMMONS OS

GIFTED AGENT 提供

これまで自治体や町内会が膨大な資金と手間をかけていたコミュニティーの運営が、低コストで実現できるというのがOSの構想だ。中央に管理者がいないブロックチェーンを使うため、コミュニティー内の住民の個人情報や通貨の動きなどのデータは、大企業や役所に管理してもらうのではなく、住民たちが管理する。独自通貨はコミュニティーの中でしか使えないが、独自通貨を法定通貨に交換しなくても実店舗で使えるようにCOMMONSカードの開発も進めている。地方自治体などへの導入も想定している。

河﨑さんは「実は、ぼくらがゼロからつくる仕組みはほとんどなくて、世界中のさまざまなサービスを組み合わせることで、ブロックチェーン上でコミュニティーを運営できる」と説明する。世界各地で、ブロックチェーンをベースにした電子投票の「Follow My Vote」、個人認証の「uPort」など、オープンソースのサービスが次々に生まれている。仮想通貨に未対応の店舗でも、仮想通貨で買い物ができるデビットカードに似た仕組みもすでに公開されている。

OSはオープンソースとし、無償で公開する。ビジネスとしては、OSの導入支援など、技術的なサービスで収益を確保するモデルを想定している。

「15歳からエンジニアとして生きてこられたのは、世界中のエンジニアがソースコードと技術資料を公開してくれていたから。オープンソースにするのは、自分にとっては当たり前のことです」(河﨑さん)

孫泰蔵氏とも協業

河﨑さんは、社会起業家育成のためのSUSANOO Projectに一期生として参加している。この時に、SUSANOOの共同創業者である孫泰蔵氏とのつながりもできた。

2017年8月には、孫泰蔵氏らが立ち上げた、複数の生活拠点を持つプロジェクト「Living Anywhere」にエンジニアとして参加。北海道南富良野町で廃校になった小学校を拠点に、COMMONS OSを使って独自通貨を運用し、小さな経済圏をつくる実験をした。

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北海道南富良野町で実施した実証実験で、コミュニティ内の仮想通貨の動きを可視化した図。

GIFTED AGENT 提供

学校運営とCOMMONS OSの開発に集中するようになって、遅刻が多くて注意力を欠くといった、河﨑さんの「偏り」は、あまり表に出てこなくなった。「自分や学校に通ってくる人たちにとって、心地よい場所を考えたら、今の形に落ち着いた」と言う。

これまでに、複数の企業から7000万円強に相当する仮想通貨で出資を受けた。11月1日からは、仮想通貨を用いる資金調達ICO(Initial Coin Offering)を実施する予定だ。COMMONS OSの最初の導入先は、河﨑さんたちが運営する学校になりそうだ。

(文・小島寛明、撮影・今村拓馬)

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