「疲れていても笑顔でないとだめ?」留学生アルバイトの眼に映る「日本」

人手不足が加速し、外国人留学生のアルバイトなしにはオペレーションが成り立たなくなっている小売り・外食業の現場。実際に働いている留学生はどう感じているのか。関東の大学に1年間留学し、外食業界でアルバイトをした22歳の中国人、王夢夢さんはこう感じている。

フードコート

留学している大学から近いフードコートをアルバイト先に選んだ。理由は安心感があったから(写真はイメージ)。

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2016年9月末、私は1年間の交換留学生として日本にやってきた。中国からの留学生の多くが日本に着いて最初にやることは、携帯電話の契約と、アルバイトをするための許可証取得手続き。仕送りがそれほど多くない私も、来日1カ月が過ぎた10月末、長崎ちゃんぽんのリンガーハットでアルバイトを始めた。

リンガーハットでは帰国する2017年6月末まで、週3~4日のペースでアルバイトした。時給は最初850円で、3カ月後に900円に上がった。実は面接に行ったときは店の名前も、その店がチェーン店だということも知らなかった。店舗が入っていたフードコートの雰囲気が明るくて安全そうだったことと、同じ大学に留学していた中国人の友達が、そのフードコートのカレー屋でアルバイトしていたことが決め手だった。

ストレス少ないコンビニ、まかない楽しみなレストラン

留学生が日本でアルバイトを見つけることは、以前よりずっと簡単になったという。確かにどこのコンビニでも外国人店員を見かけるし、関東の地方都市に住んでいる私たちでも、アルバイト先はすぐに確保できた。

友人たちによると、コンビニバイトは飲食店に比べて時給は安めだが、その分ストレスが少ない。たばこの銘柄を覚えるのはひと苦労だが、地方のコンビニだと常連のお客さんが多いので、慣れるとぐっと楽になる。

秋田県の大学に留学している中国人の後輩は、居酒屋とコンビニのアルバイトを掛け持ちしていたが、しばらくするとコンビニに一本化した。居酒屋は時給が高いが、顔を知らないお客さんとのコミュニケーションが多く、相手の言うことを聞き取れなかったり、即座に反応できなかったりと、自信がなくなってしまうそうだ。

飲食店アルバイトの大きな魅力は無料か格安で食事ができること。時給が安くても、口に合うごはんが食べたいという理由で中華料理店のアルバイトを選ぶ留学生も少なくない。

日本人の「婉曲的」な説教に戸惑い

留学生がアルバイトをする最も大きな動機はお金だが、社会経験を積むという目的もある。特に1年弱しか日本に滞在しない交換留学生の場合、大学生活よりアルバイト先で日本社会と接触することが多い。カレー屋で働いていた同級生は、パートの主婦の人たちに優しくしてもらったのが一番の思い出だと言うし、私は、イケメンの日本人男子大学生と一緒に働きたくて、土日のシフトにも入っていた。仕事を通じてだと、自然に会話をすることができた。

笑顔の店員

日本ではどこに行っても店員が笑顔だった(写真はイメージ)。

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ただ、全体で見れば、アルバイトは大変なことの方が多かった。私はキッチンを担当したので、混雑しているときは息をつく間もないくらい忙しかった。そして最初のうちは、よく怒られた。

日本人は婉曲的に、丁寧に説教する。中国人のように大声で怒鳴りつける人はいなかった半面、日本人は怒りの程度が分かりにくいので、とても緊張した。特に、アルバイトを始めて3カ月が経ったころの、ある夜の出来事は忘れられない。

その夜、私は中年の男性と2人でシフトに入っていた。最後の片付けで、期限切れの野菜を捨て忘れたことと、いくつかの皿を洗い忘れたことを注意された。その時私はとても疲れていて、それが顔に出ていたようだ。男性は、「ワンさん、もう帰ってもらっていいよ、もう遅いし」と言った。

中国人の考え方だと、相手の言っていることをそのまま受け取ればいいが、日本人は言葉に裏があると習った。私は本当に帰っていいのか迷い、結局、「いや、ごみをまだ捨ててないですから」とごみを捨てに行った。戻ってきたら、彼は私にこう言った。

「ワンさん、偉そうなことを言うかもしれないけど。仕事はね、疲れていても、嫌な顔をしてはだめ。日本語が分からないのか、それとも疲れてるのか、俺は分からないけど。でもさっきみたいに嫌な顔したら、日本人は一緒に働きたくないと思って、帰っていいよと言ってしまう」

爆買いの中国人「日本には本当の笑顔がない」

確かに一緒に働いている日本人はいつも笑顔だ。それだけでない。私が普段買い物に行く店の店員も、旅行したときに泊まる宿の従業員も、みんなニコニコとしている。

日本には「営業スマイル」という言葉があることも知った。

一方で同じころ、中国人の友人からこんな話を聞いた。日本に旅行して、買い物をしまくった。店員はとても優しい笑顔で対応してくれたけど、お金を払って出口で振り返ったら、その店員はさっきとは全く違う冷たい顔をしていて、自分が軽蔑されているように感じた。友人は「日本には本当の笑顔がない。住みたい場所ではない」と私に話した。

北京のケンタッキー

中国のファストフードやレストランでは、スタッフの対応は前より良くなってきたが、「愛想がいい」というほどではない。

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2017年6月末、留学を終えた私は中国に帰国した。地元のケンタッキーでアイスクリームを注文したら、店員は笑顔を向けないどころか、何も言わずにおつりを乱暴に渡してきた。おつりの紙幣はぐちゃぐちゃで汚く、留学前には何も思っていなかった店員の行為が、とても不愉快に感じた。

日本で暮らした私は、いつの間にか店員に笑顔を期待するようになっていた。それが営業スマイルであってもだ。

同時に、私自身も仕事で誰かに対応しているときは、疲れていてもつらくても笑顔でなければいけないと考えるようになった。

だが、こうも思う。日本の人々はストレスはたまらないのだろうか。涙が出るほど苦しいときは、涙を流してもいいと、そう許してくれる人は日本にはあまりいないのだろうか。

バイト経験が顧客との共通の話題に

今、私は中国の小さな貿易会社で働いている。お客さんの多くは日本企業で、注文を受けた製品を、中国の工場で作ってもらって納品する。10月初め、中国は1週間の国慶節休みだったので、ある工場の作業が遅れ、お客さんの納期を守れなかった。中国人なら国慶節だから仕方ないと思うが、日本企業側は「注文したのはもっと前でしょう。休みは言い訳にならない」と怒る。

長崎ちゃんぽん

日本のお客さんとちゃんぽんの話題で盛り上がると嬉しい。

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日本からの電話がかかってくると、新入社員の私が出なければいけない。中国人の社長と日本のお客さんの板挟みになり、両方からそれぞれの怒り方で怒られる日々は、本当につらい。毎朝、月給を20日で割った金額を頭に浮かべ、「今日も頑張ろう」と自分を奮い立たせている。

そんなつらい日々の中で、日本のアルバイト経験に助けられることがたまにある。出張で中国を訪れたお客さんと雑談をするときだ。「リンガーハットでアルバイトをしていました」と言うと、多くの日本人が自分の好きなメニューや、行きつけのお店の話をしてくれる。日本全国に店があるから、日本人のほとんどが一度はリンガーハットに行ったことがあるようだ。仕事の専門用語はまだ覚えきれないが、リンガーハットの話ならたくさんできるし、お客さんも盛り上がってくれる。

アルバイト体験が仕事に直接役に立っているとは言えないけど、あの大変で忙しかった日々が、日本人のお客さんとの共通の話題になり、心の距離を縮めてくれるような気がしている。

(文・王夢夢、編集・浦上早苗)


王夢夢:河北省出身。中国の大学で日本語を学び、2016年9月~2017年6月まで日本の大学に交換留学。2017年6月に大学を卒業後、中国の貿易会社に就職。

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