「#転勤イヤだ」男子だって一般職を選びたい——転勤敬遠、家族重視な20代男性が増加

企業の採用担当部門では、早くも2019年卒の選考スケジュールが動き出している。各社が開く就職説明会で近年、一般職や地域限定職部門に男子学生が集まる現象が起きているという。

長く働き続けたいからこそあえて一般職を目指す女性を取り上げたBusiness InsiderJapan記事は大きな反響があったが、中には「転勤ありで職務も無限定の総合職を敬遠するのは、今や女性だけではない」という声が寄せられた。 一般職や地域限定職を希望する男性たちは、どんな思いなのだろうか。

ホームに立つ、スーツ姿の男性

全国転勤、職務無制限とセットだった終身雇用モデルが崩れ始めている。

撮影:今村拓馬

「一般職は女性前提」のタブー

「金融機関では、一般職と総合職ブースを分けています。学生は会場内のどこでも自由に話を聞きに行けるのですが、一般職ブースに男子学生が集まっていて、ちょっと驚きました」

人材サービス大手の新卒採用担当者は、ある企業合同就職説明会の様子をそう明かす。

一般職、総合職といった区分けは、1985年の男女雇用機会均等法の制定を機に、大企業を中心に導入された。厚生労働省によると、転居を伴う転勤とセットで昇進・昇格に道が開かれ、企画立案や営業などを担う「総合職」と、転勤を伴わず定型的な業務を担う「一般職」といった位置づけだ。

「事実上の男女別の雇用管理として機能させている場合は、男女雇用機会均等法に違反します」(厚労省「2014年度コース別雇用管理制度の実施・指導状況」より)と表向きはされながらも、多くの企業では、一般職や地域限定職は女性を念頭においている場合がほとんどだ。

「『女性対象の募集です』とは言えないから、金融機関の一般職ブースの担当者は、男子学生が来た場合に断る理由もなく困っていた」(人材サービス大手新卒採用担当者)という。

売り手市場で言いやすい

「特に今年の就活から、転居を伴う転勤のない仕事がいいという声が男子学生にも増えた印象です」

就活支援のディスコキャリタスリサーチの上席研究員で、就活生のヒアリングなどを行う武井房子氏は言う。

2018年春卒業予定の今年の就活で、何が起きたのか。

就職活動説明会

2018年春卒の就活は、圧倒的な売り手市場だった。

撮影:今村拓馬

政府の働き方改革と売り手市場です。まず、3月には(時間外労働に上限を設けた)働き方改革の実行計画が出されました。企業セミナーでも『残業はどのくらいありますか』と学生が聞くことは、タブーではなくなりました。どんな仕事かだけでなく、どういう働き方かがフォーカスされた」と、武井氏は指摘する。

さらに世の中の有効求人倍率は1.52倍(8月)とバブル期超え。ディスコ調べでは10月1日時点で、2018年春卒予定の大学生・大学院生の就職内定率は92.7%とこの時期では調査開始以来、過去最高だ。就活を通して学生側にも余裕が感じられたという。

就職氷河期は、大手はもちろん、中小企業への就職も難しく、正社員になれるだけで御の字という時代でした。それに対し、今は選べそうな雰囲気がある。そんな中で、20年間も単身赴任することもある全国転勤モデルはいやだと、はっきり言う学生も出てきたのでは」(武井氏)

男子一般職は2倍に

ところが、実際にコース別採用を行う大手金融機関の担当者に聞いてみると、「特に(男性が一般職を希望するなどの)動きは感じられない」「採用の傾向や実数についてはお答えしていない」(メガバンク)という。「現状、地域限定の男性は介護など特別な理由のある40代」(大手損保)との声も。学生の志向と会社の内実は違うのか。

ある大手金融の社員はこう明かす。

「ここだけの話、一般職志望で受けに来る男子学生は増えている。ただ、採用にはなかなか至りません。現在、大手金融は全国に支店があって、全国転勤モデルで経営している。正直、全国転勤できる総合職人材が欲しい。ただ、これからもっと人口減少して採用難になれば、やがて見直さざるを得ないかもしれません

実際、統計データでみると、男性の「一般職」採用は着実に増えているようだ。

厚生労働省が調査する「コース別雇用管理制度の実施・指導状況(2014年)」によると、一般職採用に占める男性の割合は、2009年で8.1%だったのが2014年では17.9%と倍増。震災直後の2012年では2割を超えるなど、5年間ではっきりとした増加傾向にある。

一般職に占める男性割合(2014年)

一般職の採用に占める男性の割合は増えている。

出典:2014年度コース別雇用管理制度の実施・指導状況(厚生労働省)

「転勤がなく、何をするかの職務も決まった仕事」を選ぶ20代男性は確実に数を増やしているのだ。

「家族や地域を大事にしたい」

「全国転勤の会社で何の担当になるか分からない総合職を選ぶ気は正直、まったくありませんでした」

人材、不動産など生活に関するウェブサービスのじげん(東京都港区)の経営推進部で、総務を担う高橋直也さん(26)はきっぱりそう話す。高橋さんは、9月に人材サービスのベンチャーから同社に転職してきたばかり。新卒から3年半勤めた前職でも、総務の担当だった。

「新たな環境に挑戦したい」と考えたときも、転職先を選ぶ軸は①転勤がないこと②総務としての専門性を極めること —— だったという。

高橋さんの仕事風景。

もっぱら総務に携わる高橋さん。農業の繁忙期には、60代の父を助けたいという。

提供:じげん

「実家は埼玉県で片道1時間半かけて通勤しています。60代の父親が農業をやっているので繁忙期になると人手がいる。会社勤めをしながらも実家の手伝いをしたいし、家族や地域とのつながりを大切にしたい」

そう考えるから、常に職場が自宅通勤圏であることは譲れない。

総務の仕事はオフィスの環境整備や備品の調達、各種手続きなど「何でも屋」だが、つまりは「業務改善の専門家」だと思っている。会社全体を円滑に回すことに徹する総務のキャリアを極めたいと考えた。

いわゆる大企業ではなく、総務部門も立ち上げ段階にあり、一から部門の組織づくりに携わることのできる転職先を探した。「総務兼社長秘書」という、職務の明確な求人は「ぴったりだ」と感じたという。

働き方も仕事の内容も選びたい。そもそもひとつの会社に定年まで勤めるつもりはないので、終身雇用とセットの全国転勤や職務無限定の大企業を受ける気は、新卒の頃からありませんでした

男が本音を言える時代?

「全国転勤を条件に出世する従来型の総合職モデルがイヤというのは、何も、今に始まったことではないです。本当はそう思う男性はたくさんいたはず。ただ、それが顕在化したのでは」

女性の働き方を調査する派遣会社ビースタイルのシンクタンク「しゅふJOB総研」所長の川上敬太郎氏は、そう指摘する。川上氏は1990年代後半の就職氷河期に大手人材派遣に入社し、長年、人材サービス畑に携わってきた。

「女性活躍が言われだしたのはここ数年。それまで女性は寿退社という風潮はどこかに残っており、男性は一家の大黒柱であらねばという意識は今より強かった。やりたいやりたくないとは無関係に、まずは営業で下積みして昇進していくというモデルを受け入れていた。それが今は『こうあるべき』や家父長制の意識にとらわれず、地元ニーズや好きな仕事がいいと言える雰囲気が出てきているのでしょう」

仕事と生活の比重をどう調整し、どう働くか。女性の話として語られてきた“多様化”は、若年層を皮切りに男性へも及び始めている。

(文:滝川麻衣子)

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