なぜ、カフェでは仕事がはかどるのか?

会社のオフィスよりも、カフェやコワーキングスペースなど「社外」のほうが仕事が捗るように感じる、という人は少なくないでしょう。実はこれ、空間内の「CO2濃度」が影響しているかもしれません。

CO2濃度が高くなると空間内の酸素濃度が下がり、するとだんだん集中力が下がってしまう……。つまり、CO2濃度はその空間で働く個人の生産性、パフォーマンスに直接関わる課題と言えるのです。

では、個人のパフォーマンスを最大化するためにはどのような視点を持つべきか —— 。

今回は、IoTを駆使して「CO2濃度のモニタリングと改善」を促し、企業の生産性向上を支援している内田洋行、スマートビル事業推進部部長の山本哲之さんに話を伺いました。

インタビュー時の山本さん

個人のパフォーマンスは「CO2濃度上昇」で低下する

—働く環境の整備において「CO2濃度」に着目したきっかけは何でしょうか。

当社では、照度や温湿度などを測るセンサーをオフィス空間に設置し、照明や空調などを統合・遠隔制御するシステム「UCHIDA IoT Model」を展開しています。

このシステムを開発した当時、とある専門学校へ提案に伺ったところ、「CO2濃度は測れないの?」と聞かれたんです。なぜだろう、と最初は不思議に思いました。

専門学校は一般的な学校よりも教室がせまいため、締め切られた教室で授業していると、おのずとCO2濃度が高くなるんです。すると相対的に酸素濃度が下がります。だんだん集中力が下がって眠くなってしまうんです。

生徒が集中できない環境で授業すれば、成績も上がらない。成績が上がらないと、学校の合格実績も悪くなる……。経営陣にとって、CO2濃度は大きな経営課題だったんです。

私は山登りが趣味なので、酸素が薄くなるとだんだん眠くなる感覚は理解できました。そこで、関連する学術研究を調べてみると、CO2濃度と人のパフォーマンスに関連性があることが分かったんです。

—CO2濃度と人のパフォーマンスにはどのような関連性があるのでしょうか。

オフィスでの会議の様子

アメリカのエネルギー省の研究機関であるローレンス・バークレー国立研究所は、2012年にニューヨーク市立大学と共同研究を行いました。

24名の学生を被験者として、温度、湿度などほかの要因を一定に保ち、それぞれ、

  • 600ppm
  • 1000ppm
  • 2500ppm

のCO2濃度の環境下で、「9種類」の意思決定を行ったところ、

  • 1000ppmで「6種類」に有意な低下が見られ、
  • 2500ppmで「7種類」に大きな低下が見られた

というものです。

もう一つ、ハーバード大学公衆衛生大学院の2017年の研究でも、換気率と化学物質濃度、CO2濃度の異なる環境下で24名の知的労働者が作業を行ったところ、

  • 換気率が高く
  • 化学物質濃度とCO2濃度が低い環境

において、意思決定のパフォーマンスが最も改善し、9つの認知機能領域でテストの点数が高くなったとのこと。やはり、空間内のCO2濃度はそこで働く人の生産性に関係している。

質問に応じる山本さん

ちなみに、厚生労働省と文部科学省は、それぞれ、

  • 建築物は1000ppm以下
  • 教育施設は1500ppm以下

のCO2濃度に保てるよう、空調設備を維持管理することを定めています。

つまり、これらの基準値を満たしていないというのは、その空間で過ごす人にとって必要な衛生環境を「満たしていない」、ということ。

もちろん、建築物はこれらの基準に準拠して作られるわけですが、CO2濃度を厳密に最適化しようとするならば、会社やチームの人数構成やレイアウトの変更にも対応する必要があるのです。

海外で先行する「快適に働ける環境」の整備

—UCHIDA IoT ModelではどのようにCO2濃度を最適化するのですか。

内田洋行のオフィススペース

内田洋行のオフィススペース

空間内にCO2濃度をはじめ、温度や湿度、照度など室内環境を計測するセンサーを設置し、そのデータ値を環境モニタリングシステムで可視化します。

そしてCO2濃度が一定の値を超えたら、外気を取りこみ、適切な温湿度になるよう、換気と空調を平行してコントロールします。

しかし、働く環境には執務スペースや会議室だけでなく、工場や物流センター、研究所などさまざまな目的用途のものがありますし、人員構成も男女比率も異なります。

ひとくちに「快適な働く環境」といっても、その感じ方や好みも人によって異なりますから、ゾーニングして、できるかぎりパーソナライズすることが求められます。その微妙な調節にはやはりIoTの力が有効なのです。

企業からは、「環境経営」と「健康経営」という大きく2つの観点から関心をいただいています。

特に健康経営の側面では、人材不足という課題に対し、労働生産性を向上し、企業価値を高めていくために、従業員がいきいきと働ける職場環境の構築は喫緊の課題となっています。

プレゼン時の資料

内田洋行の生産性向上のためのアプローチ

ただ、これらの取り組みはまだ始まったばかりで、海外と比べるとその課題意識は不十分と言わざるを得ません。

—海外の事例としては、どんなものが挙げられるでしょうか。

全体として、先行しているという印象があります。

2015年3月にドイツのフランクフルトで行われたビル設備に関する世界最大級の見本市「ISH2015」を視察しましたが、その全体のテーマは「Comfort meets Technology」でした。

日本ではまだ「省エネ」に大きな関心が集まっていましたから、「快適性」というのはさらに一歩踏み込んだ概念だと感じましたね。

日本企業の多くがまだ「働く環境」の整備へ積極的に踏み切れないのは、「生産性向上は本人の努力次第」という意識があるからかもしれません。

温湿度は一律に設定して、寒ければ「毛布をかけろ」、暑ければ「クールビズだから我慢しろ」という感じ。働く「個人」にフォーカスする、という文化が希薄です。

説明する山本さん

けれども個人が不快に感じていれば、それだけ生産性も落ちますし、チームの力に影響をおよぼします。それに対して対策を取らないというのは、チームのパフォーマンスを向上させていない、ということですよね。

—わざわざオフィスからカフェに出向いて作業する、という人もいます。カフェがオフィスよりも仕事が捗るように感じる理由はどんなところにあるのでしょうか。

ある程度、CO2濃度の影響で説明できる部分はあると思います、もちろんそれだけではありませんが。カフェなどは人の出入りも頻繁にありますし、空気が滞留しにくいオープンな空間となっていることが多い。

厳密に測ったことがあるわけではありませんが、おそらく会議室のように密閉されたクローズドな空間と比べれば、CO2濃度は低く保たれていると思います。

職場の「ちょっとしたストレス」を見過ごさない

—働く環境の整備には、ある程度設備投資が必要になってきますが、まずはマネジャーや個人レベルでできるのはどんなことでしょうか。

そういう意味では、CO2濃度に関心を持つ、ということでも大きな一歩だと思います。そもそも「CO2濃度」と聞いてピンとくる人や、「ppm」という単位が分かる人ばかりではありません。

今、私がこうしてこの会議室でずっと喋っている間にも、だんだんCO2濃度が上がってきて、800ppmくらいになる。会議でも議論が白熱して1時間くらい経てば、おそらく1300ppmくらいになるでしょう。

モニタリングのデータ

CO2濃度モニタリングのイメージ

学校でも、冬にストーブを焚いて、締め切られた教室の中では、みるみるうちに(学校環境衛生)基準の1500ppmを超えます。CO2濃度は温度や湿度のようにすぐ分かるものではありませんが、人が増えればすぐに上がるものなんです。

—明確な数値として見えなくても、ずっと空気がこもっているような環境があれば、すぐに換気したほうがいいんですね。

そうですね。大切なのは、個人が職場で感じているちょっとしたストレスを見過ごさないこと。マネジャーや上司の方であれば、メンバーや部下の我慢に気づき、そのままにしておかないことです。

特にCO2濃度は、チームとして取り組みやすい指標のはずなんです。なぜなら、温度や湿度、照度は人によって快適さが異なりますけど、CO2濃度はどんな人のパフォーマンスにも一定の影響をおよぼすからです。

できれば、濃度の数値を見える化して、自分たちが働く環境はどういう値で示されるのか、を知ってほしい。もしくは、「頭がぼんやりする。眠くなってきた」など自分たちのコンディションに気づき、向き合うことから始めていただけると。

そうして、最近職場の換気をまったくしていなかったとか、会議の参加人数に対して部屋のスペースが狭すぎたとか、要因を一つずつつぶしていき、自分たちのパフォーマンスを高める場を自分たちの手で作っていけるとすばらしいですね。

仕事スペース


山本哲之:株式会社内田洋行 営業本部営業統括グループ スマートビル事業推進部 部長。1985年関西学院大学卒業、同年内田洋行入社。主にIT事業分野を経験し、2011年から省エネソリューションに携わる。2014年に現在のスマートビル事業推進部を立ち上げ、IoTを用いた設備監視・制御ソリューションビジネスを指揮。IoTビジネスにおける“つなぎ屋”としてのユニークなポジションを確立。愛媛県松山市出身。

参考:「UCHIDA IoT Model」の紹介動画

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

未来を変えるプロジェクトより転載(2017年10月17日掲載の記事)

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