働き方改革が管理職を疲弊させる、労務管理など負担増の“三重苦”

「俺が過労死しちまうよ」

こう弱音を吐いたのは、とある経営コンサルタント会社でマネジャーを務める大山宏和さん(45歳、仮名)です。大山さんが今、最も頭を痛めているのが「働き方改革」です。それは、経営層から「とにかく労働時間を減らせ」「売り上げは落とすな」「生産性を向上させろ」という、大山さんにとっては経験したこともない難題を突き付けられているからです。

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1. 労働時間を管理せよ

まず、大山さんに課せられた課題は“部下の労働時間管理”。“労働時間の管理”と一口に言っても、実際にやろうとすると容易ではありません。労働時間をきちんと把握することから始まり、労使で時間外労働の上限を決めた36協定を理解したうえで、

  1. 1日の労働時間の管理
  2. 1カ月の労働時間の管理
  3. 36協定で定める時間外労働の適用回数

を把握し、実行するための手続きをする。

さらには、休憩はしっかりとっているのか? 代休は消化できているのか? 無駄な残業をしていないか? など一昔前までは労働者個人に大幅に委ねられていたものを確認し、場合によってはそれを指導し、是正していかなければならないのですから

これらをしっかりとやろうと思うと、就業規則や36協定そのもの、その他、最低限の労働基準法の知識とその理解が必要になるでしょう。そこを担保するために、管理職向けの研修を充実させている会社は、まだまだ多くはありません。

2. 多様化にも対応せよ

さらに、リモートワークや勤務間インターバルなど多様な制度を導入している会社では、それらの制度運用の管理まで管理職が担っていることも少なくありません。

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例えば、リモートワークを大胆に採用している会社では、自宅・カフェ・社内といった複数の環境で仕事をする社員がいます。その社員の一日の勤務予定を申請させ、業務内容や状況を確認し、それを承認するのです。部下が数人であればさほど手間はかかりませんが、数十人にもなると、その管理職にのしかかる負担は大きなものになってきます。

しかも、単に労働時間を把握し、管理するだけでは労働時間を削減することはできません。業務をどう効率化させ、生産性を上げるのか。ここからが管理職としての技量が問われるところなのです。

3. 生産性を向上せよ

経営層からの大山さんへの指令は、労働時間の短縮と同時に生産性の向上を進めることでした。そして、その一環として徹底されたのが「評価制度の厳格な運用」だったのです。

労働時間の削減を進めた結果、回らない仕事が出てきてしまったことがきっかけでした。これまでは残業することで多くの業務をこなしていた社員が、従来のように残業ができなくなってしまったのです。その回らない仕事を“できる社員”がカバーすることになった結果、“できる社員”から「もっとちゃんと評価してほしい」という意見が大山さんに殺到したのでした。

「今までのように“それとなく”じゃダメなのか……」

大山さんは部下の評価について、大きな見直しに迫られることに。

細かな時間管理、働き方の多様性に応えた労務管理、実態に即した人事評価の大幅な見直し —— 。大山さんの肩には“三重苦”がのしかかったのでした。

多くの職場でしわ寄せは管理職に

大山さんの例に限らず、働き方改革のしわ寄せの多くは現在、多くの職場で管理職にのしかかっています。さらにこの傾向は強まりそうです。

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なぜなら、労基法が予定通り改正され、36協定の労働時間に上限ができた場合、それを遵守するには増員や業務改善で対応せざるを得ません。しかし、売り上げや利益を最優先に考える社長がいる会社では「増員はできない」なんて言うことも考えられるからです。

うまく改善することができなければ、全てを自分で抱え込んでしまう管理職が続出するでしょう。

ITの積極的な活用やオペレーションの見直しがうまくいかない、また、人材の適正配置がうまくいかない、というような職場は特に要注意。法律上、労働時間の適用が除外されている、いわゆる管理監督者である管理職がカバーせざるを得ないようなケースが懸念されるのです。

明暗分ける管理職へのサポート

さて、三重苦がのしかかった大山さんは、その後どうなったのでしょうか。

大山さんは、部下からの「ちゃんと評価してほしい」との声を受け、四半期ごとの面談で目標管理とフィードバックを開始。

部下に任せっぱなしだった各人の業務の量と質の把握もできるようにしました。

また、残業時間を使って業務をこなしていた社員に対する指導も頻繁に行うように。こうして部下と向き合い、少しずつ改善を重ねていったそうです。

ここで大山さんの勤務先が企業として正解だったのが、管理職である大山さんがパンク状態になるまで放置せず、早め早めに対応したことです。

具体的には、以下のことに着手したのです。

・大山さんのような管理職層向けの研修を社労士や経営コンサルタント会社に依頼し、コンプライアンス意識とマネジメントスキルの向上を図った。

・業務の効率化のために業務管理ソフトを早々に導入し、あわせて業務分析を元に、必要に応じてアウトソーシングを進めた。

・当面の対処として派遣社員を増員するなど、管理職への負担を極力減らす努力をした。

こうした「管理職へのサポート」こそが、働き方改革には不可欠なのです。

さらに言えば、こうした働き方改革の波が押し寄せる中、あらためて労基法第41条第2号の“管理監督者”として扱う線引きが適正かどうかを見直す必要もあるでしょう。今一度、管理職が十分な権限を持たないのに、肩書きだけで残業代などの割増賃金が支払われていない“名ばかり管理職”となっていないかどうかの点検をしなければなりません。

最後になりますが、管理職の方々、ご自身の健康はご自身こそが一番気を使ってください。労働時間削減は部下だけではなく管理職自身にも必要なのは、言うまでもありませんから!


大槻智之(おおつき・ともゆき):国内最大級の社会保険労務士法人、大槻経営労務管理事務所代表。著書に『就業規則のつくり方・見直し方』。人事担当者の交流会やセミナー事業を提供するオオツキMクラブを運営し、参加は250社(社員総数26万人)を超えている。

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