不確実性の高い世界を「Gゼロ」と表した、世界政治リスクのリサーチやコンサルティングを行う米ユーラシア・グループを創業したイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏。「Gゼロ」とは、どんな一国家、どんな国家同盟によっても世界のリーダーを担うことが不可能となり、世界を不確実性と不安定さが覆い、対立が引き起される可能性が高い状態を表す。
「日本の首相はドナルド・トランプに賭け、アメリカに大きく賭けている」(イアン・ブレマー氏)
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Gゼロは2018年に一段と深まっていき、信頼に足るリーダー国家の不在が大きな世界のリスク要因になると、ブレマー氏は言う。ならば、Gゼロの時代を日本は、特に日本企業はどう生き抜いていけば良いのか?
2017年10月、Business Insider Japanは、ユーラシア・グループ主催の「地政学サミット2017」に出席するために来日したブレマー氏に話を聞いた。
Business Insider Japan(以下、BI):これからの未来、日本企業に追い風は吹いてくるのでしょうか? それとも向かい風?
イアン・ブレマー(以下、ブレマー):僕が思うに、最初に考えなければいけないのが、これからの10年、20年で日本の代表的な大企業のうち、どれだけの企業が「日本企業」として存在していくのかということ。日本の人口は減り続けていく一方で、労働力は世界中のどこからでも得ることができる。トヨタは、日本から輸出するより多くの自動車をアメリカなどの大きな消費国で生産しようとするだろう。
ビジネスがグローバル化しても、サプライ・チェーンはローカライズされていくと思う。本社機能が日本にあり続けることはないと考える日本企業が現れてもおかしくない。製造業が多く使う燃料や電力などのエネルギーコストが日本よりも安価な場所は、世界にいくらでもある。
チャイナ・プラス・ワンの次の戦略
「中国は経済大国となるだけでなく、テクノロジーにおいても世界のスーパーパワーになるだろう」(イアン・ブレマー氏)
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BI:日本企業が直面する最大の課題は何だと考えますか?
ブレマー:ビジネスにおいて日本の大きな課題の一つは、もうじき世界最大の経済国になる中国とどう付き合うかだと思う。
日本の首相はドナルド・トランプに賭け、アメリカに大きく賭けているが、可能性として考えられるシナリオは、米中関係は悪化していくということ。
日本企業は経済大国・中国の成長に有効的なモノやサービスを売りたいと考えるのは必然だが、日本企業に中国に大きく賭けろとアドバイスするのは難しい。
少し前までチャイナ・プラス・ワン(投資や事業で中国に集中させず、同時に他のインドやアジア諸国で展開し、中国リスクを回避するためのマネジメント手法の1つ)を続けた多くの日本企業だけど、これはもはや時代遅れになってきた。注意深く、今までの考えや戦略を変えていかなければならない。
中国はテクノロジー・経済超大国に
言うまでもなく、中国は経済大国となるだけでなく、テクノロジーにおいても世界のスーパーパワーになるだろう。中国政府は、戦略的に重点を置く分野、産業を選び、そしてそれらを伸ばしていき、競争力を圧倒的なレベルにまで上げていく。もちろん、すべての産業、分野で、中国が世界の他の国を圧倒することは難しいが、例えば人工知能(AI)などは積極的に力を入れるものの一つだろうと思う。
中国が形勢を一変させるテクノロジーや産業を作り上げた時、それは日本の製造業に対する大きな影響として現れてくると思う。
「中国政府は、戦略的に重点を置く分野、産業を選び、そしてそれらを世界一にするだろう」(イアン・ブレマー氏)
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BI:世界の時価総額ランキングを見ると、日本企業はトップ40から姿を消した。1980年代には日本から数社がトップ10に入ったが、今ではアップルやフェイスブックなどのアメリカ企業、そして中国のアリババやテンセントが占めている。日本のこれからの強みは?
ブレマー:13億人、14億人の中国とその経済の大きさと未来を考えてほしい。(日本企業が世界を圧倒した)1980年代は二度と戻ってこない。
僕が思うのは、日本企業はこれから世界を圧倒することをゴールにすべきだろうか? ハイ・クオリティ、安定性(スタビリティ)、暮らしやすい環境づくりを強みに、日本が伸ばせる分野で力を発揮することを考えるべきではないだろうか。
日本の「安定性」から学ぶこと
Gゼロの時代、不安定な世界政治の中で、日本が得意とする安定性は非常に重要だ。(日本の失われた時代を考えると)日本から成長に関して多くを学ぶことは難しいかもしれない。しかし、僕たちが日本から安定性(スタビリティ)に関して学ぶことはとても多いと思う。
「僕は2万5000ドルで今の会社を作った。それ以来、僕の価値観はあまり変わっていないかもしれない」(イアン・ブレマー氏)
Business Insider Japan
BI Japan:IOT(Internet of Things=モノのインターネット)の開発が進む中、日本企業が発揮できるエリアは?
ブレマー:誰もがこのエリアに入ることができる。サイバースペースの中で、データをコントロールして、人の目と行動をコントロールできる。アリババやテンセントは中国でパワフルな存在だ。
日本はヘルスケアにおけるIOTで圧倒的な強さを発揮できるのではないだろうか。高齢者の多い社会で、高齢者向けのヘルスケアIOTに期待はできる。
イアン・ブレマーの価値観
BI:最後に、仮想通貨やブロックチェーン、IOT……ブレマーさんのライフスタイルも変わってきたのでは?
ブレマー:僕は2万5000ドル(約285万円)で今の会社を作った。それ以来、僕の価値観はあまり変わっていないかもしれない。お金のことばかりを考えて、心配するような人生はいらない。だから、株に投資はしないし、仮想通貨も持っていない。
フィナンシャルプランナーを見つけて、お金を増やすことはできるかもしれないが、そうすればまた投資のリターンを心配することになる。ある人は例えば、大自然が人生の刺激となる。また、ある人はスポーツに没頭するライフを歩む。お金に生き甲斐を感じる人もいる。
僕は、世界がどう動いているのかを理解しようとしている時に幸せを感じる。
(取材・構成:佐藤茂)