元財務官僚がグラミン銀行と挑む日本の貧困——根付くかマイクロファイナンス

無担保で少額を融資するマイクロファイナンスを柱に、貧困削減に取り組むグラミン銀行を、日本に設立する準備が進んでいる。

グラミン日本の構想を提唱してきた財務省出身で明治学院大学教授の菅正広さんを中心に、2018年夏の業務開始を目指している。日本の格差拡大と、アメリカで貧困ライン以下で暮らす人たちを少額融資で支援するモデルが機能していることから、日本での事業化が本格化した。

菅さんは「マイクロファイナンスは途上国の農村のものというイメージがあるが、先進国でも都会でも機能する。その典型例がアメリカにある」と話す。

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グラミン・アメリカのミーティングの様子

提供:菅正広氏

ノーベル賞受賞したマイクロファイナンス機関

グラミン銀行は1983年、ムハマド・ユヌス氏がバングラデシュで創業した。これまで金融サービスを受けられなかった、貧しい農民に少額融資を行い、生計の向上を支援する事業を始めた。

グラミン銀行のウェブサイトによれば、グラミンのマイクロファイナンス手法はいま、アメリカやカナダ、フランスといった先進国を含め世界58カ国に広がっているという。ユヌス氏とグラミン銀行は2006年、ノーベル平和賞を受賞。グラミン銀行のような少額融資を行う機関は、マイクロファイナンス機関と呼ばれている。

グラミン・アメリカが活動を始めたのは2008年のことだ。金融サービスを受けられない人たちを対象に、貧困からの脱出を支援する。財務官僚として、アフリカ開発銀行の理事、世界銀行の日本政府代表理事などを務めてきた菅さんは、グラミン・アメリカのモデルを日本に持ち込みたいと考え、2014年7月には著書『構想 グラミン日本』も出版している。

菅正広さん

グラミン日本の設立準備を進める菅正広さん。

撮影:小島寛明

無担保でも貸し倒れが起きにくい仕組み

グラミンの融資モデルには特徴がある。とくに、無担保でもきちんと返済を続けてもらうため、さまざまな工夫が凝らされている。

融資を受けたい人は、5人1組の互助グループをつくる。最初に、5人のうち2人が融資を受け、最初の2人の返済状況によって、残りの3人が融資を受けられるかが決まる。この仕組みにより、5人の中で交流が生まれ、それぞれが事業や仕事に意欲を持って取り組み、励ましあって返済を続けていく関係が生まれる。

グループ内で返済できない人が出ても、他の人が返済する「連帯保証」の責任は負わない。融資額の上限は少額からスタートし、返済がスムーズに続けば、融資可能額は徐々に引き上げられる。グラミン日本では、上限20万円からのスタートを想定している。

Grameen Japan Chart

グラミン日本の融資枠組のイメージ

制作:小島寛明

菅さんは「内臓を売れと脅かすような一部のあくどい消費者金融でも貸し倒れ率は10%を超えていたが、個人主義の強いニューヨークで貸し倒れ率0.2%にとどまっている」と説明する。

融資を受ける際には事前に、お金との付き合い方、家計の見直し方などを学んでもらう勉強会への出席が義務付けられる。融資を受けている間は週ごとに少額の返済を続け、毎週のミーティングへの参加が求められる。

融資の対象者は主に、貧困ライン以下で生活する人たちで、働く意欲、能力がある人。「例えば、障がいのある人は働く能力がないと考えられがちだが、数学的な能力が高いとか、決まった作業を繰り返すのが得意とか、それぞれに特性がある。そういった特性も大事にしていく」(菅さん)という。

小さな事業を始める、副業を始める、フリーランスとして自分で仕事を請け負う、就職に備えて学校で勉強するなど、所得を生む取り組みが融資の対象となる。一方で、生活の資金には融資しない。

人間は簡単に貧困に陥ってしまう

日本ではシングルマザーの世帯を中心に、ひとり親世帯の貧困が深刻だ。

厚生労働省が実施した国民生活基礎調査では、貧困層の割合を把握する指標として可処分所得を採用しており、2015年の日本の貧困ラインは122万円。相対貧困率は15.6%となっている。

大人が1人の世帯については、2015年の調査で50.8%が貧困ラインを下回っている。1985年以降、ひとり親世帯の過半が貧困ラインを下回る状況は続いている。また、2011年度の時点で、ひとり親世帯の約85%が母子世帯という同省の調査結果もある。

菅さんは「生きていれば、配偶者との離別、死別、事故や病気などさまざまなアクシデントが起こる。ちょっとしたことが重なれば、人間は弱いから簡単に貧困に陥ってしまう。だから、貧困を自分の問題として捉える必要がある」と話す。

グラミン・アメリカも、女性の支援に力を入れている。グラミン・アメリカによれば、10年間で約9万5千人を対象に、7.6億ドルの融資実績を重ね、9万9750件の雇用を創出したという。

グラミン・アメリカ屋台写真

グラミン・アメリカで融資を受けた人が始めた屋台。

提供:菅正広さん

2017年2月、ユヌス氏が来日した際に、グラミン日本の設立について合意。8月には、一般社団法人グラミン日本準備機構を設立した。現在、7億円を目標に出資を募っている。2018年夏の事業開始後、5年で黒字化を目指す。

日本で、貧困ラインを下回る水準で暮らす人が、20万円からはじめる少額融資をきっかけに、どうすれば持続可能な生業を持ち、暮らしていくことができるのか —— 。

制度を設計するうえで議論すべき課題は多い。菅さんは、就労支援・生活支援などの分野で活動するさまざまな団体と協業することで、実現したいと考えている。

「生活は困窮していても前向きに生きる人たちを、どう支えていくか。日本の実態に合った仕組みを模索していく」

(文・小島寛明)

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