ミレニアル世代は、ゴルフ場に別れを告げ、農園と出会う。
Rancho Mission Viejo/Facebook
- アメリカ各地で「アグリフッド(agrihood)」と呼ばれる、新しい住宅コミュニティーが誕生している。
- 農園体験を核とするアグリフッドは、かつてベビーブーム世代が好んだゴルフコミュニティーに取って代わろうとしている。
- アメリカ国内には現在、約150のアグリフッドが存在し、さらなる開発が進められている。
ミレニアル世代は、カントリークラブに「さよなら」を告げ、農園に「よろしく」と挨拶している。
アメリカでは「アグリカルチュラル・ネイバーフッド(agricultural neighborhoods)」、略して「アグリフッド」が続々と生まれている。ターゲットは「農場から食卓まで(farm-to-table)」を好むミレニアル世代だ。
都市開発シンクタンク、アーバンランド研究所の緩やかな定義によると、アグリフッドは農園体験に特化した計画都市で、広々とした緑地、納屋、野外の共同キッチンを備えている。中には、温室や果樹園まであるコミュニティーも存在する。住宅はソーラーパネルやコンポストのある、環境にやさしい作りとなっていることが多い。
アグリフッドは、健康的な食生活やアウトドアを好む、活動的な若い家族向けに設計されている。
同研究所によると、アメリカ国内にある約150のアグリフッドの中には、アトランタ(ジョージア州)やフェニックス(アリゾナ州)、フォートコリンズ(コロラド州)のような大都市から数分の距離に位置するコミュニティーもある。持続可能な生活のために、都会から離れた場所へ引っ越す必要がないというのは、アメリカの住宅市場最大の購買層であるミレニアル世代にとって、大きな魅力となるはずだ。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン・スクール・オブ・マネージメントの教授ポール・ハビビ(Paul Habibi)氏は、アグリフッドは「経済的利益、環境財、社会的利益の集合」であり、特にミレニアル世代にとって魅力的な選択肢だと、Orange County Register紙に語った。
「ミレニアル世代は、社会的利益を切に求めている」と、ハビビ氏は言う。
ゴルフコミュニティーは、ミレニアル世代にとって魅力的ではない。
Andrew Redington/Getty
アグリフッドは、1990年代にベビーブーム世代の間で人気を集めた、上品なゴルフコミュニティーの21世紀版になり得る。25年前には、ゴルフ場の近くに引っ越すことは、ステータス・シンボルであり、その緑地と眺望によって、こうした不動産には高値が付いた。
しかし、ミレニアル世代は着飾った隣人には興味がない。「農場から食卓まで」の食生活を好み、「清く正しい暮らし」を求める現代の若者にとって、アグリフッドこそ、まさに追い求めているもの、そのものなのだ。
「ゴルフ場はもう古い。我々の顧客は、本物の自然を求めている」Crown Community Developmentの都市開発部門・副社長のテレサ・フランケビック(Theresa Frankiewicz)氏は、アーバンランド研究所の「2016年フード&リアルエステート・フォーラム」でこう語った。同氏は、アリゾナ州ツーソン近郊にある6800エーカー(約27.5平方キロメートル)規模のアグリフッドの開発に携わった。
また一部のコミュニティーでは、ゴルフ場の代わりに、持続可能な生活に必要なスペースを確保しようとしている。
Register紙によると、カリフォルニア州パームスプリングスの開発業者は、18ホールのゴルフコースを70エーカー(約0.3平方キロメートル)のオリーブ園に変えた。このオリーブ園は「Miralon(ミラロン)」と呼ばれる、300エーカーの新しいアグリフッドの中心になるという。年内には着工予定で、最終的には犬用の公園やジム、ファイヤーピット(焚き火台)に加え、かつてのゴルフカートの通り道を活用した6マイル(約9.6キロメートル)のハイキングコースなどが作られる。
このコミュニティーには、1150の戸建て住宅、タウンハウス(庭付きの低層集合住宅)、分譲マンションが建設される予定で、その価格は30万ドル(約3400万円)から70万ドル(約8000万円)以上とされている。住人は新鮮な食料や自然へのアクセス料を支払うことになるという。
南カリフォルニアに拠点を置く開発業者、ランチョ・ミッション・ビエホ(Rancho Mission Viejo)は、2014年に「アグリフッド」の名称を商標登録した。若い家族や活動的な定年退職者向けの持続可能な生活を、「Esencia(エセンシア)」や「 Sendero(センデロ)」 といったコミュニティーで提供している。
全ての住人は、果樹園やワークショップ・スペース、プランターの苗、既に植えられている農作物、果物の木を含む共同農園を利用することが可能で、季節ごとの数々のコミュニティーイベントに参加できる。ただ、新築物件の価格は決して安くはなく、40万ドル(約4600万円)から100万ドル(約1億1400万円)以上となっている。
「住人にとって、参加しやすい環境作りをしている」と、同社のコミュニティーサービス部門の責任者、アマヤ・ジェナーロ(Amaya Genaro)氏はRegister紙に語った。「隣人と責任を共有し、豊富な種類の果実や野菜を刈り取りながら新しい友情を築くのは、楽しいでしょう」
アグリフッドが、若い住宅購買層であるミレニアル世代を魅了し続ければ、彼らの新しい消費行動によって、既存の重要産業が衰退する可能性もある。
[原文:Rich millennials are ditching the golf communities of their parents for a new kind of neighborhood]
(翻訳:四方田里奈/編集:山口佳美)