「10月31日は渋谷でハロウィン!」が当たり前になってはや数年。パーティーピープル(通称パリピ)な人たちは一体どんな風に一夜を過ごしているのか? 今回は、ガチのパリピ女子である知人のYさんの協力のもと、ハロウィンに繰り出すパリピたちの密着取材をお届けします。
「バス貸し切ってパーリーやるよ、来ない?」「は?」
「リオちゃん、今年ハマーバスでハロウィンパーティーやるよ、来ない?」
そう誘ってくれたのは、Yさん。普段はモデル・女優として活動している、記者とは吸う空気が違うようなキラキラ系のいわゆる港区女子(※)。記者の前職・チームラボでのつながりをきっかけにして出会って以来、何かとイベントごとに誘ってくれる、明るく天真爛漫なお姉さんだ。
急いで「ハマーバス」とググると、「都内をクルージングする、移動型クラブパーティーバス」(リムジンバス)と出てきた。
ついに私も港区パリピ女子の仲間入り……!いや、私なんかが行ってもいいのか? 迷った末、ドキドキしながら「行きます」と返答した。
10月31日、ハロウィン当日。「仮装はマスト」ということで、19時頃に会社を出て、MEGAドン・キホーテ渋谷本店へ。仮装グッズなんて買ったこともないけどドンキなら安全っしょと気楽に行ったら、ものすごい人だかりで動けない! 移動とメイクに思いのほか時間がかかってしまい、集合場所の東京ミッドタウン前にたどりついたのは時間ギリギリの20時50分だった。
しばらくすると、ハマーバスが到着した。
定員45人のハマーバス。この日の会費は5000円(会費のお金が余ったので、1ドリンク込みになった)。
想像以上の、圧倒的な存在感! どうやら、ガチのパリピはバスを貸し切り、ハロウィンに湧く都内をクルージングするのだ。点呼を取りながら、初対面の人たちとともに続々と中へ。
最初にスタッフからの説明が入る。
「今日は私服警官もたくさん配備され、少しでも危ないと判断されると運転が止められてしまいます。絶対にモノや手足を出さないでください。特に渋谷ではハイタッチしようとする人が出てくるので、絶対に応じないように」
声には力がこもり、スタッフも本気だ、と伝わってくる。それでも、無数のミラーボールに照らされる車内で、仮装姿の大人45人が小学校の遠足でされるような注意を真顔で聞いているのは少しシュールだった。
ハロウィン行脚するハマーバス内。この時点ではまだ音楽はかかっていない。
早速、私たちのお祭りを盛り上げる音楽が爆音で流れ始めた。
1曲目は、ダンスミュージック・EDMの大人気DJユニット「Galantis」の「No Money」。記者も知っているほどのEDMの名曲(アンセム)からスタート。周りは知らないパリピだらけという記者の気まずさも、一瞬で吹き飛んだ。今夜はパーリーナイトだ!
車内は一気にヒートアップ。「まだノレない」という人は、席に座り(だいぶ話しづらそうではあるが)おしゃべりをしている。
「インスタ映え」を超越した光景がそこにはあった。
記者も一曲目からいきなりテンションが上がってしまったが、ハッと我に返り、今日は取材だと思い出す。周りの人に聞き込みをしなくては。
パーリーでも仕事のネットワーキングに余念のない港区男子
まずは「鼻ばんそうこうの野球少年」と「血まみれナース」という外見の二人に話しかけてみる。「こないだの流しそうめん会(Yさんに誘ってもらって行った会)で、ちょっとお話したよね!」と鼻ばんそうこうさんが気さくに応じてくれた。
「この会へはどうやって参加を?」と聞いてみると、
「私はYの留学時代の友達。この子(血まみれナースを指差す)は、私の高校の友達なんだ!」とのこと。
職業はそれぞれ、化粧品会社の広報と、薬剤師さん(本当に白衣を着る職業の方だった)。
血まみれナースさんは、3日後に婚約とのこと。おめでとうございます!
スーツ姿でお面を被った、男性二人組にも聞いてみた。
二人の会社は、「外資系金融」とのこと。「港区」を象徴するパワーワードにビビっていると、「ていうか、めちゃくちゃ写真撮ってるね(笑)」とツッコまれた。
「実は記者で、今日は取材に来てるんです。ビジネスインサイダーって知ってますか?」と聞くと、「え、僕毎日読んでますよ!」
まさかの読者さんキターー!
すると隣の男性が、「僕、2週間後くらいに、ブロックチェーンを使ったフィンテック系の起業をするんです。これ……」(と名刺を出す)。
あっ、ハイ。(と慌てて名刺を出す)
そうこうしているうちに、ハマーバスは六本木から表参道へ。ここであることに気づく。街行く人々がみんな振り返って、私たちに手を振ったり、写真を撮ったりしてくる。
バスのなかから街の人たちに手を振ったり、音楽に合わせて踊ったりしていると、不思議な感覚に襲われる。この感覚何かに似てるなぁ……と思ったら、アレだった。インスタの投稿にめちゃくちゃ「いいね!」がついた時の、あの感覚だ。自分に注目が集まって、みんなから「認められてる」感じ。インスタの「いいね!」を100倍くらいの濃度に煮詰めた感じ、それがパリピの「気持ちよさ」なんだ。
羨ましそうに我々を眺めている(ように見える)、側道の人々。
ここで問題発生。十分予想された事態とはいえ、ハロウィンパリピでごったがえす渋谷の大渋滞で、スクランブル交差点へ入れない。タワーレコードの前あたりで20分ほど止まったのち、右に迂回し、別方向からスクランブルへ突撃することになった。
渋滞に引っかかっている間に、さらに参加者の聞き込みを続ける。カリスマ美容師、アートコレクター、アート弁護士、ベンチャー企業の広報、デザイナー、モデル……と、知り合いの知り合いがどんどんつながっていく。
なんと、シリコンバレーの某有名スタートアップのCEO、なんて人もいた!日本に来るのは25回目くらいだそう。きっかけは、Hさんという友達の紹介だそう。
ではHさんはどうやってこのパーティーに?
「主催者のYちゃんとは人狼会をよくしていて。そのつながりで来てるんだよね」とのこと。
ふと気づけば、ハマーバスは渋谷の名所「モヤイ像」を通り過ぎるところ。スクランブル交差点はすぐそこだ。車内のテンションは最高潮へ。
車外を見てみると、飛び跳ねながら大きく手を振る、アメリカのアニメ映画「怪盗グルーシリーズ」のキャラクター・ミニオンの着ぐるみで仮装した男子たち、浦安の大人気テーマパークのあの「耳」をつけた、女子高生のグループたち。ただ、珍しそうにスマホのカメラを向けている仕事帰りのサラリーマン風の人たち。
街のバイブスは最高潮。
爆音のままバスはセンター街へ。側道の群衆も音楽にノリノリ。まるで道そのものが縦揺れしているかのようだ。
大興奮の中、スクランブル交差点を通り過ぎると、時間はすでに23時40分を回ろうとしていた。22時には渋谷に着いて、原宿、新宿、と回って東京ミッドタウンに戻る予定だったけれど、大幅な時間オーバー。終電が近いハマーバス参加者は、急遽渋谷で降りることになった。
これぞ、渋谷のハロウィン・パーティーナイト!
「終電なんて気にしない!」ガチなパリピたちを連れて、ハマーバスは一路、六本木の東京ミッドタウンへ移動。
最後の方でバスから降りると、Yさんが待っていた。コインロッカーの確保から会費の徴収、途中参加者の人数確認まで、ハマーバスハロウィン会のマネジメントをすべて取り仕切ったYさん。さすがに疲れてないかな? と思ったら、ひょうひょうとした様子で、仮装仲間との記念写真を始めていた。
同じ仮装チームで記念写真中。
「どうしよっか、これから別のクラブ行くか、何か食べよっか?」
さすが、港区パリピ女子の夜は長い。私は疲れと今日の記事を書くため、泣く泣く撤退。
すでにクリスマスイルミネーションでキラキラした六本木のけやき坂をトボトボと歩く。あれ、と気づくと、Facebookの友達申請が、もうすでに3人も来ていた。
(文、写真・西山里緒)