“リーマンショック直撃”経てスマホ決済にかける32歳の「突破人生」 —— Origami代表 康井義貴

Business Insider Japanがミレニアル世代のスタートアップ経営者を追うシリーズ。3回目は、26歳で起業し、5年の間にモバイルECプラットフォーム、スマートフォン決済を次々に実現した「Origami」代表の康井義貴。130兆円の小売市場にイノベーションを起こして金融革命を狙う。

康井さん

「Origami」代表の康井義貴(32)。26 歳で起業し、5年間でスマートフォン決済などを次々実現。資本移動のあり方を変え、金融革命を起こすことを目指している。

カナダ・トロント生まれNY育ち。父は外資系金融マン

フィンテック(金融とテクノロジーの融合)というと、どうしてもビットコインなどバブル気味の話題に目が行きがちだ。だが、日本発フィンテック・スタートアップ「Origami」(本社:東京都港区)代表の康井義貴(32)が狙うのは、いわば金融の本丸と言える分野でのデジタル革命である。目指す「ゴール」は〈資金移動のあり方を変え、金融界に革命を起こすこと〉なのだ。康井は言う。

「ゴールに到達するには、少なくとも三桁(100億円)単位のお金が会社のバランスシート上に乗っている必要がある。まだまだ道のりは長いですね」

2012年2月に26歳で同社を創業。サービス開始にあたり、KDDIとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)から計5億円の出資を受け、業務提携を結んだ。その翌年、スマートフォンで買い物ができるモバイルEC(電子商取引)プラットフォーム「Origami」を始動させるや、BEAMS(ビームス)、伊勢丹など数々の有名ブランドが出店し話題をさらった。

康井さん

プロテニスプレーヤーになるという夢は、父の「お前は将来ビジネスやるんだろ?」という一言で一蹴された。

澄んだ大きな目と鍛え上げられた体が印象的な康井を一言で形容すると、「ビジネスアスリート」。カナダ・トロントで生まれ、アメリカ・ニューヨークで育ったという根っからの国際派だ。さらに、外資系の金融畑一筋だった父親の背中を見て育ったことは、金融に照準を合わせ一直線に力走する康井のマインドに多大な影響を与えた。

「父は典型的な外資系の人で、カナダロイヤル銀行(ロイヤル・バンク・オブ・カナダ)、シティバンク、JPモルガン、HSBCバンクといった金融会社をウロチョロしていた。家ではしょっちゅうハウスパーティが開かれ、外資系の人たちとは小さい頃から接点がありました」

日本に移住したのは10歳の時のこと。テニス三昧の学生生活を送り、小中学校時代は全日本の選手にも選ばれた。

エアマックスのネット販売で商売に目覚めた高校生時代

国立市の桐朋高校に進学した康井は、インターネット世界の入り口となる携帯電話とPCを手にした。16歳の時、手始めにファッション系ホームページを自作し、Eコマースビジネスを始めた。

当時は「エアマックス」をはじめとするスニーカーが数万円で売れた時代。洋服や靴を仕入れては売る「おままごとみたいな」シンプルな商いながら、思った以上に成功し、学生の身分で数百万円の売り上げができた。ただし、母親には内緒だったため、自宅にわんさか物が届くと、母親が「なんでこんなに大量に?」と目を丸くしていたという。

大学時代も、プライベート・エクイティ・ファンドでビジネスに没頭した。その後は、インターンを経て、2008年4月にリーマン・ブラザーズに入社。M&Aアドバイザリー業務を担当し、朝の8時から翌朝の4時まで休みなく働くような日々を送った。 だが、入社してたった5カ月後の2008年9月に「会社が吹っ飛びました」。リーマン・ショックに遭遇したのだ。

「もともと修行の場と考えての就職だったため、僕は面接時から『2年ほどで辞めます』と言っていて(笑)。今考えれば、よくそれで採用してくれたなと思うんですけれど。それからは、『さあ、次にどうしよう』と」

シリコンバレー在住の日本人ベンチャーキャピタリスト、伊佐山元(現Wil CEO)との出会いもあり、当時、彼が代表を務めていたアメリカのベンチャーキャピタル「DCM」に就職した。アメリカ、中国、日本の3拠点を行き来し、投資や事業支援に打ち込んだ。

ORIGAMI

「日本からグローバルに通用するような事業をつくりたい!」という思いから、世界で通じる「折り紙」という言葉を社名に採用。

「ここでアメリカ人にいつも同じ質問をされて。『かつてのソニーやホンダは?』『日本はこの頃どうしちゃったの?』と。日本に元気がないという話が、日本人である僕のところに来る。

Origami起業の際、世界で通じる言葉であり、かつ和名らしい「折り紙」を採用したのは、『日本からグローバルに通用するような事業をつくりたい!』『自分が頑張ることで日本のプレゼンスが上がったら、すごくうれしい』っていう、この時沸き起こった感情がベースにあるからです」

実質0コストでお金が動く〈未来の〉銀行像

Origamiの決済ロゴ

Origami決済が使える店舗ではこんな風にOrigamiロゴが掲示。決済方法は、主に中国を中心にスタンダードになり始めたQRコードをスマホカメラで読み込む方式。

康井が最初にEコマースから着手したのは、10兆円強といわれるEC市場だけを狙ったわけではない。その脇に横たわる、130兆円市場ともいわれる「オフライン」の巨大な小売市場の商いまるごとを「インターネット化できる」と見越したからだ。

康井はその扉を開くため、2016年5月、店頭でスマートフォンによる決済サービス「Origami Pay」を始めた。今年2017年6月に全国 1万3000 店舗を超えるコンビニ大手ローソンにてスマホ決済サービスの業務提携に関する基本合意書を結んだ。

創業時の5億円に加え、決済サービス導入に当たってはソフトバンクグループ、クレディセゾンなどから16億円を調達した。実現までに費やした歳月は4年にも上る。康井は「ここまでで、ようやく富士山の2合目ぐらい」と屈託なく笑う。

康井が創ろうとしている金融のカタチ。それは、キャッシュレス、カードレスで自在にお金が動いていく〈未来型の〉銀行だ。康井は言う。

「現金もカードも使わずお金が流れていく『資金移動』こそが未来の金融の本質。そこに、インターネットを介在させることで、ものを〈買う〉〈貯める〉といった金融の価格に弾力性ができるんです。簡単に言えば、カード会社や銀行など金融機関をまたぐ度に取られていく手数料を省ける。まだ道半ばですが、Origami独自にお金をバランスできるようになったら実質0コストでお金って動かせるようになる」

同じゴールに向かって走るチームづくりのために、いい人材を引き寄せ仲間にしていくことが「僕個人の明確な役割」だと意識している。実際同社には、多彩な人材が集まった。出身企業もFacebook、グーグル、リクルート、楽天、LINE、アップル……と華やか。シリコンバレーのトップエンジニアも採用している。康井の好きな言葉は〈プロアクティブ(先を見越した)〉。事が起こる前に自発的に行動するような社員が多いのだと、康井はちょっぴり自慢げに話した。

スマホのお財布×顧客データで「貝殻(現金)より安く」が可能に

日本では、Apple Payの普及もあり「スマホでシャリーン」がまた新たな段階として一般化された。2016年5月にOrigami Payがサービスインしてから、わずか1年ほどで参入するプレーヤーは続々と増えた。

Origami決済対応企業一覧

Origamiが公開している、Origami決済対応の主要チェーン。

今、各種販売店店頭のPOSレジ回りには「Apple Pay」「楽天Pay」「LINE Pay」など、支払い方式のマークがあれこれ並んでいる。多くは、事前に登録したクレジットカードから、買い物1回ごとに代金が自動的に支払われる方式だ。

「Origami Pay」もまた、その点では同様の方式だ。少額の支払いであっても、いちいち現金もクレジットカードも取り出すことなく、スマホでQRコードを読み込ませれば支払いは完了する。同サービスを使ってみた個人的な感想としては、人気ロックバンド「サカナクション」が作曲したという決済音が耳心地よく、クセになりそうだ。

Origami決済

Origami決済を選ぶと、端末に決済コードが表示。これを自分のスマホのOrigamiアプリから、カメラをかざして読み込む。

origamipay

スマホでQRコードを読み込めば決済完了。決済完了のサウンドは、人気ロックバンド「サカナクション」が作曲した。

決済後は瞬時に明細がメールに送られてくるのだが、実際の買い物で明細を確認すると、さり気なく「Origami割引」の額が差し引かれて決済されており、お得感も感じられた。これこそが、商いのインターネット化がもたらす利点。創業時からモバイルコマースでCRM(顧客情報管理)に取り組んで来たの同社の強みである。

「例えば、オンラインの世界ではアマゾンなどで物を買うと翌日にはFacebookのフィードにおススメが出てくるようなマーケティング戦略が行われています。 ID情報さえ取れれば、オフライン、つまり店頭でも同様の戦略を取ることができる。顧客情報の付加価値に対して、Origamiは店側や広告主から販促費を若干いただく。それを、今度はOrigamiから購買するお客様に還元していけたらハッピーではないですか。

例えば、『5%オフ』といった値引き還元によって、現金やクレジットカードで支払うより安く物が買えますから。店側も集客につなげる機会を創出できるというwin-winの状況が作り出せます」

康井に経営者として自身の強みを問うと、「『これをやりたい!』という絵が明確にあることじゃないかな」 という応えが返ってきた。

創業の時、決済や資金移動の仕組みを作るんだと人に話すと、『お前アホか、何十億もかかるぞ』と諭された。実際に事業をカタチにしていく中で、アホだという人の割合は減ってきたんですが(笑)。 テニス競技に没頭していた時に感じたんですが、『ウインブルドンで絶対勝つ』とか大きな絵を描いて、それを思い続けていたやつが一番強いんですよね」

(本文敬称略)

(文・古川雅子、撮影・今村拓馬)

Origami 康井社長への質問


康井義貴(やすい・よしき):Origami 代表取締役社長。1985年、カナダ・トロント生まれ。ニューヨークなどで幼少期を過ごし、10歳から東京。早稲田大学国際教養学部を卒業後、リーマン・ブラザーズ入社。その後、シリコンバレーの大手VC「DCM Ventures」で、日米中のスタートアップ投資を担当。2012年に「Origami」を創業。2016年5月19日にスマートフォン決済サービス、「Origami Pay」をスタート。http://origami.com

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