iPhone X 48時間レビュー:圧倒的な「先取り感」を実感できる3つの新要素

iPhoneX

iPhone X。後ろに持っているのはiPhone 8 Plusで、サイズの違いがはっきり分かる。

「新しいのに、変わらない感覚」

iPhone Xのレビュー機材を手に入れて、2日ほど使い込んでみた筆者の感想は、この一言に尽きる。1カ月半前に同じ高性能プロセッサーとカメラ用センサーを備えた「iPhone 8」シリーズが発売済みであり、どちらを買うべきか迷っている方も多いのではないだろうか。今ならはっきり言える。「1年から2年、時間を買うつもりならXを、そうでないなら8を」

どうしてそう感じたのか、解説していきたい。

正確・素早い顔認証「Face ID」がすごい

iPhoneX上部

本体上部にある切り欠きの部分にTrueDepthカメラが入っている。デザイン的には賛否分かれるが、ここがiPhone Xのキモだ。

iPhone Xの特徴は「ディスプレイが変わり、ホームボタンを放逐したこと」に尽きる。これは「画面上に表示される仮想ボタンに変えた」ということではない。ホームボタンを仮想ボタン化した多くのAndroidのスマートフォンとは違って、iPhone Xは「本当になくした」のだ。本体前面には全くボタンがないし、画面上にもホームボタンの痕跡がない。ディスプレイを従来の液晶から最新のOLED(有機EL)変え、「表面ほとんどが画面になっている」ようなデザインにするにはホームボタンをなくす必要があり、ホームボタンをなくすには、指紋認証に変わる新たな認証手段を導入する必要がある……という論理で全体が組み立てられている。

アップルが挑んだ、iPhoneとして新しい操作体系

Face IDの登録画面

Face IDの登録画面。こんな風に顔を写しながら、周囲を見回すようなジェスチャーで登録。極めて簡単で、人によってはTouch ID登録よりスムーズなほど。

iPhoneは、初代iPhoneが登場した2007年以来、ずっとホームボタンを中心に据えた操作体系を採用して来た。iPhone Xでは指紋認証(Touch ID)がなくなり、さらには基本操作まで変わるとなると、使い勝手が不安になってくる。しかし、実機を使ってみると、その心配は吹き飛んだ。iPhone Xの新操作体系は、違和感の非常に少ない、合理的で使いやすいものになっていた。

まずは認証から説明しよう。アップルは2013年発売の「iPhone 5s」以降、指紋認証システムである「Touch ID」を採用してきた。ホームボタンをそのまま指紋認証にしたため、「ホームボタンを押す」という頻繁に行う操作がそのまま認証になり、非常に使い勝手が良かった。もちろん、認証速度や精度が優れていた、ということもあるが、自然なプロセスの中に組み込まれた、というアイデアの勝利の部分もあった。

では、iPhone Xで導入されたFace IDは?

これが、Touch ID以上に自然なプロセスになっている。ほんとうに「画面を見る」だけでロックや認証が働くのだ。iPhone Xでは、顔を立体的に把握する「TrueDepthカメラ」を搭載した。

TrueDepthカメラ

iPhone Xのインカメラとして搭載されたTrue Depthカメラ。この小さな場所に、これだけのセンサーやテクノロジーが詰まっている。

これを使って顔認証をするのだが、本当に認識が速い。掛け値無しに「視線をディスプレイに向けた」くらいの時間で認証が終わる。ロックを解除するには画面を下から上へスワイプする(これが今後、ホームボタンの役割の代わりになる)のだが、画面が切り替わる間に認証は終わっているで、ユーザーの意識としては「認証を気にしない」というほどの感覚になる。

決済も同様だ。Apple Payでクレジットカード払いをする時、従来は「ホームボタンを2回クリックし、そのままボタンに指をおいたまま指紋認証し、iPhoneをかざす」感じだった。

これが、「電源ボタンを2回クリックし、カードを選んでiPhoneをかざす」(※)に変わる。認証は、「画面を見てカードを選んでいる」間に終わるので、利用者がほとんど意識することはない。

※iPhone Xでは電源ボタンを2回、ダブルクリックすることでApple Payを直接呼び出せるようになっている

しかも、試用している2日の間に、認証できなかったことはたった1回、「マスクで顔を半分覆っていた時」しかない。あとはすべて一発だ。これはなかなかにすごいことだ。

iphone04

テクノロジーに詳しい人が感じているように、顔認識は、実は新しい技術ではない。競合他社のハイエンドスマートフォンには、既にかなりの機種で使われている。

けれども、顔認証は「認識速度と精度」がトレードオフになりがちだ。素早く認識できないと使い勝手が悪い、一方で認識速度を上げると精度が出ない。また、メガネや帽子など、日常的な「顔の変化」にも弱い。筆者は帽子派なのだが、従来のAndroid端末では、かぶる帽子や光の具合によって認証されたりされなかったりして、ちょっと不便に思っていた。

Face IDではそうした問題は皆無だった。帽子をかぶろうがかぶるまいが問題なし。メガネを変えても大丈夫。それどころか、顔登録の作業時にすら、メガネを外す必要がない。マスクをつけていた時も、あごまでマスクをずらして再度トライしたら、今度は大丈夫だった。「マスクを外す必要はなかった」のだ。

これは、言い換えれば、Face IDは「人間が顔を見て同一人物だと認識する」のと同じくらいの柔軟さを持っている、ということだろう。もちろん、厳密さも守られている。色々試してもらったが、他人はもちろん認識できなかったし、自分の顔写真でも突破できなかった。完璧と断言するほどの材料はないが、「日常的な利用において、速度と精度の面で極めて高いレベルを実現している」こと、「指紋認証の代わりになり得るくらいの利便性は備えている」ことは、確認できたといって良い。

指紋認証を過去のものにしてしまった、Face IDの美点

また、Face IDがTouch IDよりも優れている点は、「通知」の扱いだ。メールやメッセージが届くとロック画面に表示されるが、これまでは件名や概要がロック中にも見えていた。利便性を重視してのことだが、ロックしていても見えるということは、他人にも見えるということだ。

それがiPhone Xでは、Face IDの認証が行われていない段階では「件数」だけが表示され、認証がされた後だと「概要」まで見える。すでに書いたように、Face IDは「画面を見る」行為だけで認証が終わる。だから、「通知を見る」という利用者の感覚は変わらず、他人には通知が読めなくなる……という仕組みになっている。これは便利だ。

画面ロック時の通知画面

未認証の状態では、メッセージが届いていることは分かるが中身は見えない。


iPhone Xのロック画面

顔認識してロックが解除されると、メッセージの中身まで見えるように。つまり、持ち主が見ている時だけ、メッセージ内容がプレビューされる。これはFacebookメッセージやGmailなどでも既に有効。

アップルのこだわりが見える「スマホ最強」の有機EL

何よりも驚いたのは、iPhone Xで採用されたディスプレイの表示品質がすばらしく良いことだ。

今回、iPhoneとしては初めて有機EL方式を採用。コントラストと発色が大きく改善した。だが、有機ELなら必ず同じ色味になるか、というと、実はそうではない。

まず写真で比べてみよう。青空の部分はどちらもきれいだが、Galaxy Note 8は緑に青が乗りがち。ビルの外壁も青く見える。iPhone 8 PlusとiPhone Xは傾向が似ているが、芝生の表現も含めた色のトーンの深さではiPhone Xが勝っている。

また特にスマートフォン向けの有機ELは、かなり寒色系に振れた絵作りのものが多い。後ほど紹介するウェブ表示画面を見比べると、「白」の色味がかなり異なることに気付くはずだ。

8とX とGALAXYの比較

左から、iPhone 8 Plus・iPhone X・Galaxy Note 8。空はどれも美しい。中央部のビルと芝生の色に注目すると、けっこう表示が異なるのが分かる。

8とX とGALAXYの比較

SNSで美味しそうなグルメ写真が回ってくる通称「飯テロ」の威力は? これもiPhone Xに軍配があがる。カニの赤みやディテールがしっかりでているのはもちろんだが、器の白も自然だ。中央のiPhone Xが、やはり一番美味しそうに見える。

おそらくはアップルの絵作りなのだが、iPhone 8系とiPhone Xは、ディスプレイパネルが異なるものの、発色がどこか似ている。

有機ELディスプレイは高いポテンシャルを秘めたデバイスだが、「液晶とはまた違ったところにクセがある」とメーカーの技術者は口々に言う。特にモバイル向けでは、消費電力や生産コストの問題もあり、テレビのような発色は難しい。

iPhone Xのディスプレイパネル製造はサムスンディスプレイが担当したと言われており、その関係から、ライバル同士であるGalaxyとは比較されることが多い。しかしこうやって並べてみると、両社で絵作りのポリシーがかなり異なっているのがわかる。興味深い。

アップルはiPhone Xで、かなり妥協せずディスプレイ開発をやったのだろう。iPhone XのディスプレイはHDRにも対応している。ネットフリックスやiTunes Storeで配信されているHDR画質のドラマ・映画を楽しむことができる。この画質もかなり良好で、非常に「HDRらしい」厚みのある絵が出てくる。

ホームボタンのリストラで操作を一新

操作感はどうだろう? 新操作体系の導入は混乱を生みやすいものだ。iPhone Xでは、ボタンを押すのではなく指を上下にスワイプする操作で代替する。もうその時点で「何か面倒くさそう」と感じられるのではないだろうか。だがこれも、全く問題がなかった。

iPhone Xの操作ルールはシンプルだ。従来の「ホームボタンを押す」という動作は、基本的に「画面の最下部から上へとスワイプする」動作に変わる。ロックを解除する時やホーム画面を呼び出す時にボタンを押していたが、これが「下からスワイプ」に変わるだけだ。

iPhone Xのホーム画面

iPhone Xのホーム画面。本当に、スクリーン上にもホームボタンはないので、「下からスワイプ」に変わった、と覚えてほしい。


ホーム画面

アプリ切り換え時のみ、ちょっと操作に慣れが必要。下からスワイプした指を画面の中程で止めると、このタスク切り替え画面に。

また、コントロールセンターや通知画面の呼び出しにも変化がある。従来は「下からスワイプ」は、設定変更用の「コントロールセンター」を呼び出す操作だったが、iPhone Xでは「画面右上端から下へとスワイプ」に変わった。

一方、逆に画面左端からスワイプだと「通知画面」が出る。この変更も、分かってしまえばむしろシンプルだ。「左右の上端という目標物があるところからのスワイプに機能が対応している」と思えば覚えやすい。

iPhone Xでの操作に慣れると、iPhone 8での操作がどうにもイライラする。コントロールセンターを下からスワイプして呼び出す、というのは、あまり人の生理に合っていなかったのでは? という気がする。ちなみに、Androidも設定関係の呼び出しは「上から下」。iPhone Xでは、奇しくも(?)「統一」されたことになる。

設定画面

なくなったものもある。例えば、iPhone 8まではあった「バッテリー残量のパーセンテージ表示」がまさかのリストラ。何%残っているかは数値ではわからなくなった。

iPhone Xが画面比率変更で狙ったのは、「情報量増加」ではない

iPhone Xは「画面を広くして情報量を増やした」と言われることが多い。しかし筆者が見るところ、「それはあんまり意図してないのでは?」と思わざるを得ない。なぜなら、ウェブなどの表示量を見る限り、さほど劇的な変化があるようには思えないからだ。

8とX とGALAXYの比較

左から、iPhone 8 Plus・iPhone X・Galaxy Note 8でのウェブ表示。iPhone Xで劇的に変わったか、というとそうでもない。

むしろ感じるのは「余裕」だ。画面の中には、「情報としては大した意味が無いが、操作上絶対に必要なボタン」などがある。それらは結果的に、小さく狭い領域に押し込められやすく、操作性に悪影響がある。

次の写真は、iPhone XとiPhone 8 Plusでのキーボード表示の例だ。同じようなサイズなので一瞬気付かないが、iPhone X(右)では画面下部に「一列」増えて、言語切り換えや音声入力のボタンが移動している。これはいわば、これまでホームボタンとして使われてきたデッドスペースを、情報だけでなく「操作系を配置する場所」としても使えるようになったことを示している。

iPhone8とX

左がiPhone 8 Plusの、右がiPhone Xのキーボード。一見同じようにみえるが、一番下の列の使い方が変わっていることに注目。ホームボタンがあった場所がみな操作系になっているのだ。

iPhone Xに最適化されたアプリの場合、もちろん情報量が増えることもあるが、それに加え、せせこましくなりがちなボタンなどに割り振る余裕が生まれる。実はこれが、iPhone Xの本当の狙いではないか、と筆者は考える。

アプリ画面

iPhone Xに最適化されたアプリの例。「Yahoo!天気」のように、シンプルに表示量を増やす場合は、対応は非常に簡単だという。

最適化されてないアプリ画面

iPhone X最適化が終わっていないアプリの例として、「Fate/Grand Order」を。このように左右に黒帯がつく。

「時間を買う」「質を買う」ならiPhone Xをオススメ

さて、結論だ。

iPhone Xに搭載された新しい技術は、どれも価値の高いものだ。利便性の面ではFace IDのポテンシャルは高いし、ディスプレイは「アップル全製品中最高」なだけでなく、「いま市場にある全てのスマホの中で最高」といってもいいだろう。

だが一方で、iPhone Xは高い。同じ性能のiPhone 8に比べ、3万4000円も高いのだ。「iPhoneとしての使い方には一切変化がない」というのは、美点でもあり、弱点でもある。野心的な機能によって差別化を図ろうとする他社製品と比較した場合、物足りない、と感じる人がいても不思議ではない。

今回比較に挙げたGalaxy Note 8は、ペン入力など、多彩な付加価値で攻めている。それでいて、iPhone Xよりも安く、iPhone 8と同じ価格帯だ。iPhone Xに搭載された先進的なパーツ群は、早ければ来年、遅くとも再来年には「普通」になる。「スタンダードラインのiPhone」に、スタンダードな価格で搭載される日が必ずやってくる。

非常に魅力的な機能を備えたiPhone Xではあるが、それはあくまで「より良いiPhone」であり、「1年後もしくは2年後にもう少し安く買えるiPhone」の先取りである。タイムマシン感覚でその時間を買うつもりなら、iPhone Xは間違いなくお勧めできる。アップルが今選んだのは「iPhoneという軸」をぶらさず・変えずに、「良いiPhoneをこだわって作る」ことだった、ということが、iPhone Xからは見えてくる。

編集部より:一部機能の表記を改めました。2017年11月4日 9:50)

(文、写真・西田宗千佳)

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