神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件では、白石隆浩容疑者は「首吊り士」というTwitterアカウントを使い、自殺を考える女性に接触していたという。「#自殺」を使うこともあったとされる。
SNS上に放置される自殺願望。それどころか自殺が助長され、今回のような事件に巻き込まれる可能性もある。
SNSのつながりを生かした自殺を防ぐ仕組みはつくれないか。Facebookは2016年6月から「いのちの電話」などと連携し、「自殺防止ツール」を提供している。SNSは有効に使えば、ユーザーの自殺願望を察知し、命を救う役割も果たせる。
Facebookは2016年6月から「自殺防止ツール」を提供している。死にたいと願う投稿が世界中に発信されるSNSは、有効に使えば、自殺防止の手段になる。
出典:Facebook
自殺をほのめかす投稿を見つけたら?
Facebookが「日本いのちの電話連盟」と「国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター」と協力して提供している「自殺防止ツール」には主に以下の4つのサービスがある。
ユーザーが友人の投稿を報告
1)自殺をほのめかす友達の投稿を見つけた場合、Facebookに報告できる。 投稿の右上のボタンから「投稿を報告」をクリック。「Facebookに載せるべきではないと思う」→「他のオプション」の順に進むと、「自傷行為の投稿または自傷行為をほのめかすものである」の選択画面に出る。モバイルの場合は、手続きがより簡略化されている。
2)投稿者本人にサポートするメッセージを送信したり、友人に相談したり、専門的なアドバイスを受けたりすることもできる。
報告をすると、「投稿者本人にサポートするメッセージを送信する」「友人に相談する」「自殺防止の専門家のアドバイスをチェックする」という対応策が表示される。緊急の場合は警察への連絡を勧めている。
当事者は相談ダイヤルにつなげる
3)投稿者がログインした場合、「心配している人がいる」と知らせ、リラックスの方法や信頼できる友人とのメッセージがやりとりできる。
「話を聞いてもらいたい」と友達へのメッセージのテンプレートを提供する。 情報画面で、外出したり、気持ちを落ち着かせたりする行動を紹介する。 4)投稿者は相談先へFacebookから直接電話ができる。 いのちの電話と自殺防止センターの相談員に電話をする画面が表示される。
友人の投稿を報告する利用者は、専門的なアドバイスの情報も得られる。
出典:Facebook
東京自殺防止センターの伊川徹事務局長(62)は「徐々に10〜20代の相談が増えて来た。若い人は電話に対して抵抗がある。SNSでSOSをつぶやいていても、電話をかけてこないことが課題」と話し、相談ダイヤルに誘導したり、電話以外の解決策を知らせたりするツールの機能を評価している。
自殺助長のアカウントは停止
ユーザーの報告だけでなく、自殺を助長する投稿を止める機能もある。フェイスブックは、「人に危害を及ぼす、もしくは公共の安全を脅かす投稿をシェアすべきでない」として、投稿を削除したり、アカウントを停止したりする規定を設けている。
Facebookのコミュニティ規定の一部。自殺や自傷行為を促すコンテンツは禁止されている。
出典:Facebook
規定には「自殺や自傷行為について宣伝や奨励を行うコンテンツ」を含み、今回の事件のような自殺を助長する投稿を禁止している。 2016年に自殺防止ツールを提供した後も、利用者が自ら自殺する動画をFacebookで配信する事例が、世界で起きた。
自殺願望を投稿しても、友人に無視されれば、余計に心細くなってしまう。今回の事件は、そのような投稿者に被害が及んだのかもしれない。
SNSを運用する立場は、コミュニティー規定のようなものを定め、せめて、自殺を助長することを止める役割があるだろう。
Twitter自殺、自傷行為投稿にルール規定
Twitterは、運用上の規約「Twitterルール」(https://support.twitter.com/articles/253501?lang=ja)で、投稿の削除やアカウントの永久凍結の対象となる行動を定めている。座間市の事件を受けて、ルールに「自殺や自傷行為」という項目を追加した。「 自殺や自傷行為の助長や扇動を禁じます」と明記している。
Twitterは、自殺、自傷行為に関わるつぶやきについて、ルールを定めている。ルールを守らないユーザーには、投稿を削除したり、アカウントを凍結したりする。
出典:Twitter
また、「ある利用者に自殺や自傷行為の兆候があるという報告を受けた場合、Twitterはその人物を支援するために、さまざまな対応を行うことがあります。たとえば、その人物に連絡してTwitterのメンタルヘルスパートナーの連絡先などの情報を伝えたりします」と定めている。
しかし、実際はTwitter上で「死にたい」と検索をすると、「#死にたい」というつぶやきが次々と表示される。座間市の事件発覚後も、自殺願望を投稿するつぶやきは絶えない。
今回の事件は、誰とでもつながれる短文投稿サイトの弱点が利用された。
インスタグラムの自殺防止ツール。自殺をほのめかす投稿を見つけた場合、匿名で報告ができる。
出典:インスタグラム
主要なSNSでは、LINEも2017年8月、長野県と自殺対策の連携協定を結び、アカウント「ひとりで悩まないで@長野」を開設した。
長野県内の中高校生に、アカウントの登録カードを配布し、相談窓口の案内、いじめや自殺相談を実施する。
Instagramは、自殺や自傷行為の可能性がある利用者をサポートしている。
Facebook同様に、自殺などをほのめかす投稿を利用者が見つけた場合は、画面上から報告ができる。Instagramは報告を受けた後、投稿をした当事者に、「友達と話そう」「ヘルプラインに相談」「アドバイス情報やサポートを得る」という3つを提供する画面を表示する。
積極的に社会問題を解決していく
このようにSNSは社会問題と密接に関わるようになってきた。フェイスブックはこれらの社会問題に積極的に関わり、SNSがその解決の一助になればと活動している。社内には「公共政策部」を設置、その業務は幅広い。
国会議員がITを「イット」と読み誤った時代から、SNSと公共政策に関わり始めた山口琢也さん。
よく知られるのは、「災害支援ハブ」。安否確認や物資のボランティアの支援状況を表示する機能だ。このほか、いじめ防止の情報提供やフェイクニュース、リベンジポルノ、ヘイトスピーチを報告する機能、亡くなった利用者の「追悼アカウント」を残す機能も展開している。
安心して利用できるプラットフォームを築き、最近では約1年前から、公共政策部の活動の一環として、起業家養成のプログラム「#起業女子」もスタートさせた。
公共政策部をまとめるのは、内閣官房情報通信技術担当室でIT戦略に関わった山口琢也部長(48)。グーグル、日本マイクロソフトなどで政策渉外担当も歴任してきた。
山口氏は「 公共政策は国会議員や中央官庁の政策立案担当者だけでなく、民間の声を代表する人や、国内外の産業界の声もしっかりと取り込んでいくことで、より効果的で実質的な政策が作れる。この政策のエコシステムをより機能させていくことが重要」 と話している。
私たちの生活にすっかり浸透したSNSは、もはや社会インフラになりつつある。SNSを悪意を増幅させるコミュニティーを形成するツールにするか、社会貢献のツールにするか。大きな舵取りが企業に試されている。
(文:木許はるみ)