トランプ氏電撃訪問を断念、北朝鮮との最前線「非武装地帯DMZ」を歩く

韓国と北朝鮮の国境地帯にある非武装地帯(DMZ、Demilitarized Zone)。両国が対峙する最前線である一方で、韓国側では国内外から多くの人が訪れる観光地でもある。

トランプ大統領は訪韓中の11月8日朝、ヘリコプターでDMZを電撃訪問しようとしたが、悪天候のため断念。

トランプ大統領のアジア歴訪直前の2017年10月28日、筆者は観光客としてDMZのツアーに参加した。

DMZ

第三トンネルの施設内にあるDMZの文字のオブジェ。観光客たちが、次々にこの前で記念撮影をしていた。

前日の夕方、DMZのツアーを提供しているソウル市内の旅行会社に電話すると、応答した女性は「午前7時10分にホテルのロビーに迎えに行く」と言う。日本語のガイドが案内してくれるツアーもあるが、この時点で予約が埋まっていた。英語のガイドがつくツアーに参加することにした。想像より、予約の手続はあっさりしたものだった。ただ、女性は「パスポートは絶対に忘れないで」と繰り返した。

翌朝、ホテルのロビーではガイドの女性が待っていた。パスポートの携帯を確認された後、マイクロバスへ。ツアー料金5000円余りを車内で払った。カードでも支払えるそうだ。周辺のホテルを回って、他の参加者を拾い、ソウル市内を出発したのは午前8時ごろだった。

参加者は、英語を話すガイドの韓国人女性、マイクロバスのドライバーを含め、計15人。筆者と韓国人男性のほかはみな、欧州からの観光客だった。

ソウルからDMZ周辺の地域までは、約1時間ほど。DMZに近づくにつれ、兵士が監視する施設の数が増えていく。

最初の目的地は、DMZ近くにある観光施設「臨津閣公園」だ。

臨津閣

まず驚くのは、観光客の多さだ。韓国人だけでなく、特に欧米からの観光客とみられる人たちが数多い。園内で配布されているパンフレットによると、1950年6月〜1953年7月の朝鮮戦争の歴史を伝える目的で、1970年代に建設された。年間600万人が訪れるという。

DMZは、朝鮮戦争の休戦ラインにあたる軍事境界線付近の一帯だ。1953年7月の休戦協定で発効し、境界線に沿って韓国側と北朝鮮側のそれぞれ2キロずつを非武装地帯としている。

臨津閣内を歩く兵士たち

観光地ではあるが、周辺には多くの軍事施設が配置されている。ときおり、迷彩服を着た兵士たちが観光客たちの間を通り過ぎていく。観光客にとっては、ここが最前線であることを思い出す瞬間だ。

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公園内には、1945年〜1953年にアメリカ大統領を務めたハリー・S・トルーマンの像が建てられている。像の背後には、アメリカ軍参戦記念碑が見える。

望拝壇

公園内にある「望拝壇」。北朝鮮の地がよく見える臨津閣に、故郷を失った人たちのために建てられた常設の祭壇だという。

フェンスに結ばれたリボン

侵入者を防ぐ有刺鉄線の下には、フェンスに沿って、色鮮やかなリボンが結ばれている。ガイドの女性によれば、「離散家族の再開や、平和を願うためリボンを結ぶ」という。

蒸気機関車

朝鮮戦争のさなかに爆破された蒸気機関車が展示されている。

日系アメリカ人の石碑

トルーマン像の近くには、朝鮮戦争で亡くなった日系アメリカ人247人の氏名が刻まれた石碑が建てられている。

臨津閣の遊園地

臨津閣内には、遊園地もある。早朝だったためか、遊具は動いていなかった。

韓国政府はなぜ、最前線の非武装地帯を観光地にしたのだろうか。

コリア・レポート編集長のジャーナリスト辺真一さんは、「半島が分断されていることが目の当たりにできる地域で、韓国政府としては国民の安全保障意識を高める狙いがあるのだろう。北の脅威をアピールする意図もあるのではないか」と話す。

辺さんによれば、北朝鮮側では、国民が日常的に観光でDMZ周辺を訪れることはないが、欧米などから外国人が平壌を訪問した際には、DMZを視察させることもあるという。

臨津閣の見学が終わると、大型のバスに乗り換えた。他のツアーなどで臨津閣にやって来た人たちも乗り込んでいて、ほぼ満席だ。DMZ近くまで案内する旅行会社と、DMZの内部を案内する会社とで、役割分担がなされているようだ。

DMZ周辺には、多くの軍事拠点が点在している。このためか、大型バス内では写真撮影は禁じられた。DMZに入る検問所では、若い兵士が乗り込んできて、乗客のパスポートを確認した。

都羅山駅

次に訪れたのは、韓国で最も北に位置する都羅山駅だ。2002年には、アメリカのブッシュ大統領と、韓国の金大中大統領が駅を訪問している。ガイドの女性によると、駅の建設には、多くの民間人が寄付をしたそうだ。

2012年には、オバマ大統領もDMZを訪問している。

辺さんは「アメリカの大統領が最前線を訪問することで、朝鮮半島情勢に対するアメリカのコミットメントを内外に示す狙いがある」と指摘する。

筆者が訪れた前日の10月27日には、アメリカのマティス国防相がDMZを訪問。トランプ大統領のDMZ訪問も取り沙汰されたが、11月2日になって、ホワイトハウスがトランプ大統領はDMZを訪問しないとの方針を明らかにした。安全上の懸念が指摘されたからだと報じられている。11月7日から8日の訪韓でトランプ大統領は、ソウル近郊の在韓米軍基地を訪問した。

辺さんは「北への軍事行動をちらつかせるトランプ大統領がDMZを訪問するのは、これまでの大統領訪問とは明らかにレベルが違う。必要以上に北朝鮮を刺激するおそれがある」とみる。

都羅山駅の内部

都羅山駅の内部は静かだった。観光客向けの売店や、ブッシュ大統領と金大中大統領の訪問を記念する展示コーナーなどがある。平壌方面行きのホームがあるが、情勢の緊迫化で平壌方面に向かう列車は現在は運行されていない。

DMZ内の展望台

3カ所目の訪問先は、都羅山駅近くの都羅展望台だ。迷彩の塗装が施された施設の屋根には日本語で「分断の終わり、統一の始まり」と書かれている。

展望台から北朝鮮を望む

展望台からは北朝鮮が見える。有料の双眼鏡をのぞくと、北朝鮮側の開城(ケソン)工業団地、警戒所、金日成の銅像などが見える。展望台では、若い兵士が、海外からの観光客たちの記念撮影に応じていた。

第3トンネル

次に訪れたのは、第3トンネルだ。1970年代、韓国側のDMZ周辺でトンネルが相次いで発見された。北朝鮮が韓国への進入路を確保するために掘り進んだという。施設内では携帯電話、カメラを含む所持品を全てロッカーに預けたうえで、トンネル内に入ることができる。

内部は幅約2メートル、高さ約2メートル。トンネルは鉄パイプなどで補強されているため、ヘルメットをかぶって、かがまないと進めない。平均で地下約73メートルの深さを北朝鮮軍が掘り進み、全長約1.6キロ。そのうちの一部を観光客向けに公開している。1時間に3万人の兵士が通過できるとされる。

土産物店

最後は、売店に案内された。DMZのTシャツなどの土産物に加えて、干した野菜など地元の産品なども売られている。北朝鮮情勢が緊迫している中、“最前線”の一見平穏な様子はあまりにも落差が大きい。

だが、ガイドの女性が言った。

「韓国と北朝鮮が本格的に衝突したら、ミサイルはこの上を越えてソウルに飛んで行くんです」

土曜日の渋滞で、帰路は往路よりかなり時間がかかった。ソウル市役所の近くでバスを降り、時計をみると午後2時半すぎだった。

(文と写真・小島寛明)

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