「家事育児は全て母親がやらなきゃ」呪縛から私はなぜ脱却できたか

出産経験のない働く女性の93%が仕事と子育ての両立に、産む前から不安を抱えている—— 。共働き家庭へのインターンシップ事業を展開するスリールがまとめた「両立不安白書」はこう指摘する。

母親と赤ちゃん

夫には頼れない中、育休から復帰後のママたちは家事も育児も仕事も、と追い詰められていく(写真はイメージ)。

撮影・今村拓馬

9割以上とは深刻な数字だが、不安の原因の1つとして指摘されているのが、「家事も育児も自分の仕事だと思っている」女性が多い(83%)こと。不安解消法として同白書は「仕事・家事・育児はみんなでやる」「たくさんの人に見守られる環境を」などを挙げている。もちろん、長時間労働など仕事そのもののあり方が変わる必要もある。

しかし、どうして母親たちは、家事も育児も自ら抱え込んでしまうのだろうか。

私が開いている「カエルチカラ・言語化塾」の参加者、幸内アキさん(38)の作文から、育児中の共働き夫婦が家事育児を「みんなでやる」ようになれるまでの試行錯誤を見てみたい。


私はファミリーサポートの提供会員であるIさんに週に2回夕飯を作ってもらっている。

自宅の鍵を預けてあるため(※)、Iさんは誰もいない我が家に来て、用意してある材料を使って料理を作る。その間に小1の息子が学童から帰宅し、保育園帰りの2歳の娘を連れた私が帰宅する。Iさんが料理の仕上げをしている間に、私は息子の宿題を見たり娘に絵本を読んでやったりする(※自治体によって留守宅への訪問が可能な場合と不可の場合がある)。

帰宅後、すぐに夕飯を食べられるので気持ちに余裕が持てるのが嬉しい。子どもたちに「後でね」「ちょっと待って」という回数も減るし、スキンシップを楽しむ時間も持てるようになった。自分が夕飯を作る時も料理を楽しむ気持ちを保てるようになった。

「私も利用したい!」でも実際には……

料金は1回1時間850円、1カ月に7000円程度かかる計算だ。安くはないが7000円でこの精神的余裕と時間的余裕が持てるのなら、コストパフォーマンスは決して悪くないと感じている。

このことを周囲の働く母親達に話すと、ほぼ全員が「私も利用したい!」と言うのだが、実際に利用しようとしたという人はほとんどいない。理由を聞くと「頑張れば自分でできるから」「食事は母親が作るべきだと思うから」「高収入でもないのにぜいたくだから」「家の中が散らかっていて人を入れるのが恥ずかしいから」「夫が反対しているから」などが多いようだ。

このうち、「頑張れば自分でできるから」「食事は母親が作るべきだと思うから」については、私も以前は同じように考えていた。また我が家も夫は当初反対していた。これを私はどう乗り越えたのか。

幸福度が下がるなら何のための頑張り?

私が第1子である息子を出産したのは2010年。1年後に育児休業から復帰した。復帰後の生活は忙しかった。特に保育園のお迎え後、息子の相手をしながら夕飯の支度をするのが大変だった。両脚にまとわりついて大泣きする息子をなだめながら焦って作った夕飯を、涙の跡が残る息子に「さっきはごめんね」と言いながら食べても、おいしいと思えなかった。もともとは料理好きなのに料理が嫌いになりかけた。

夕飯を作る時間帯に夫が帰宅していれば、料理や息子の相手を任せることもできただろうが、夫の帰宅は遅く、それを待って夕飯を作るのは現実的ではなかった。誰かに助けてほしかったけれど、核家族の我が家では夫以外に頼れる人はいない。保育園に預けている分、家にいる間は息子に向き合っていたいのに、家事に追われて息子の相手もろくにできない。そんな毎日を繰り返して、一体いつまで続ければ良いのかと考えるだけで息が詰まりそうだった。

レトルト製品や半調理品、冷凍食品等の夕飯が平日5日続いても良しとするか、どんなに大変でも全部自分でやると覚悟できれば良かったのかもしれない。だが、私にはどちらもできなかった。より正確に言うと、ものすごく頑張れば全部自分でもできたが、その分余裕をなくした私はイライラして息子を怒鳴りつけていた。贅沢な悩みかもしれない。でも当時の私には本当に切実な問題だったのだ。

ある時我が家の冷蔵庫が壊れるというアクシデントがあり、それがきっかけで近所の定食屋に通うようになり、徐々に私の気持ちが少しずつ変化していった。

「自分が手作りしたおいしい夕飯が食べたい」から、いつしか「誰が作っても良いから手作りのおいしい夕飯が食べたい」に変わった。「私が頑張らない方が私と子どもの幸福度が増す」と考え、頑張るのをやめた。頑張って幸福度が増すのならともかく、頑張って幸福度が下がるのなら何のための頑張りなのか。

夫の反対をどう乗り越えるか

赤ちゃん

頑張って幸福度が減るなら、何のための頑張りなんだろう(写真はイメージ)。

撮影・今村拓馬

家事支援の利用を考えた時、我が家の場合、ハードルは夫だった。夫に提案したところ、「他人を家に入れるのは嫌だな」という反応。何が嫌なのかを詳しく聞いてみると、「見知らぬ他人に居間や寝室等のプライベートな空間を見られる」ことを嫌がっていることがわかった。そこで私はサービスの提供者の身元が確かであることや、寝室に入ることはまずないことを説明した。

それでも夫はまだ渋っていた。

嫌だという気持ちは理解できるが、そもそも夫の不在時の事であり、「他人が家の中に入る」場面を実際に見る機会はないのに何が嫌なのか。「何となく嫌」ということなら、私の負担が減って幸せになる可能性よりも根拠のない「何となく嫌」を優先するのか。もしそうであれば私はとても悲しい—— といったことを淡々と述べたところ、夫から同意が得られたのだ。今から考えるとYouメッセージではなく、Iメッセージで自分の気持ちを伝えたことが良かったのかもしれないと思う。

「みんなでやる」育児へ

家事支援サービス利用当初は、家の中に他人がいることに緊張して落ち着かない、という問題もあった。正直に言うと、初めて利用した日は気疲れでぐったりして、「これじゃ自分でやった方が楽だ」とさえ思ったが、慣れてしまえば全く気にならなくなった。

「家の中が散らかっていて恥ずかしい」と片付けたこともあったが、「時間的余裕が欲しくて助けてもらっているのにそのための片付けに追われるなんて本末転倒だ」とある程度は目をつぶることにした。いろいろな試行錯誤を重ねて我が家に合ったスタイルを模索し、これからも模索し続けるだろう。試して合わなければ別の方法を考えれば良いと考えている。

つい先日、私が「働く母親」になってから丸6年が経った。定食屋にはもう5年以上通い続けているし、家事支援サービスの利用は4年以上になる。子どもたちはどちらにもすっかり懐いているし、私にとっては単に家事代行という立場を超え、子ども達の成長を一緒に見守り喜び、時に励ましてくれるとても心強い存在だ。

核家族・共働きで子育てをするのは大変だけれど、6年前と比べてしんどいと感じることは激減し、幸せを感じる機会が増えている。地域における周囲の人々のおかげで今まで何とかやってくることができたし、この先もきっとやっていける、そう感じている。

(撮影・今村拓馬)


カエルチカラ・プロジェクト+中野円佳(なかの・まどか):目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすプロジェクト。女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで改善の一途につなげる。https://www.facebook.com/kaeruchikara/

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