2時間で1万本の口紅を売る中国ライブコマース最前線—— 「コト消費」をインバウンドでも活用

2016年、中国は「ライブ元年」だった。それが発展して今は「ライブコマース」というビジネスモデルが生まれている。中国14億人が“爆買い”する11月11日の「独身の日」、ライブコマースはどれほどの威力の発揮するのだろうか。

2016年に勃興したライブ、つまりネットで生中継を行うアプリの数は300本以上。それまで多くのユーザーを集めていた中国版You Tube「優酷Youku」や「土豆」にアップされていたのは編集した動画だった。だが、ライブアプリはスマホを使ってその場で生中継。リアルタイムで「いいね!」やコメントが入り、その場で質問に回答したり、視聴者からの要望に合わせてアクションをしたりするのがウケている。

ライブの様子

ライブ画面例。右下には「いいね!」、左下にはコメントが流れる。

ライブアプリのユーザー数は、3億2500万人にも上ると言われ、中国のネットユーザー数の半分にも迫る勢いだ。中でも3大アプリと言われるのが「一直播」「映客」「花椒」。一直播は日本のアメブロのように早くから芸能人アカウントを開設し、多くのユーザーをひきつけた。「映客」はゲームの実況中継が、「花椒」は紅包(お年玉)・カラオケ・美顔といった機能が人気を博している。

これらのライブアプリを企業のマーケティングに活用する流れが「ライブコマース」というビジネスモデルである。

例えば、ファッションショーの生中継で、モデルが着用している服を買いたいと思ったら、画面内に表示されているショッピングカートのボタンをタップするだけで直接購入できるのだ。

LIVEコマースのキャプチャー掲載。下部に商品ボタンが表示されている。

中国のEコマース(以下、EC)市場で年間最大のイベント、「独身の日」。もともとは、8年前にアリババ傘下のECサイトが11月11日の1日だけ、多くの人気ブランドも半額近く割引するとして仕掛けたものだ。

昨年はこの「独身の日」でもライブコマースが実施され、アリババは約8時間に渡って生中継を実施。デビッド・ベッカムや、コービー・ブライアントといった世界的な著名人をゲストとして招待。アリババ創業者のジャック・マーも登場し、「今見る!今買う!」というテーマで番組を盛り上げ、番組の後半には5000万元(約8億5000万円)の紅包(お年玉)クーポンをばらまくなどして、視聴者たちを熱狂させた。ライブ効果もあり、この1日でアリババのECサイトでの売り上げは約1兆9000億円に達した。

前出の「一直播」でもライブを、アリババ傘下の「タオバオ」などECに直結させる動きが活発化している。

芸能人やKOL(Key Opinion Leaderの略称、WeiboやWeChat等の中国SNS上で多数のファンを抱える)も、こぞってこのライブコマースに参加。 化粧品のメイベリン ニューヨークは、Weiboで8400万フォロワーを擁する芸能人のアンジェラベイビーを起用し、2時間で1万本の口紅を販売。あるKOLは、アパレルブランドを自分で着たり、細部を紹介したり、こだわりの部分も詳しく語ることによって盛り上げ、2時間で視聴者41万人、売り上げは3億円に達した。

ポイントは、ライブ中に商品を推し過ぎて、広告色を強くし過ぎないこと。宣伝と分かるや、視聴者はすぐに冷めて離脱してしまう。自分たちが信頼しているKOLが実際にその商品を使用して体感した良さを自分の言葉で直接伝えてくれることで、やっと視聴者の琴線に触れられるのだ。 ECはこれまで主に文章と画像で商品の魅力を伝えていたが、ライブによって、伝わる情報量は格段に増えただけでなく、熱量も伝わるようになった。

Tmallやテンセントが出資するJD.com(京東商城)がしのぎを削る中国EC市場は、その規模約80兆円ともされ、アメリカや日本をはるかに超える。そのぶん競争も激しい。

だが、まだまだ開拓できる市場が「越境EC」だ。越境ECは、日本の会社がネット上に開設した店舗で、中国人ユーザーが自国にいながらにして、ネット上で直接購入でき、自宅まで商品が配達される仕組みだ。「Made in Japan」への憧れは依然として強く、その市場規模も年々拡大。

現在すでに1兆円の市場規模は、2019年には2兆円にも急拡大すると予測される

今後は「ライブコマース×越境EC」の合わせ技スキームが注目されているが、すでに効果が表れているのが「ライブコマース×インバウンド」。

昨年、中国大陸からの日本への旅行者は約637万人。「爆買いは終わった」と言われる中国人観光客たちの間では今、高くても本当に欲しいものを買う「プチ買い」という言葉が出てきている。そして、日本人でも「モノ消費」から「コト消費」、つまり体験に焦点が移ると言われているが、それは中国人観光客でも同じだ。

これまでも観光地の情報を動画で撮影し、Youkuなど中国の動画サイトにアップしたり、Weiboで拡散したりするという事例はよく見られたが、ここにもライブアプリの波が届いている。KOLが観光地や商業施設などを実際に訪れてライブで紹介。リアルタイムに視聴者とやり取りをしながら、ニーズに応じて詳しく紹介していくなど、双方型の動画コミュニケーションが普及してきている。

例えば、銀座の商業施設「イグジットメルサ」のケース。今年2017年8月6日に実施された「ゆかたで銀ぶら2017」というイベントに、中国出身のレポーターたちが参加。「中国人観光客目線で楽しむ」というコンセプトで、銀座4丁目の和光から中継を開始、歩行者天国の銀座の街を歩きながら、イグジットメルサに到着。5・6階に入っているラオックスで浴衣をレンタルして着替え、サングラスをかけながら顔面を照射するLEDの美容機器を体験、アパレル店舗でも視聴者の好みを聞きながら試着するなど、インタラクティブなライブを実施。 途中、打ち水や和太鼓、氷細工といった、浴衣祭りにも参加し、その後館内のレストランで食事。蟹の食べ放題の店で、店長がさばいてくれた蟹を食べ、蟹みそが付いている甲羅に日本酒を流し込んで温めて飲んだりと堪能。最後には、PLAZAで実施していたバーバパパのキャンペーンで購入したグッズを視聴者プレゼント。約3時間にわたるこのライブコンテンツは145万PV、いいね88万件、コメント数2800件と大きな反響を呼び、配信直後から7~8人のグループがレストランに入っていくなど、ダイレクトに店舗誘導にもつながる結果となった。

アプリ画面

他にも、「洋服の青山」が銀座店でライブを実施。在日中国人の男女を招待し、メンズスーツ・レディースオフィススタイルの選び方について、店員のアドバイスを受けながら、体験・習得してもらう企画を配信した。中国語が話せる店員による説明だけでなく、店長のスーツに対するノウハウも同時通訳で紹介したところ、コンテンツの視聴数が増加。こちらも最後に「1週間以内にライブを見たと言って来てくれた方は、スーツ1着買ったら割引します!」と伝えたところ、終了直後にスマホを片手に持った中国人観光客が「今でも大丈夫ですか?」と来店してくるという結果になった。

ライブアプリの視聴者の多くは中国国内にいるため、配信後にすぐに来訪するケースは少数派。だが、中国人観光客は来日約1カ月前には情報収集を始め、「買い物リスト」や「行き先リスト」を作るため、そのリスト候補にあげてもらうことを狙っている。

「爆買い」から「爆体験」の時代になっていくと見られるこの先、「最高の日本体験」」をライブで伝える上記のようなインバウンドマーケティングがますます増加していくと見られている。


Billion Beats + Cross C山本達郎Billion Beatsは中国在住の日本人による中国人とのストーリーを集積するソーシャルプロジェクトで、山本はアドバイザー。株式会社クロスシー執⾏役員。慶応大卒。2006年に北京⿓楽広告有限公司(ログラス)を設⽴、2015年に同社買収に伴いクロスシー執⾏役員に就任。著書に『中国巨⼤ECサイト タオバオの正体』『中国版ツイッター ウェイボーを攻略せよ!』『いま押さえておきたい 中国ネットマーケティング最前線 WeChat(微信)を活用した最新プロモーション事例』。

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