クリントン陣営の不正暴露本が発売——党の負債肩代わりする見返りにサンダース氏を不利に?

2016年大統領選挙の民主党候補だったヒラリー・クリントン元国務長官の選挙陣営が自らに有利になるように、民主党全国委員会(DNC)を牛耳るといった「不正」をしていたとする「暴露本」が11月7日(現地時間)発売され、民主党は震撼している。

選挙時のクリントン氏

Hilary Clinton delivering a speech during the election

REUTERS/Kevin Lamarque

"Hacks: The Inside Story of the Break-ins and Breakdowns that Put Donald Trump in the White House"(乗っ取り:ドナルド・トランプをホワイトハウスに入れた横取りと衰退のインサイド・ストーリー)を書いたのは、選挙中、DNC暫定委員長を務め、元CNNコメンテーターとしても有名なドナ・ブラジルさん。「民主党の顔」とも言える彼女が著書で、クリントン陣営の「不正」や、クリントン氏が肺炎にかかり、公の場で倒れかかったため、候補者の変更を検討したことまで書いた。

今、まさに、トランプ大統領の陣営がロシア政府と選挙を巡り共謀した疑いがある「ロシア疑惑」の捜査が本格化し、ワシントンが混乱する中、クリントン陣営も「不正」を働いた可能性が、暴露本で突如浮上した。

ブラジルさんが暫定委員長に就任したのは、DNCのメールが大量に流出する事件が起き、大統領候補を絞り込む民主党全国大会の直前に、当時のDNC委員長が辞任したため。事実上党の選挙マシーンの「ボス」だった。

民主党の負債を解消する代わりに

米政治サイト「ポリティコ 」が公開した書籍の抜粋によると、前任のデビー・ワッサーマン・シュルツDNC委員長は、 党の人事や戦略について「ニューヨーク・ブルックリン にあったクリントン選挙本部のやりたいようにさせていた」という。前任の「ボス」が候補者を絞り込む予備選挙の段階で、すでにクリントン氏に肩入れしていたことを示す。

また、抜粋によると、クリントン陣営は実質的にDNCの業務や立案、財務、コミュニケーションを牛耳っていた。これによって、有力な対立候補だったバーニー・サンダース上院議員が不利になるように操作していたという。DNCとクリントン陣営の間では、民主党が抱えていた負債を解消するための合意文書が交わされ、これにより、クリントン陣営は党の財務や資金管理を任せられていたとしている。

ブラジルさんは、「これは犯罪というわけではないが、私が見る限り、党の道徳的な潔癖さは損ねられた」とコメントしている。トランプ陣営の「ロシア疑惑」のように、法に触れる可能性はないが、道徳的に問題があるという指摘だ。

ドナ・ブラジル氏の写真

Former chair of the DNC, Donna Brazile

REUTERS/Richard Bria

民主党は大統領選挙で敗れ、連邦議会の上下両院も共和党に多数派を取られたため、2018年の中間選挙、2020年の大統領選挙での挽回を図るためにあがいている。次期大統領選の有力な候補者は見つからず、いわば劣勢にある。そこで「不正」が暴露されたことは、有権者の信頼を損なう恐れがあり、打撃は避けられない。

2020年選挙の大統領候補としても人気がある重鎮のエリザベス・ウォレン上院議員(マサチューセッツ州)は、CNNに出演した際、暴露内容を否定しなかった。

CNNアンカー「単刀直入に、これ(民主党内の選挙プロセス)は、不正に操作されたと思いますか?」

ウォレン議員「(当たり前だというように、目を見開きながら)イエース!」

健康理由に検討された候補者交代

トランプ大統領は、ウォレン議員のコメントを受けて早速ツイートした。

「共謀の真実の話は、ドナ・Bの新しい本だ。根性がひねくれたヒラリーは、DNCを買収し、気が触れたバーニーから予備選挙をもぎ取った」

若者に大人気だったサンダース氏の支持者からは、DNCや党幹部を批判する声が上がっている。

サンダース氏は予備選挙の得票率では、1320万票と、クリントン氏の1690万票に約300万票差と肉薄した。ただ、選挙人の数ではクリントン氏に大きく差をつけられた。2016年7月末に開かれた民主党全国大会では、サンダース氏を支持するバーモント州の代表がクリントン氏の支持を拒否し、サンダース氏自らが、大会会場のフロアに降りて代表を説得するまでの人気があった。

また暴露本では、大統領選中の9月、ニューヨークで開かれた米同時多発テロの追悼式典に参加したクリントン氏が倒れかけたことを受け、ジョー・バイデン副大統領(当時)との候補交代を真剣に検討したとしている。クリントン氏の健康状態が、必ずしも万全でなかった可能性がうかがい知れる。

この新刊に対し、クリントン陣営マネジャーのロビン・ムック氏は連日、内容について反論している。ブルックリンの選対本部が「ボーイズクラブ」であったとか、「お葬式のような雰囲気で」運営されていたと書かれていたからだ。

ブラジルさんはABCとのインタビューで、暴露についての批判があることについてこう述べた。

「私に黙れという人たちには、くたばれと言いたい。私は自分の話をしている」

(文・津山恵子)

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