左から、アマゾンジャパンのAlexa担当シニアマネージャのカレンルービン氏、Amazon本社のAlexa担当上級副社長トム・テイラー氏、アマゾンジャパン代表のジャスパー・チャン氏、右はアマゾンジャパンの音楽事業本部長のポール・ヤマモト氏。
11月8日、アマゾンはAIスピーカー「Amazon Echo」(アマゾンエコー)の日本上陸会見を開催。来週11月13日週から、購入希望登録したユーザー向けに順次、出荷すると発表した。上陸するのは、廉価モデル含め3機種。価格は5980円から1万7980円だ。
Google Homeを下回る低価格と、特別プラン月額380円の音楽聴き放題「Unlimited」が武器
AIスピーカーをめぐって国内参入の動きは、ここ数カ月立て続けに起こって来た。LINEの「Clova WAVE」(8月)、グーグルのGoogle Home(10月)と来て、時系列としての日本参入の最後発はアマゾンになった。
しかし、市場シェアという点ではこの順序はまったく逆で、アマゾンこそがAIスピーカーというジャンルを作り上げた会社であり、また全世界数千万台の出荷実績をもつ圧倒的勝者だ。
そのAIスピーカーの戦い方を熟知したアマゾンが打ち出してきたのは、「お急ぎ便」のプライム会員向け価格も含めた、徹底的な「低価格」戦略だった。製品ラインナップは次のようなものになる。
※スピーカー出力端子はすべてステレオピンジャック
アマゾンエコーの価格展開について説明する、Amazon本社のAlexa担当上級副社長トム・テイラー氏。
本体価格のみならず、連携サービスの「低価格」も強力だ。同時上陸した収録約4000万曲の音楽聴き放題サービス「Music Unlimited」はAmazon Echo所有者向け価格として月額380円(通常は月額980円・ファミリー向け月額1480円など)を打ち出した。ライバルのグーグルの聴き放題は月額980円。月あたり600円、年間では7200円の差額がつく計算で、国内の同等サービスと比較しても相当に安価な水準で「勝負」をかけてきた形だ。なお、現時点ではAmazon.co.jpの商品を音声で買い物する機能はない。
AIスピーカーの拡張機能「スキル」のパートナーは、265種でスタート
アレクサのスキル対応を表明する企業の一部。タクシー予約からスシローまで幅広い。
Amazon EchoのAIアシスタント「アレクサ」は、開発者や企業が自由に連携機能を開発できる「スキル」を特徴としている。AIスピーカーは今日の天気や音楽を聴くのは「ほんの入り口」でしかなく、さまざまな家電やWebサービス、ニュースサイトなどとの密な連携が、この先の体験の良さを左右する。
アレクサの場合、ニュースサイトの最新記事を読み上げる「フラッシュニュース」機能連携では、本誌Business Insider Japan含め複数のメディアが対応。またJR東日本などの「運行案内」、ラジオを聴けるradiko、東京MXなどの一部テレビ放送、回転寿司スシローの予約まで、グーグルやLINEと比べても「極めて多い」といえる265種類の展開からスタートする。
実機は日本語認識も正確、歌もうたうAIアシスタント「アレクサ」
スタンダードモデルの「Amazon Echo」。表面は布風のファブリック仕上げでリビングに馴染むデザイン。
最廉価モデルの「Amazon Echo Dot」。プライム会員価格で3980円というのはグーグルやLINEという競合からすると脅威だろう。
最上位モデルの「Amazon Echo Plus」。単体でスマートホームのハブ機能(Zigbee通信)を持つのが特徴。ただし、他のEchoシリーズもWiFiは内蔵しており、WiFi経由での対応周辺機器コントロールは可能。ハブ機能の有無でどの程度の体験の違いが出てくるのかは今後の対応機器の数による。
発表会場は、リビングやダイニングをイメージした専用のセットを用意し、相当に手の込んだものだった。詰め掛けた記者たちの人数が多いこともあって、周囲はそれなりにガヤガヤとうるさい状態。それでも「アレクサ、今日の天気を教えて」「アレクサ、何か音楽をかけて」「アレクサ、ライトを点けて」といった音声コマンドは、まったく問題なく認識していた。
この認識精度の良さには、まず7つのマイクを統合的にコントロールしてノイジーな環境での集音性能を向上する「ビームフォーミング」というアマゾンが得意とする集音技術が生かされている。そして日本語の自然言語認識はアマゾンAWSのクラウド処理技術のパワーも使っている。
短時間試してみた限りの印象では、少なくとも認識の良さとレスポンスの速さはGoogle Homeと同等かそれ以上だ。これまで、日本語認識という点で、アマゾンのアレクサがどんな認識性能を持っているのかは謎のままだった。詳しくは実機を触ってみて判断したいと思うものの、第一印象は極めて良かった。
一方で、厳しい立場になるのは特に認識精度に不満を持つ声がきかれるLINEのClova WAVEの存在だ。今回のEchoの上陸で、相当思い切った戦略転換が必要ではないか、という印象を強く感じざるを得ない。Google Homeも、既存のハードウェア価格、音楽聴き放題のサービス料金では、魅力のアピールは難しくなる。
ちなみに、Amazon Echoには実は他社にはない大きなハードウェア上の特徴がある。音楽を外部出力するステレオピンジャックが標準装備なのだ。LINEのClova WAVEもGoogle Homeも使って来た身として、いつも残念に思っていたのは、「良い音でちゃんと聴きたい」ときに自宅のスピーカーに接続する手段がないことだった。Echoでは、その点も解消される。
また、テクノロジー好きのギークがニヤリとする機能としては、アレクサの「歌」がある。「歌を聞かせて」などというと、アレクサが「テクノロジー、テクノロジー」とオリジナルソングを歌う有名な隠し機能だが、これがなんと日本語化されていた。
背面のAUX-OUTというのがステレオピンジャックの音声出力。
世界で最前線を走って来たAIスピーカープラットフォームだけに、ユーザーからはさまざまな改善要望の声が届いているはずで(全世界のアマゾンでの評価件数は10万件だそうだ)、音楽の外部出力への対応もそうした要望を汲み取った成果なのかもしれない。
アマゾンの担当者によると、当面の販売は、Amazon.co.jpから「招待メール」登録をしての順番待ちのみに限っており、いつでも即日買える状況になる時期は「未定」とのことだ。
(編集部より:初出時、アレクサのスキル数を265社としておりましたが、正しくは265種となります。 2017年11月9日 17時30分修正)
(文、写真・伊藤有)