シャープ、メルカリらが支援、国内初のLTE内蔵スマートロック「TiNK」発売

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tsumug社の牧田恵里社長。手に持っているのはTiNKの内鍵(室内ボディ)。内鍵は、実際にはドアに装着した「10キー」(室外リーダー)とドアを隔てた反対側に取り付ける。

スマートロックのベンチャー、tsumug社は11月9日、従来から開発を進めていた、国内初のLTE通信内蔵のスマートロック「TiNK」(ティンク)シリーズを製品化し、同日から法人受注を開始すると発表した。製品はドアに取り付ける「TiNK C」と、マンションなどの集合玄関に取り付ける「TiNK E」。まず、法人向けの出荷を2018年初めより開始する。一般向け販売は販売チャネルなども含め、追ってTiNKの公式サイト上で発信していく。コンシューマー向けの出荷は2018年8月ごろを予定。

一般販売向けの価格は、ロック本体が4万9900円、LTE回線の初期設定料が9800円、鍵の開け閉めに使う回線使用料含むランニングコストは月額500円。

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新たな資金調達も発表。シャープ、メルカリファンド、さくらインターネットからそれぞれ出資を受ける。

ただし、先行する法人向け出荷については、パートナー企業(主に賃貸不動産業者と思われる)向けに端末料金無料で提供、初期設定料金と月額モデルなどで回収していくことで急速な需要立ち上げを狙う。

なお、tsumug社は製品発表に合わせて新たな資金調達先も公表。従来のABBALabや個人投資家などのほか、TiNK発売に合わせてメルカリファンド・シャープ・さくらインターネットらからも資金調達した。

アプリ、10キー、FeliCaでも開閉できるスマートロック

日本ではこれまで、ソニーと投資会社WiLがジョイントベンチャーとして開始してその後子会社化した「Qrio Smartlock」や、「NinjaLock」、「Akerun」といったハードウエアスタートアップの先行事例がある。

ただし、過去の先行事例が互換性優先で内鍵のサムターン部分にモーターを取り付ける「後付け」型だったのに対して、TiNKは鍵のシリンダーそのものを交換する。法人需要を強く意識した設計になっている。

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TiNK公式サイトより。サイズなどが確認できる。

一方、スマートロックとしてのTiNKの機能は、過去の先行事例と似ている。ただし、常時接続のLTE内蔵になったことで開閉のリアルタイム通知や鍵のコントロール、セキュリティーとしての「確かさ・安心感」が特徴になっている。

鍵の開け閉めに応じて、利用者のスマホ端末に「鍵が空いた」「誰かがノブを回して開けようとしている」「鍵が閉じた」といった通知を受け取れるイメージだ。

tsumug社によると、オプションでたとえば子供が入室した場合に通知する(300円)など、サービス自体もマネタイズに取り入れ、新たなビジネスモデルも模索する。

鍵の解錠・施錠は専用のスマホアプリのほか、外鍵側に取り付ける10キー、FeliCaの3種類に対応する。10キーがあるため、フィーチャーフォンしか持っていない人に対しても、ワンタイムキーや恒久的なキーをメールやSMS経由で伝えることができる。

複数の充電バッテリーで3カ月間LTE通信可能

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室内ボディに内蔵したバッテリーを取り出す様子。バッテリーは側面からスライドして着脱。左右どちらからでも取り出せるようにデザインされている。

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TiNKの室内ボディをシリンダー側から見た所。シリンダーを回すためのしっかりとした構造になっているところが、従来の後付け型スマートロックとは全く違う。対応するシリンダー錠を増やすため、アタッチメント開発を今後進めていくという。

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TiNK室内ボディの表側。クオリティ高い表面仕上げで、見た目のプロトタイプっぽさはほぼない。

LTE通信内蔵ということでバッテリー駆動時間が気になるが、TiNKには内鍵側に2つのリチウムイオン充電池(2つ合計して容量は8000mAh程度)、その他に最低10回の開閉ができる予備電池を搭載している。tsumug社の牧田社長は「充電池2つで、およそ2〜3カ月程度使い続けられます」と説明。実際には1つのバッテリーが空になって2つ目を使い始めたら、取り外して充電する、というのを交互に繰り返すような使用感になりそうだ。

LTE通信については、最新のApple Watch Series 3が採用する省電力通信技術として知られる、LTEカテゴリー1を使用。これを、資金調達先の1社でもあるさくらインターネットのIoTプラットフォーム「sakura.io」のライセンス(プロトコルライセンス)などを使った独自開発の通信モジュールでコントロールする。

製造ノウハウをバックアップするのはなんと「シャープ」

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シャープの量産アクセラレーションプログラムの第1号がTiNKだった。シャープの知見をスタートアップに生かそうという新たな試みだ。

TiNKは「LTE内蔵」「開錠は10キーもスマホもOK」「充電池で駆動」というユニークなスマートロックだが、製造も一風変わっている。

鴻海精密工業傘下で再建をはかるシャープの「量産アクセラレーションプログラム」の第1号企業なのだ。この枠組みは、シャープがこれまで家電を製造するなかで蓄積してきた量産設計や品質、信頼性確保のノウハウを使ってスタートアップをサポートするというもの。製造工場の選定といった部分にも、シャープのノウハウが生かされる。

牧田社長や関係者によると、製造・在庫には多額のコストを要するため、まずは一定のまとまった受注が見込める法人向けに製造を開始し、その後、来年8月をめどに一般向け販売に乗り出したいという。

将来の計画としては、アパマンショップホールディングスなどと連携し、2021年までに100万世帯への設置とサービス提供を計画している。

■関連リンク:
TiNK公式サイト
SHARP Blog「量産アクセラレーションプログラム」

2021年の導入目標国内100万件はアパマンショップの取り扱い賃貸物件数を参考にしている。

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既存鍵がスマートロックになることによって恩恵を受ける暮らしのイメージ

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将来は提携サービス事業者による留守中の宅配や家事代行サービスなども視野に入れる

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TiNKが採用する2つのIoTプラットフォーム。sakura.ioについては月額回線コストがTiNKの場合で60円程度と非常に安く済むため、トータルで月額500円という低価格なランニングコストを実現できたと説明。

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(文、写真・伊藤有)

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