「クラウド売上1兆企業」が高層300m社屋を作る理由 —— セールスフォースの強さを「タワー」で垣間見た

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セールスフォースによるイメージ写真。326メートルは東京タワー(332.6メートル)とほぼ同じ高さだ。建築作業はマンパワーにして250万時間。ピーク時には800人が作業した。

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サンフランシスコに新名所が誕生する。61階建て、高さ326メートルの超高層ビル、その名も「セールスフォース・タワー」。 クラウドベースの顧客管理(CRM)プラットフォームで知られる セールスフォース・ドットコム の新オフィスだ。

2018年初めに竣工を見込むこの巨大なオフィスビルは、存在そのものにセールスフォースのマーケティング上の狙いがありそうだ。

高さは東京タワーとほぼ同じ、シカゴ以西では最も高い

セールスフォース・タワーは、シカゴ以西では最も高いビルになる(※)。61階から上の9フロア分は電気や通信などの設備用だが、アーティストのジム・キャンベル(Jim Campbell)氏による1万1000個のLED電球を用いたパブリックアートが設置され、外からも、その優美な曲線を描く建物を楽しむことができる。

※シカゴには高さ442メートルを誇る全米2番目のウィリス・タワーがある。なお、アメリカで一番高い高層ビルはニューヨークのワールド・トレード・センターだ

セールスフォース・タワーのあるエリアは、サンフランシスコのダウンタウンを貫くマーケット通りの南側にある。金融街とも隣接している。持ち主はボストンプロパティーズで、セールスフォースは2014年にリース契約を交わし、命名権を得た。契約金は15年で5億6000万ドル(約636億円)と言われている。

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港まで続く目抜き通り、マーケットストリートを歩くと、そびえ立つタワーが見えてくる。すでにランドマークの風格十分だ。

実は筆者がセールスフォース・タワーを見学するのは、昨年に続き2回目だ。昨年は1階には立ち入れず、工事用に外付けされたエレベーターに乗って、当時訪問可能な最上階だった35階へ上がった。地上100メートル以上の高さで、窓はなく、風が吹くとかなりの恐怖だった記憶がある。

2016年タワー建設時の様子

2016年タワー建設時の35階の様子。転落防止のために打ち付けられた板の先は、地上100メートル以上の空中だ。

今年は1階から入り、ビル内のエレベーターを使って61階へ。案内してくれたスタッフによると40秒以内に61階まで上がれるとのことだった。

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建築中の1階のロビーを抜けてエレベーターへ。

最上階の61階は窓がはめられており、安心(?)してサンフランシスコ市内の眺望を楽しむことができた。館内はエレベーターを中心に360度歩くことができる。

眼下には、今年17万人が参加した セールスフォース のイベント「Dreamforce 2017」の会場であるモスコーンセンターはもちろん、ベースボールスタジアム「AT&Tパーク」、観光名所のユニオンスクエアなどが広がる。「超高層ビル」と呼ばれて来たトランスアメリカ・ピラミッド(260メートル)は、もはや見下ろされる側だ。

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中央左の尖った高層ビルがトランスアメリカ・ピラミッド。高さ260メートルあるビルを見下ろす風景は圧巻。


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サンフランシスコ湾を背中に、市内を眺める。

最上階がCEOのオフィス「ではない」ことには理由がある

この最上階は同社のCEO、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏のオフィス……ではない。セールスフォースの企業文化である“Ohana”(ハワイ語で“家族”の意味)フロアとして、顧客、コミュニティー、従業員のためのスペースとなる。

訪れると、すでにキッチンエリアの工事が始まっていた。セールスフォースはこの61階のほか、60階、3階-30階、39階、44階を借りる計画だ。そのほかにはショップなどの小売業がオープンするほか、アクセンチュア、日本上陸が話題の企業価値2兆円のコワーキング企業WeWorkなどの大手企業が入居すると報じられている。セールスフォースの入居は2018年1月より段階的に始まるが、すぐ近くにあるオフィスビル(Salesforce West、Salesforce East)はそのまま。同社はサンフランシスコ地区だけで7000人の社員を抱えており、成長計画のもとで社員増員中だ。

61階の様子

工事中の61階の様子。

地震大国の日本人としてはこれだけの高層ビルとなると耐震性も気になる。もともとこのエリアは地震が多く、埋め立て地区でもある。現場のスタッフは「しっかりした耐震設備だ」としか答えてくれなかったが、この地区で想定される最大の地震に耐えられるように設計されているという。

「サンフランシスコの市内にオフィスがあることが重要」

サンフランシスコを中心としたベイエリアは、グーグル、アップル、Facebook、オラクルと大手、ベンチャー企業がひしめく地域。グーグルやFacebookが郊外に巨大なキャンパスを設けてシャトルバスで社員を送迎しているのに対し、中心地のタワーをオフィスとするのはなぜか? セールスフォースの不動産担当コミュニケーションのベニー・エバートザボス(Benny Ebert-Zavos)氏は、「セールスフォースは拡大している。タワーは我々の拡大と潜在的な伸びしろを象徴するものだ」と説明する。「我々は18年前にサンフランシスコのテレグラフヒルで生まれた。サンフランシスコの企業であり、市内にいることが重要」と続けた。

実はセールスフォースはタワー好きで、セールスフォース・タワーの名を冠した建物は他にもある。すでにアメリカ国内ではインディアナ、ニューヨーク、イギリスのロンドンにもセールスフォース・タワーがあり、サンフランシスコは4つ目。ベニオフ氏はタワーが好きなのだろうと推測するしかないが、同社はこのタワーのごとくクラウド業界の頂点を登りつめつつある。

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最上階付近からの眺望のイメージ。左奥に見える赤い橋はゴールデンゲート・ブリッジだ。

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セールスフォースのベニオフ氏は数年前に「クラウドソフトウエア企業で初の100億ドル企業を目指す」と述べ、その後ライバルのオラクルが「セールスフォースより先にクラウドの売り上げ100億ドルを達成する」とライバル宣言した(ライバルではあるが、ベニオフ氏はオラクル出身で、創業時にオラクル創業者のラリー・エリソン氏の支援も受けている)。

一方のセールスフォースは直近会計年度の売り上げ予想を104億ドル(約1兆1800億円)としており、そのまま行けば目標到達になる。なお、ベニオフ氏によると、セールスフォースはソフトウエア市場最速で売上高が100億ドルに達した企業だという。サンフランシスコの街をそびえるタワーは、同社の急成長ぶりを象徴するタワーでもあるわけだ。

Salesforceの成長

セールスフォースはソフトウエア企業最速で売上高100億ドルの階段を登りつめている。

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マーケティング上手な企業がこだわる「ランドマーク」

セールスフォースは創業時から(ソフトウエア企業であるにもかかわらずソフトウエアをインストールする必要がないことから)「ノー・ソフトウエア」と言ってみたり、ここ数年は動物や人間のキャラクターを使うなど、独特の手法をもつマーケティング上手な企業としても知られる。

セールスフォースはタワーの5階に直結される、この地域の新しいターミナル駅の命名権も取得していて、「セールスフォース・トランジット・ターミナル」になる予定。また5階周辺はふんだんに緑を取り入れた設計になるようで、「セールスフォース・パーク」と呼ばれることが決まっている。

セールスフォース・トランジット・ターミナル完成予想イメージ

セールスフォース・トランジット・ターミナル完成予想イメージ。まさに空中庭園だ。

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建設中の「空中庭園」。

これらセールスフォースの社名を冠したランドマークの存在は、最高のマーケティングと言える。

なにせオラクル社員であっても、ターミナル駅に向かう時に「あと15分でセールスフォース駅に着く」と口にすることになるのだから。

(文・末岡洋子)


末岡洋子(すえおか・ようこ):IT系ライター。アットマーク・アイティで記者を務めたのちにフリーランスに。欧州のICT事情に明るく、デジタルと教育、社会などについても関心を持っている。

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