「ユニクロのキラキラワードの裏の顔も知ってほしい」潜入記著者、横田増生さんに聞く

『ユニクロ帝国の光と影』でユニクロの労働現場の問題を指摘したジャーナリストの横田増生さんが、最新刊『ユニクロ潜入一年』を出版した。実際1年にわたり、アルバイトとしてユニクロの3店舗で働いた経験から見えてきたグローバル企業の現場とは —— 。常に拡大成長をし続けなければならない呪縛にとらわれたグローバル企業の実態について、横田さんに聞いた。

ユニクロ

撮影・今村拓馬

治部れんげさん(以下、治部):『ユニクロ潜入一年』では、ご自身、ユニクロの店舗でアルバイトとして勤務し、「内側から見たユニクロ」を描いています。店長によって個人差はあるとはいえ、パワハラ発言が当たり前の現場に驚きました。私はビジネス誌記者だった2000年代前半に、柳井正会長を含めユニクロに取材しており、仕事は厳しいけれど優良企業のイメージだったので……。

横田増生さん(以下、横田): 正面からの取材には、良い人しか出さないと思います。例えば、「ユニクロの先進性」を表す事例として「障がい者雇用」の話題になることがあります。確かにユニクロの障がい者雇用率は高い。ファーストリテイリンググループとしての障がい者雇用率は5.35%(2016年6月1日時点、会社発表)。一般民間企業の法定雇用率が2.0%(厚労省「障がい者雇用率制度の概要」)ですから、数字からは良い会社に見えます。

ただし、実際、障がい者がきちんと働けているかは店長次第です。ある店舗で働いているときにいじめを受け、辞めさせられそうになった障がい者の方を取材したことがあります。10年ほど働いているベテランのアルバイトの方が「この人(障がいを持つスタッフ)に仕事を教える分、時給を上乗せしてほしい」といった発言もしています。ひどいですよね……。

「全員経営」を時給1000円に求めるな

治部:表と裏でずいぶん違いますね。 優良と言われる企業でも、匿名の場では批判が出てくるのが普通です。そうした中でも横田さんがユニクロを特に問題だと感じているのは、どうしてでしょうか?

横田:ユニクロはキラキラしたキーワードを提示するのがうまいので、外から見ているだけだと現実が分からないこと、だと思います。例えば「全員経営」と言って皆にやる気を出させようとしたりします。

ユニクロと同じく店舗がたくさんある携帯ショップを考えてみます。販売する時は熱心に説明してくれるのに、ちょっとしたアフターケアで質問をしに行くと、非常に面倒くさそうにされることがあります。彼・彼女たちのあからさまに面倒くさそうな態度からは、その仕事が大変なものだ、という現実も伝わってきます。だから、これから携帯ショップで働こうと考える人は、マイナス面も分かった上で現場に入ることができる。

質問に答える横田さん

イオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店の3店で実際働いた横田さん。

Business Insider Japan

一方、ユニクロを外から見ているだけだと、裏の顔は見えないんです。働く人には、表の顔と裏の顔を知った上で就職してほしい、と思います。

柳井さんの著書『一勝九敗』で彼は、店長の年収は1000万円を超える、と書いています。実際、1000万円を超えるのは800人いる店長のうち、10人程度の「スーパースター店長」だけ。普通の「店長」と「スーパースター店長」は全然違うのに、そこを説明しないのは、どうかと思います。私はそのことを指摘しているのですが、版を重ねているのだから、指摘されたら修正すべきではないでしょうか。

柳井さんは「全員経営」というキーワードを掲げていますが、時給1000円のアルバイトにそこまで求めるなとも思います。一方で、そういうキーワードを唱えるわりに、現場で私などが「もっとこうしたら」と提案しても、全く取り入れられませんでした。嘘ではないけれど実態とは違うことがユニクロには多い。

治部:店舗は人手がいつもギリギリで全く余裕がなく、丁寧な接客ですら「無駄」と決めつけられるなど相当きつそうですが、喜んで働いている人もいるのでしょうか?

横田:それが、一定数います。ユニクロには年に2回5月と11月、感謝祭という「勝負どころ」があり、ここの売り上げが年間売り上げにも大きく影響するので、その数日間は本当に店舗は大変なのです。普段とは比べ物にならないほど多くのお客さんが来店するので、休憩室でもスタッフはくたくたなのですが、中には「お客さんがたくさん来て、嬉しい!」とテンションが高い人もいました。ユニクロ的な働き方に「はまった」例と言えるでしょう。

安い人件費で作りリアル店舗で売る限界

リクルート用のパンフレット

ユニクロの店舗にはスタッフ採用のチラシが置いてある。

Business Insider Japan

ただ外の世界を知っている人は、はまりません。本を読んだという従業員の方が手紙をくれました。異業種からの転職組で、ユニクロが「こんなに苦しいというのは間違っていない」と書いていました。一方で「高校を卒業してすぐユニクロに入社して、ユニクロ教にはまる人はやばい」「感謝祭がこわいです」とも書いています。

治部:アルバイトのマネジメントにも問題が大きいと感じました。契約内容にかかわらず、暇な時期は休ませて、繁忙期はLINEで直前に人をかき集める。これでは、働く人は収入の見通しを立てられません。

横田:お店が暇になると「このままだと倒産する」と騒いで、アルバイトを休ませていました。倒産するわけなんかないのに、おかしいと。おそらく、国内のユニクロは売上高人件費率を10%程度に抑えようと考えていたのでしょう。人件費が増えると(株主への)配当が減ってしまいますから。ユニクロの大株主は柳井会長を含む一族です。

ユニクロで働いているアルバイトの人たちは、家族の誰かの被扶養者であることが多かったです。主婦であれば夫、学生であれば親の扶養に入っている。生活がかかっているわけではなかったので、会社は労働時間の調整をしやすかったのかもしれません。ただ、外国人留学生の中には「ユニクロはダメよ」とはっきり言う人もいました。他にもっと時給の高いアルバイトはある、ということでしょう。

雨漏りするビニール壁の家で暮らす労働者

治部:海外生産拠点のルポでは、徹夜労働を含む劣悪な環境や、まともな生活ができない実情を描いています。他社で「搾取工場」が問題となった話は20年以上前からありましたが、まだこんな状況なのか、と驚きました。

横田:もう、人件費が安いところで作ってリアル店舗で売るというビジネスモデルは限界がきていると思います。僕は海外労働者を取材するときは、家を見せてもらいます。生活水準が分かりますから。本には写真も載せましたが、ユニクロ製品を作る工場で働く人はビニールの壁で雨漏りする、家と言えないようなところに住んでいます。こんなところで作った製品がユニクロの利益になっているのか、と思いました。

最初にお話ししたように、ユニクロは表の顔を作るのが上手です。香港にある企業寄りのNGOでは、ユニクロがバングラデシュで進める女性向け教育事業について説明を受けました。東京のベンチャー企業のようなリッチなオフィスで、きれいなパンフレットを見せてくれた。

スタッフに「ここから近い深センのユニクロでストライキなど問題が起きているけれど、そういうことは扱わないのか」と聞いたら、ごまかされました。一方で、別のNGOでは、途上国労働者の人権を守るためにユニクロが製造委託している工場に潜入し、実態を暴いています。

柳井さん、一度でいいから店舗で働いてみてほしい

インタビュー後の様子

治部:もし、柳井さんに会えたら、何を伝えたいですか?

横田:前著『ユニクロ帝国の光と影』で、どうして出版社(文藝春秋)を訴えたのか聞きたいです。柳井さんが文春を訴えなければ、この2冊目はなかった。

僕がちょっと取材して分かるようなことは、社内でも指摘されていたはずなのです。訴訟だって「やめたほうがいい」と周囲から言われたと聞いています。なのに、どうして踏み切ったのか。本にも書いた通り、ユニクロ側は有効な反論ができずに裁判は文藝春秋が勝ちました。その過程で、あなたは何を思ったのか、聞きたいです。

経営の話もしたいですね。もう少し、人を大事にした方がトクなんじゃないの? と問いたい。時給1000円ではアルバイトが集まらなくて、店長が苦しんでいることを知っていますか? 時給を上げれば利益は下がる。でも、良い人が集まって長期的には会社のためになりませんか、って。

海外工場の労働者を柳井さん自ら見てほしいです。3日でいいから現地に行って、彼・彼女たちがどういう環境で働いて生活しているか、見て欲しい。これが持続可能でしょうか?

最後に、柳井さん自身が一度、感謝祭の店舗で働いてみてほしい。きつさが分かると思います。「柳井レジ」を作ってくれたら、僕は1時間、2時間、いや3時間待ってもそこで買い物しますから。

(文:治部れんげ、写真:Business Insider Japan)


横田増生(よこた・ますお):1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号取得。帰国後、物流業界紙記者、編集長を務め、1999年フリーランスに。主な著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』『中学受験』『ユニクロ帝国の光と影』『仁義なき宅配 ヤマトVS日本郵便VSアマゾン』など。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい