僕がFacebookやグーグルでなくユニコーン企業で働く理由——シリコンバレー転職事情

職種を問わず人材の移動が激しいシリコンバレーの転職事情。退職する社員をアルムナイ(卒業生)と呼ぶ企業もあるなど、その捉えられ方も日本とは大きく異なる。シリコンバレーで働くミレニアルたちはどんな価値観で会社を選んでいるのだろうか。1991年生まれの2人に取材した。

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オラクルから社員5人のスタートアップへ

ボボさん

「休日はテック系の勉強をすることはないですね。普通にゲームとかしてます(笑)」(ボボさん)

ボボ・リー(Bobo Li)さんは、2010年にカリフォルニア工科大学を卒業し、オラクルとピクサーでソフトウエアエンジニアとしてインターンを経験した後、オラクルに新卒で入社した。

大企業の優秀な社員からスキルを学びたいとオラクルを選んだが、実際の職場は想像とは違っていた。

上司は同じオフィスどころか、ボボさんの働くカリフォルニア州から遠く離れたニューハンプシャー州におり、ほとんど面倒も見てくれない。会社の規模が大きいため個人の裁量も小さく、同僚も受け身の姿勢で働いていると感じた。成長していくどころか、スキルが退化するのではないかという焦り……。結果、7カ月で転職を決意する。

当時積極的に次の仕事を探していたわけではなかったが、偶然、大学のルームメイトから、彼が働いていたロビンフッド(Robinhood)というスタートアップを紹介された。

Robinhoodのオフィス

ロビンフッドのオフィス。今でも毎週のように新しい社員が入社しており、数カ月後には新しいオフィスに引っ越すそう。

ロビンフッドは、手数料ゼロで株式の売買ができるアプリだ。今でこそ企業価値も13億ドル(約1460億円)のユニコーン企業だが、ボボさんが入社した2012年当時は社員5人、株式サービスを手掛ける前で、企業名も今とは違うものだった。 それでもボボさんは入社を決めたのはなぜか。

何よりも引かれたのは、ロビンフッドで必要とされるスキルでした。Python Djangoというプログラミング言語を使い、複数の機能が動くようサーバーコードを書いていました。これは希少性の高いスキルなので身につけておきたかった

Robinhood社のエントランス

会社のエントランス。今は120人ほどが2つのビルで働いているそうだ。

最初はバックエンドエンジニアとして、実際のプラットフォームのサーバーコードを担当。転職から5年半が経った今はプログラムの問題を発見するチームのマネジャーをしている。異動や昇進のスピードが速いところにも成長のチャンスを感じている。いまではグーグルやFacebookのような大企業で働くことは考えられない。

自らの成長とともに、会社の成長も間近で見てきた。手数料は無料、口座開設の最低限度額もないロビンフッドのユーザーのうち、25%が初めての株式投資だというデータもある。2017年時のユーザーの平均年齢は30歳と、ミレニアル世代からの支持も厚い。

今ロビンフッドには、ボボさんのように大企業を辞めた20代が続々と入社してくるという。

Robinhood社のオフィス

ランチタイムにはケータリングが用意されている。和気あいあいとした雰囲気で昼食をとっていた。

なぜ、優秀な人材が集まってくるのか? その質問に、カリスマ的な創業者の訴求力はとても重要だ、とボボさんは答える。

ロビンフッドの創業者は、ブルガリア移民のブラッド・テネフ(Vlad Tenev)氏とインド移民のバイジュ・バット(Baiju Bhatt)氏。ヴラッド氏は2016年、28歳でForbes 30 under 30に選出、起業して5年で会社を時価総額10億ドル(約1120億円)超のユニコーン企業に育て上げた。

そんな「アメリカン・ドリーム」の体現者であるカリスマ的創業者によるブランド、そして社員の間の良い評判が優秀な新卒や転職者たちを呼び込むいいサイクルが生まれている、という。

MIT卒生もトレンドは西海岸で働くこと

ジェニファー・チェンさん

「(東海岸にある)ニューヨークは多様性の街。シリコンバレーで働いてみると、どこに行ってもエクイティ(株式)とかプログラミングの話をみんなしていて、少し飽きることもあります(笑)」(ジェニファーさん)

金融系やレガシー企業が多く拠点を持つ「東海岸」から、テックの聖地「西海岸」へ転職するケースも目立つ。ジェニファー・チェンさんは、ボストンにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピューターサイエンスと数学を学び、東海岸にある証券会社に就職、のちにUberへ転職した。

前職はニューヨークにあるKCGホールディングスという証券会社。データサイエンスのスキルをもとに証券トレーダーとして社会人の道を歩み出した。

少し前まで、MITやハーバード大学など東海岸の名門大学を卒業した学生はウォール・ストリートをはじめとして、金融系の仕事に就くことが“王道”だった。しかし今、そのトレンドは変わってきている。

多くの学生がコンピューターサイエンスを学び、西海岸のテック企業に行くことを望む。長時間労働が問題視されている金融系企業とは異なり、テック企業は比較的リラックスした職場環境が整備されていることが人気の理由だと、ジェニファーさんは語る。実際、ジェニファーさんはモルガン・スタンレーでのセールスだけでなく、グーグル、アップル、Quoraといったテック企業のインターンも経験したという。

今、コンピューターサイエンスを学んだ6〜8割の学生は大手のテック企業に就職し、残りは起業するか、規模の小さいスタートアップに参加しているイメージです

Uber社内のカフェラウンジの一つ。

Uber社内のカフェラウンジの一つ。ジェニファーさんの部署の勤務時間は10時〜18時だが、24時間使えるサービスのため、夜遅く残っているチームもあるのだそう。

証券会社時代、ジェニファーさんは次第に高頻度取引(コンピューターがミリ秒単位以下の速度で超高速の自動発注を繰り返して大量売買する取引)による「ただお金を生むだけ」のビジネスに違和感を覚え始める。

高頻度取引においては、コンピューターの性能を最大限に高め、他の会社よりも一番早く取引をする企業がほとんどの利益を得る。「勝者総取り」のし烈な業界で、トップではないジェニファーさんの勤務先からは優秀な人材が続々と流出する状況になっていたという。

ジェニファーさんも、2016年末にUberに転職することを決意。数あるオファーの中でUberに決めた理由は、やはりUberのサービスが自身の人生を変えた、という原体験があったからだ。Uberが存在しなかった2012年以前は、呼んだタクシーが来るまでに45分かかり、値段も高く、チップも必要、クレジットカードが使えないときもある、などととにかく面倒だった。

「(自分で使ってみて)これは世の中を変えるな、と実感したサービスは初めてでした」

インターンとして働いていたとき、データ分析や機械学習といった自分が勉強したい分野を実務としてできたことも決め手になった。

今はデータサイエンティストとして働いている。業種は大きく変わったが、仕事内容は前職と似ており、仕事の半分はプロダクトに関するデータを集めることだ。もう半分は、Pythonというプログラミング言語や統計を用いて、将来の顧客需要を予測をするモデルを構築すること。進歩が速い世界なので、実際の仕事の中で勉強し、技術を身につけていくことが求められている。

Uber社のオフィス

オフィスの中心には誰とでも会話ができるよう、広々としたラウンジが設置してある。

Uberには「人々がどのように移動したか」を含む交通に関するデータが膨大に蓄積されている。

「ですが、その多くがまだ活用されておらず、大きなポテンシャルを秘めているところにも、魅力を感じています」

最近CEOが辞任するなど、いいニュースは少ないUber。だが、ジェニファーさんが所属するデータサイエンティストのチームにはその影響は直接はないという。

ジェニファーさん自身、今のところは次の転職や起業はまだ考えていない。だが1、2年経験を積めばより良いオファーが来ることは予想がついている。「もっと研究がしたい」。より良い環境を与えてくれる職場があれば、転職も検討したいと考えている。

(文・写真:瀧澤優作・小柳歩、編集・西山里緒)


瀧澤優作:1995年生まれ。大学3年次に休学してサンノゼ州立大学へ。2017年7月からアメリカの大学生向けメッセージアプリを作るスタートアップ、Loopに参画、グロース・マーケティングを担当。シリコンバレーを中心に海外情報を日本のミレニアル世代に届けたいと、休日に取材をしている。

小柳歩:1990年生まれ。東京生まれ、ロサンゼルス育ち。カリフォルニア工科大学で機械工学を学び、スタンフォード大学院でコンピューターサイエンスを専攻。その後、シリコンバレーのユニコーン企業でソフトウエアエンジニアとして働く。自身の経験や経歴を生かし、より日本人が海外で活躍できる環境を整えるため情報発信している。

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