いま、ブロックチェーンが世界を侵食しています。
その影響はメディアとマーケティングにも及んでいます。ただし、ブロックチェーンの新しい用語には混乱がつきもの……。
今回の「一問一答」シリーズでは、電子通貨の所有者が互いにスマートコントラクトを作成できるようにするブロックチェーン対応プラットフォーム「イーサリアム(Ethereum)」を説明しましょう。
—— イーサリアムとはビットコインのようなもの、で合っていますか?
少し違います。どちらもブロックチェーンを利用するシステムで、情報を保管するための分散型フレームワークの一種ですが、ビットコインは暗号通貨で、イーサリアムはスマートコントラクトのプラットフォームです。
—— すでに混乱してきました。
詳しく説明しましょう。インターネットは、サードパーティによって保管された情報やデータにアクセスしたり、それらを移管できるようなシステムのうえに構築されています。例として、Appleが利用者のクレジットカード情報を保有したり、Flickr(フリッカー)が写真をホスティングしたりするのを考えるといいでしょう。利用者は、Apple Payを使ってオンラインで決済したり、Flickrの写真やギャラリーにリンクを張って共有したりできます。
イーサリアムは、ユーザーのデータの所有とコントロールをサードパーティから、もともとのユーザーへと取り戻します。各人のデータと情報は分散ノードに保管され、それがいつどのように使われるかは、所有者自身が(イーサリアムの創設者たちが「スマートコントラクト」と呼ぶものを使って)決めることができます。スマートコントラクトは、自動でも、手作業でも、あるいは両者の組み合わせでも利用可能です。プログラマーはイーサリアムにより、各人のデータを利用するコードを書くことが可能になるのです。
—— 繰り返しますが、それがメディアとどのような関係があるのですか?
可能性としては大いに関係があります。ただし、ブロックチェーンがアドテクなどに取って代わるまでには、いくつかハードルがありますが。たとえば新興企業のパピルス(Papyrus)などは、プログラマティック広告の配信方法をイーサリアムで管理し、個人情報のどの部分を広告主が利用できるようにするかをインターネットユーザーが決められるようにしたいと考えています。その場合、広告主とパブリッシャーは、個人情報の価値についてエンドユーザーと交渉できます。
分散型ジャーナリズムプラットフォームの新興企業で、500万ドル(約5.7億円)の資金調達ラウンドを最近完了したシビル(Civil)は、パブリッシャーと読者の直接的な関係を促進する仕組みとして、スマートコントラクトを利用することを目指しています。読者はこの環境で、ペイウォール内コンテンツのサブスクリプションから、プロジェクト単位の調査費用の提供まで、さまざまなことを実行できるようになります。
ユーザーはさらに、2018年に新規通貨公開(ICO)で売り出される予定のイーサリアム対応通貨を使い、新設されたジャーナリズムベンチャーのオーナーシップを買えるようになる可能性さえあります。
—— イーサリアムには専用の通貨がありますか?
イエスともノーとも言えます。イーサリアムには「イーサ(Ether)」という独自の通貨があります。しかし、イーサリアム互換通貨を開発者が独自に作ることも可能で、その通貨の利用ルールは、開発者が設定できます。
—— でも、それらの通貨はドルやセントとは別物なのですよね?
そうです。そしてこれは重要なポイントです。イーサとそのライセンスされたトークンのすべてはごく新しく、サポートできる取引の量が限られています。
たとえば、イーサは2014年のローンチ時に9000万枚作成され、コインマーケットキャップ(CoinMarketCap)によると、イーサリアムの時価総額は280億ドル(約3.2兆円)を少し超える程度。インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)によると、米国における2016年のデスクトップ向け広告費の総額に25%近く足りなかったといいます。仮にイーサリアムの経済エコシステムの全通貨をデジタルメディアに向けたとしても、明日デジタル広告に追いつくような状況には遠く及ばないのです。
作成される通貨の数は、必要に応じて増えるので、イーサリアムが力強く進むという考えが根を下ろすならば、この問題は次第に小さくなっていくはずです。
—— FacebookとGoogleが嫌いそうな話ですね。
そうです。GoogleやFacebookやAmazonが行使している力の大半は、膨大な数のオーディエンスと、収集されたオーディエンスデータが源泉です。データをユーザーの手に戻すビジネスやパラダイムは、いかなるものも難題をもたらす可能性があります。
Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)
DIGIDAY[日本版]より転載(2017年11月5日公開の記事)