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ロボットが人間の仕事を奪いにやってくる。それは以前から知られていたし、多かれ少なかれ、本当のことだ。
米ITサービス大手「コグニザント(Cognizant)」が出版した著書『What to do when machines do everything(機械が全てを行うとき、人間は何をすべきか)』は、今後10年から15年で、アメリカの仕事の12%が機械に取って代わられるだろうと予測している。
しかし、望みはある。
コグニザントは、新しいテクノロジーによって、2100万もの新たな雇用が生み出されるとも予測しているのだ。不安を払拭し、未来に備えるため、コグニザントは今後生まれるであろう21の新しい職業を報告書にまとめた。
「きわめて重大なことが起きていると知らせたかった」と語るのは、コグニザントの「仕事の未来センター(Center for Future of Work)」の所長で、同社のバイスプレジデントでもあるベン・プリング(Ben Pring)氏だ。「注意を払っていれば、この問題に対処する時間はまだ十分にある」
報告書は、未来の人事部が作成するであろう職務内容を想定して書かれている。中には、想像力をフルに働かせなくてはならない職業もあれば、比較的イメージしやすい職業もある。
未来の求人情報をチェックして、ロボット時代のキャリアを考えてみよう。
データ調査官
Reuters/Ilya Naymushin
データの専門家であるこの職業は、IoT機器やメッシュ、ニューラルネットワークなどから収集したデータを解析し、企業や組織にデータに基づいた洞察を提供する仕事だ。こうした職業が誕生するのは、容易に想像できる。企業はすでに、製品を売るために、時間やお金を注ぎ込んで消費者のデータを分析している。未来のデータ調査官は、そこからさらに一歩踏み込んで、「よりよい」サービスを提供すべく、個人が所有するAIアシスタントのAmazonアレクサ(Alexa)やGoogleネスト(Nest)から集めたデータを調査・分類する。
歩き仲間/話し相手
Flickr / Paul Kelly
バイオテクノロジーのおかげで人間がかつてないほど長生きし、高齢者が増えたときに登場するのがこの仕事だ。こうした高齢者は皆、話し相手が必要になるだろう。職務内容はまさにその名の通りで、同伴者を必要とする高齢者と一緒に歩いたり、彼らが孫や古き良き時代について話すのを聞くことだ。
サイバーシティー・アナリスト
Andy Scales
サイバーシティーを維持するためには、データが都市の中を効率よく「流れて」いなくてはならない。未来の都市では、無数のセンサーが収集した膨大な量のデータに基づいて、電力供給やごみ収集などのサービスがスムーズに提供される。都市が収集するデータには、バイオデータや市民に関するデータ、資産データも含まれる。生体追跡センサーが故障したら、サイバーシティー・アナリストが現場に出向いて修理をするだろう。
AR(拡張現実)ストーリービルダー
Microsoft HoloLens
ARストーリービルダーは「経験経済のパイオニア」だ。はるか昔のシェイクスピアのように、この職業は次世代のエンターテインメント体験を生み出す。職務内容は、ユーザーがARの世界に「トリップ」するためのリアルな拡張現実体験の設計で、脚本やデザインも手掛ける。
人工知能(AI)ビジネス開発マネジャー
REUTERS/Fabrizio Bensch
これは、AI主導のコンピューティングサービス企業での仕事だ。コグニザントはこの職業について、「いまだAIにできない、見通しうる将来においてもできないことが1つある。それは、自らを売り込むことだ」と書いている。この仕事は、AIコンピューターサービスを売り込む営業職なのだ。
フィットネス・コミットメント・カウンセラー
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残念ながら、我々の社会は肥満社会だ。「フィットビット(Fitbit)」などの活動記録は役に立つが、ユーザーを走らせて健康にすることはできない。未来の社会では、人々はアクティビティー・トラッカーを身につけ、フィットネス・コミットメント・カウンセラーがそのやる気を引き出して健康を維持する。
AI支援付きヘルスケア技師
AP Photo/Rich Pedroncelli
AIのおかげで「全ての人が広くオンデマンドで医療を受けられる」世界に、この仕事は存在する。患者はもはや病院に出向く必要はない。AI支援付きヘルスケア技師が自宅を訪れ、AIが搭載されたソフトウエアを使って診断を下すからだ。AIの支援を受けた手術を行う可能性もあるが、医師免許は必要ない。
個人データ・ブローカー
Sarah Jacobs
未来の世界では、自らが生み出す全ての個人データを使って、稼げるようになる。フェイスブック(Facebook)がアマゾンにユーザーデータを売ることはもうない。データは個人のものとなり、それを売って利益を得るのも本人だ。個人データ・ブローカーの仕事は、新たに誕生するデータ取引所において顧客の個人データを監視、取り引きし、彼らが相応の収益を確保できるようにすることだ。
高速道路コントローラー
AP/Eric Risberg
自律走行車と配達用無人機(ドローン)によって、道路や上空の管理方法は根本的に変わる。高速道路コントローラーは、道路や上空を効果的かつ効率的に管理・運営するために必要だ。
デジタル・テーラー
Kevork Djansezian/Reuters
デジタル・テーラーは、コグニザントの報告書に登場する「Saville Rowanator sensor cubicle(サヴィル・ロワネーター・センサー付き個室)」と呼ばれるデバイスを開発した、架空の女性向きeコマース企業の職業だ。
このデバイスがあれば、買い物客の正確なサイズを計測したデータが収集できるので、返品率を下げることができる。デジタル・テーラーの仕事は、このデバイスを客に案内し、サイズデータを収集、ぴったり合った服を販売することだ。
遺伝子多様性責任者
Flickr/dullhunk
「雇用における機会均等」という考え方には、新たな意味が加わる。雇用主は、民族やジェンダー、社会学的背景の多様性を確保するだけでなく、従業員が遺伝子的に強化された人とそうでない人の両方で構成されるようにしなくてはならない。
「シャドーIT」ファシリテーター
AP Photo/Itsuo Inouye
この職業はいわば、企業におけるスーパーIT担当者だ。仕事の主な目的は、シャドーIT(企業の従業員が私物のIT機器を業務に利用すること)と、職場のポリシーを連携させ、自動化されたセルフサービス式のITプラットフォームを構築することだ。職責には、シャドーIT運営チームの統括、イノベーション・ハッカソンの実施、シャドーIT利用のメリットについての従業員教育が含まれる。
ファイナンシャル・ウェルネス・コーチ
REUTERS/David Gray
紙幣と硬貨が姿を消し、ビットコインのような仮想通貨による決済や少額融資(マイクロレンディング)が普及した世界では、「お金が漏えい」する可能性が高い。こうした新しいシステムは、一般の人には複雑すぎて理解するのが難しい。ファイナンシャル・ウェルネス・コーチは、個人の全デジタル取り引きを追跡・記録し、お金を有効に使えるよう支援する。
個人の記憶キュレーター
Drew Angerer/Getty Images
人間の寿命はかつてないほど延びたが、記憶やその他の脳機能にかかわる医療の進歩は追いついていない。記憶キュレーターの仕事は、クライアントと協力し、彼らが住む仮想世界を構築することだ。こうした「体験」では、クライアントの過去がリアルにシミュレーションされる。例えば、子どものころに過ごした実家のリビングが再現されたりするだろう。キュレーターはまた、個人が記憶を失った後に体験したいと考えている内容を記録した「記憶に関する事前ステートメント」の管理も行う。
仮想店舗シェルパ
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未来の世界では、買い物はもっぱらオンラインで行われる。例えばソファを買いたい場合、仮想店舗シェルパのビデオリンクに接続するだけでいい。シェルパは、巨大な倉庫のような店舗をバーチャルで案内し、客が求める商品を見つけられるよう手助けする。
遺伝子ポートフォリオ・ディレクター
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遺伝子解析ならびにゲノム編集技術CRISPRのおかげで、人間の健康に関する新たなニーズが生じている。そして、バイオテクノロジー企業はこのニーズに応える、膨大な量の新薬を製造することができる。遺伝子ポートフォリオ・ディレクターは、こうした医薬品を一般に売り込むための戦略立案を行う上級管理職だ。
人間と機械のチーム構築マネジャー
YouTube/iPhone-Fan
コグニザントによれば、未来の仕事は、人間と機械がいかにうまく協力し合えるかにかかっている。チーム構築マネジャーは、機械と人間それぞれの強みを見極め、それらを組み合わせて最高の生産性を誇るチームを作る責任を持つ。
最高信頼責任者
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未来では、投資家はかつてないほどつながり合い、情報通になるため、組織の透明性は高まらざるを得ない。一方で、仮想通貨の秘密取り引きが広がり、至るところで疑惑が生じる可能性もある。最高信頼責任者(Chief Trust Officer)は、そうした疑惑を払拭し、投資家に対し、彼らが出資する企業ができる限り誠実に経営していることを証明する義務を負う。
量子機械学習アナリスト
Erik Lucero/UCSB
量子機械学習アナリストは、これまでにない新しいタイプのアナリストの仕事だ。職務は、現実のビジネス上の課題を解決できるよう、量子情報処理と機械学習を組み合わせて、より早く、より良いソリューションを提供すること。最終目標は、データから学習するインテリジェンス・システムの構築だ。
エッジ・コンピューティングの専門家
Argonne National Laboratory/Flickr
この仕事は、現在のIoT基盤はもはや十分ではないと気付いた、架空のフォーチュン500企業でのポジションだ。エッジ・コンピューティング(コンピューターネットワーク上で、利用者に近い場所に多数のサーバーを配置し、負荷の分散と通信の低遅延化を図る)の専門家は、現在の「ハブ&スポーク型」のインターネット基盤を徹底的に見直して、エッジ・コンピューティングを活用した分散型へと転換する。その膨大なデータ量から、より多くのスペースと処理能力を必要とする未来の企業に欠かせないものだ。
倫理的調達責任者
Thomson Reuters
大企業が利益ではなく、倫理に照らし合わせて決断を下したいと考えたときに登場するのがこの仕事だ。倫理的調達責任者(Ethical Sourcing Officer)は、環境フットプリントに似た「倫理フットプリントを維持」すべく、企業の間接支出が株主の価値観と一致するよう監視する。例えば、ある企業の株主たちが、「人道的な労働」を主な優先事項に掲げた場合、倫理的調達責任者が全ての工場に足を運び、あらゆるレベルにおける労働条件を監視するのだ。
(翻訳:遠藤康子/ガリレオ/編集:山口佳美 )