“売上1兆円”目前のセールスフォース、文系CTOのロールモデルは「イーロン・マスク」(現地インタビュー)

Dreamforce2017のゲート

11月6日〜9日までサンフランシスコ市内で開催されたDreamforce 2017。セールスフォース関連エンジニアのお祭りだけに、ゲートから会場の作り込みまで豪華だ。

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会場となったモスコーンセンター。

創業わずか18年でSalesforce.com(以下、セールスフォース)はソフトウエア企業トップ5の仲間入りを果たした。早期にSaaSモデルを構築した同社を、マーク・ベニオフ氏とともに支えてきたのが共同創業者兼CTOのパーカー・ハリス氏だ。ハリス氏にセールスフォースの強さの秘密を聞いた。

技術企業でありながら、技術の優先度は低いという。その理由は?

売上高100億ドル(1兆1200億円)達成目前、「強さ」はどこにあるのか?

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セールスフォースの年次イベント「Dreamforce 2017」の基調講演を行うハリス氏。円形のステージにとどまらず、放射状の観客席を歩きながらスピーチするというスタイルだ。

—— 創業から18年間成長を続けています。ソフトウエア企業として最速で100億ドル企業に昇り詰めようとしていますが、強さの秘密はどこにあるのでしょうか?

パーカー・ハリス氏(以下、ハリス):1つ目として、優先順位がきちんとあること。2つ目として、顧客中心であり顧客の話を聞いていること。3つ目が、企業をどのようにオペレーションするか。この3つが成功の鍵だ。

オペレーションではセールスフォースは「V2MOM」というプロセスを構築している。Vision(目標は何か)-Value(目標の中で重要なものは)-Methods(目標をどう達成するのか)-Obstacles(達成の障害になるものは)-Metrics(目標の達成をどう把握するか)だ。全てこれに基づいてチェックしている。

迅速に動くためには、約3万人いる従業員を連携させ、合意していかなければならない。これは人間の問題であって、技術ではない。従業員全員が会社の方向性に協調して作業する状態はとてもパワフルだ。セールスフォースが企業として何かにフォーカスすると決めると、素晴らしい結果が生まれる。

このように、優先順位づけ、顧客主義、協調・団結 —— 我々は創業時からこれを重視しており、すべての社員が入社して最初の1週間でV2MOMを学び、NPOにボランティアに行く。例外なしに全員がやっている。

—— ボランティアといえば、1-1-1モデル(*1)もセールスフォースの大きな特徴です。

ハリス:創業時にセールスフォース・ファウンデーションを作った。マークは還元することを大切にしており、企業が大きくなってからではなく最初から組み込みたいと思ったからだ。このような考え方が、従業員がセールスフォースで働きたい・働き続けたい、顧客がセールスフォースとビジネスをしたいと思う理由になっている。売り上げ100億ドル到達は大きなことだが、セールスフォースには社会を良くする、そのために還元するというさらに大きなミッションがある。

(*1)1-1-1モデルはベニオフが考案した社会貢献活動のモデルで、製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を社会貢献活動にというもので、社員は年7日の有給ボランティア休暇に自分が選んだ貢献活動をできる。また、非営利団体には無償もしくは割引価格でセールスフォースのサービスを利用できる。すでに社員がボランティア活動に費やした累計時間は110万時間以上、助成金は1億ドル以上に達している。グーグル、(法人向けファイル共有サービスの)Boxなど多数の企業がセールスフォースにならい、1-1-1モデルを導入している。

Dreamforce2017の一コマ

Dreamforceの会場にはこんなボルタリングスペースも。100億ドル企業目指して高みに登れ!ということだろうか。

—— 企業の成長や競合において、技術はどのぐらい重要なのでしょうか?

ハリス:セールスフォースにとっては、技術よりも信頼、成長の方が大切。技術は3番目だ。私はCTOなので、技術が好きだ。だが、技術だけではやりがい、満足感は生まれない。あらゆるソフトウエア開発者が、自分が開発した技術を人が使うことを望んでいる。人の生活や社会にインパクトを与えているのかを気にしている。

セールスフォースのソフトウエアがアディダス、Tモバイルなどの企業、それにGirl Scouts、Red Crossなどの非営利団体にもインパクトを与えていることを誇りに思う。

ロールモデルは(テスラCEOの)「イーロン・マスクだ」

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—— あなたにとっての目指すべき「ロールモデル」は誰ですか?

ハリス:イノベーション、リスクをとるという点で私が賞賛しているのはイーロン・マスクだ。チャンスを活用し、様々なリスクを冒して電気自動車の会社を作ると言った。誰もできないと思ったが、今は成功している。

また、どうやって火星に行けるかとSpaceXを立ち上げた。宇宙は政府の分野だと思っていたが、今ではNASAのエンジニアがSpace Xに勤めている。

イーロンは複数の業界で障害を低くし、これまで不可能だと思っていたことを可能にしてきた。これはすごいことだと思う。

—— セールスフォースにとってイノベーションとはなんですか?

ハリス:顧客を見て、顧客が望むものをを届けるという顧客中心のアプローチをとっている。

多くの企業にとってイノベーションとは新しいアイディアを思いつくことのようだが、我々はなぜイノベーションするのか、なぜ必要なのかを常に考えている。

イノベーションのためにイノベーションをしているのではない。顧客を取り巻く環境は常に変化しており、セールスフォースの顧客企業が自社の顧客と接点を持つところにフォーカスしてイノベーションをしている。

創業から18年、これまでクラウド革命、モバイル革命、ソーシャル革命があった。現在はIoTとAIだ。世界経済フォーラムは“第4次産業革命”と呼んでいるが、顧客の期待が変わっている。

—— 顧客が何を望んでいるのかをどうやって測定しているのですか?

ハリス:様々な方法で測定している。Dreamforceなどのイベントは格好の場で、午前中はSMB(中小企業)のCIO(最高情報責任者)と会ったし、午後は我々が”Trailblazer”(開拓者)と呼ぶ管理者や開発者に会う。CTOである私にどんな機能を開発して欲しいのか、どんなところに困っているのかを伝えてくれるセールスフォースの中核となる人たちだ。

TrailBlazersの集まり

オンラインでは、「アイデア・エクスチェンジ(Idea Exchange)」として、顧客やパートナーが重要なことを伝える空間もを設けている。

一方で、顧客からの要望はなかったが機能として導入したものもある。チャットの「Chatter」などは、トレンドを見て開発した。コンシューマーインターネットなどからインスピレーションを得ることも多い。

創業時、マーク(共同創業者で現在CEOを務めるマーク・ベニオフ氏)はアマゾン(Amazon.com)にインスピレーションを得た。なぜ法人向けエンプラソフトウエアは、アマゾン(Amazon)で本を買うように簡単に機能を提供できないのか? ハードウエアを買って、ソフトウエアをインストールしなければならないのか、と。

これはマークのビジョンだが、私のアイデアはアップデートをシーズン(季節)ごとにすることだった。セールスフォースSalesforceは年3回最新版をリリースしており、つい先日、ウィンター(冬)版Winterをリリースしたばかりだ。季節はインストールするものではなく、やってくるもの。冬がきて、そのあとに春がくる。秋が来る—— ソフトウエアも同じようにしたかった。当時これは、それまでとは全く異なるソフトウエアの消費形態だった。サービスとしてソフトウエアが提供されるというモデルで、インストールする永続ライセンスとは異なる。今では多くの企業がこのモデルに移行しているが、我々が先行した。

3年で200億ドル企業に到達する「クレイジーな目標」

Dreamforece2017の会場内風景

Dreamforece2017の会場内風景。参加者の熱気であふれている。

—— 3、5年後のセールスフォースはどうなっているでしょう?

ハリス:今後3年で企業(の売上高)を倍にする計画をしている。18年かかって100億ドルに到達するが、次の200億ドルには3年で到達するというクレイジーな目標だ。

もう1つのビジョンとして、我々はBtoBカンパニーだが、BtoBとBtoCの境界が薄くなってきた。中心にあるのは、企業が顧客を知りたいというニーズだ。

(我々は)セールス、マーケティング、サービス、生産性の各分野でBtoB、BtoC、BtoBtoCを展開できる技術を、様々な規模の企業に向けて提供する。これは技術やアーキテクチャの課題で、私にとってはとても面白くエキサイティングな課題だ。

—— 大学では英文学が専攻でしたよね。文系CTOの強みは?

ハリス:14歳〜15歳の時、独学でプログラミングを始め、学校でコースもとった。だが、書くことも好きだったので文系に進んだ。だから深いレベルでは技術屋だが、私にはコミュニケーションスキルがある。コミュニケーションスキルは、顧客の声を聞き、それを技術に精通した人向けに変換する必要があるので、とても役立っている。

文系の人に伝えたいが、技術は怖くない。「Trailhead」(セールスフォースの学習サービス)で簡単に学ぶことができる。女性もウェルカムだ。技術業界にはもっと女性が必要だ。

(文、撮影・末岡洋子)


末岡洋子(すえおか・ようこ):IT系ライター。アットマーク・アイティで記者を務めたのちにフリーランスに。欧州のICT事情に明るく、デジタルと教育、社会などについても関心を持っている。

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