僕が会社を辞めてシェアエコ生活を始めた理由——家も収入も友人全てをまかなう

民泊のAirbnbや不用品を売買するメルカリなど、インターネットを介した個人間のシェア(売買)をする、シェアリングエコノミーが近年、広まりつつある。その魅力と可能性に惚れ込み、会社も辞めて人生をかけた男性がいる。今では住居も収入、人間関係まで、可能な限りシェアエコでまかなっているという。きっかけは、3年前に生まれて初めて東京に越してきた時の孤独感だった。

シェアリングエコノミー研究家の加藤さん。

シェアリングエコノミーに魅せられたきっかけは、東京の街で感じた孤独感だった。

JR中央線の三鷹駅(東京都三鷹市)から閑静な住宅街を10分程歩くと、交流型賃貸住宅「ソーシャルアパートメント三鷹」はあった。アパートまるまる一棟を、シェアして暮らすスタイルだ。こざっぱりとした造りの普通のマンションのようにも見えるが、玄関では靴を脱ぎ、ゲスト向けのスリッパに履き替えるのが大きな一軒家風でもある。

共用スペースのリビングを訪ねると、内装はウッド調で赤い大振りなソファが効果的に配置され、暖かみのある空間だ。リラックスした雰囲気の中で、居住者の欧米人女性が日本語の勉強をしていた。

住居者数は約50人、20代〜50代まで男女比は半々、大半が会社勤めだ。ゆったりした共用部分とは別に10.3平方メートル超〜13.5平方メートルの個人の部屋があって、家賃は個室の広さによって異なるが月額7万8000円〜10万円代。光熱費もWi-Fiも週5日の清掃代もランドリー使用料も含まれる。何よりここには、現代の集合住宅では手に入りにくい「住人とのつながり」がついてくる。

「住人同士の交流があって、趣味やテーマごとにいくつもLINEグループが存在しています。人と交流したいときは他の住居者と過ごせるし、一人になりたい時は個室まで直行できる動線もあります」

ソーシャルアパートメントの室内。

共用スペースでは住人同士の交流が生まれる。

そう話すシェアリングエコノミー研究家の加藤こういちさん(32)は、1年前にここに越してきた。

「東京は居場所のない街でした」

大学卒業後、生まれ育った愛知県の地方都市で就職。IT企業を経て通信販売会社のウェブマーケッターとして働きながら、28歳まで地元で暮らしてきた。 もともと友達づくりは得意ではなかったが、生まれた時から30年近くも住む場所でなら、気心の知れた仲間、助けてくれる友達はいるものだ。

ところが3年前、勤め先の会社が本社を移転したのをきっかけに東京に出てきたが、全く友達ができなかった。

「とにかく誰も知り合いがいなくて、週末に何をしていいのかすら分かりませんでした」

東京の街にはあらゆるものがある。遊びや買い物スポットも、文化的な娯楽も世界最高レベルで存在しているのに、「一緒に過ごす人がいないと、何も面白くない」。

「異業種交流会や、オフ会をネットで見つけては週末ごとに行きました。30回以上参加して人と話しても、友達は一人もできなくて。無料イベントは結局、ネットワークビジネスの勧誘だったりする。社交的でもなく、肩書きもない自分にとって、東京は居場所のない街でした

運命を変えた30分は3000円

流れを変えたのは、ネットで見つけたシェアリングエコノミーサービスだ。「スキマ時間を気軽に売買できる」とうたう、「Time Ticket(タイムチケット)」を購入してみた。ネット上のマッチングサイトで、そこでは起業のノウハウに英会話や家事代行と、あらゆる人の「30分でできること」が、自由に設定された価格で売買されている。

格安スマホへの移行について、詳しい人に頼んでみた。Facebook登録なので、身元がはっきりしているのも安心だった。 都合のつく週末に、行ったことのない駅で電車を降りて待ち合わせ、カフェで30分間「格安スマホ」について聞く。

インタビューに答える加藤さん

CtoC型経済の時代が来る。

「これが、すごく話しやすかったのです。何かテーマがあった方が話もはずむし自然でした。何度かタイムチケットを利用するうちに、気の合う人が出てきて、初めて東京でも友達ができたのです」

運命を変えた30分は、3000円だった。

そこから“シェアエコ”の世界が拓けた。まずはタイムチケットで、洋服選びのカラーコーディネートやSNS用のポートレート写真撮影など、実用的なことを頼んだ。家事代行、民泊、スキルシェアに自転車シェアとあらゆるシェアリングエコノミーサービスを使い始め、その評価をブログにつづるようになる。

楽しみはうまい棒2本でも

2015年版情報通信白書(総務省)によると、カーシェアリングや民泊の利用意向はいずれも2割超と、日本におけるシェアリングエコノミーの普及は発祥の地のアメリカや中国などに比べて著しく出遅れている。

「自分が“シェアエコ”を駆使した実験的生活をして、情報を整理・発信することで、業界に貢献したい」

6月には勤めていた会社を辞めて、シェアリングエコノミー研究家と名乗った。ウェブマーケッターとしてスキルの販売も始めた。学生時代からウェブサイトを作り、IT企業、通販会社と培ってきた経験を生かすことで、ウェブコンサルティングを中心に依頼が舞い込むようになった。

最初は月収5万円程度で、1日にうまい棒2本買うことだけが楽しみの生活でした

けれど、不思議と悲壮感はなかった。これからは「BtoC(企業対消費者間取引)ではなくCtoC(消費者間取引)の“シェアエコの時代”が来る」と確信していたからだ。

加藤さんのシェアリングエコノミーのサービス利用回数は累計310回、累計使用額304万円超(いずれも11月時点)。個人的に注目するサービスとして、タイムチケット以外にも以下を挙げる。

ココナラ…非対面で「得意」を販売するスキルシェアサービス。オンラインで完結するため地方在住者にも利用しやすい。サービスは過去3年で急成長。

タスカジ… CtoC型の家事代行。代行者と気さくに話ができたり、整理整頓へのアドバイスをもらったり、得意なことを重点的にやってもらったりと自由度の高いサービスが魅力。

ソーシャルアパートメント… 一人暮らしとシェアハウスの良いとこ取りをする交流型賃貸住宅。「共用部分が散らかる」「距離感が近すぎる」といった従来型シェアハウスの欠点を克服し、プライベートを確保しつつ適度な交流を楽しめる。

ReduceGO(リデュースゴー) …余剰食品のシェアリングエコノミーは、今後伸びるとみる。月2000円程度で1日2食「(生活圏)周囲の余剰食品をテイクアウト」できる。まずは東京23区でサービス展開が予定されている。

タイムチケットのサイト

出典:タイムチケットのプラットホーム上の加藤さんの窓口。

1時間1万8千円のスキル

会社を辞めて半年が過ぎた。現在も住居はソーシャルアパートメント、収入源はスキルシェアという“シェアエコライフ”を営んでいる。複数のスキルシェアサービスにウェブマーケッターとして登録。会計士事務所、企業、ブロガー、個人事業主を顧客にシェアリングエコノミーだけで現時点で月収30万〜40万円と、生計を立てることができている。

“シェアエコ”サービスで評価軸となるユーザーのクチコミで、上位にランクインするようになり依頼が相次ぎ、当初は1時間3000円だったサービスを1時間1万8000円の高値がつけられるように「育てられたことが大きい」という。

今秋はシェアリングシティを宣言した福井県鯖江市と連携し、“シェアエコ”による「地域活性化」のロールモデルづくりにも乗り出した。 “シェアエコ”はCtoC型のため、仕事からも友人知人が増え「驚くほど人間関係に恵まれるようになった」と感じている。

加藤さんの住む三鷹のソーシャルアパートメントの屋上からは、新宿方面へと抜ける東京の街が見渡せる。東京には、たくさんのモノと情報があふれているが、それを分け合える人がいなかった身には、味気のない街だった。

企業主導社会で失われていった人と人が自然につながる仕組みを、シェアリングエコノミーはゆるやかに再生できる」と実感する今。見知らぬ街だった東京の風景は、以前よりずっと、やわらかく眼下に広がっている。

(文・滝川麻衣子、撮影・今村拓馬)

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